「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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貴方の妃でいるために

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「相変わらずベストタイミングね、セレス。こうなるってわかってた?」
 
 背後にいる人物に向かって、レオノールは半身をねじりながら片手を上げた。

 予想外の訪問者に、もう一人の門兵がギョッとした様子で振り返る。

「あれだけの騒ぎがあれば、気づくよ。大きな魔力も動いたしね。……ノーキエへ行くの?」

「知ってるくせに、なんで聞いたの」

 現れたのは、紙包みと布に包まれた長い何かを担いだセレスだった。

 荷物をドサッと地面に置くと、セレスはレオノールの全身をザッと眺める。

「具体的なことはわかんないから想像したんだ。剣は大振り過ぎるんじゃない? 持ちやすいものを渡しておくよ」

 セレスは布をめくり、長剣をレオノールに差し出した。

 刃渡り80センチほどの幅広のロングソード。

 鞘から抜き放つと、磨き込まれた銀色の刀身が冴えた輝きを放った。

「うわあ、懐かしい! どこにあったの? ありがとう」

「今は宝物庫に保管してあるんだって。レオの相棒はこれじゃなきゃだろ。あと、これも。手間だけど、着替えて行きな」

 紙包みのほうは、レオノールが討伐旅行でいつも着ていた装備品の一式だった。

 皮鎧と革製のロングブーツ。

 革と金属パーツを合わせた篭手とグリーブ。

 この国の辺境で造られる防具の、最高傑作と言われるシリーズだ。

「ねえ、セレス。クラウディオ様はきっと怒ってるよね……。心配かけてごめんなさい、って伝えておいて」

 宝物庫と聞いて、これらの装備をセレスに託した人物の正体に気づく。

 レオノールが準備に手間取っている間に手配してくれたのだろう。

 セレスも隠す気はない。

「それは帰ってきた時にレオが直接謝ってよ。……どうせ僕も連れてってくれないんでしょ? 僕も騎士団所属で、ガライ卿の部下なんだけど」

「まあね、あっちも遠隔で魔法が使えるみたいだし、バレたら厄介だから。ごめんね」

「ちょっとキミ、妃殿下が着替えるから、あっち向いてて」

「えっ? 妃殿下が……あっ、いや、ですがここは」

「緊急時なんだから、しょうがないでしょ。すぐ済むから、声かけるまであっち見ないでよ」

 小言をいうセレスと挨拶でもするような気軽さで会話をしながら、レオノールは片手間で着替えを開始する。

 サッとベルトを外して、ズボンと上衣を脱いだ。

 セレスは勝手知ったる手際の良さで、門兵の両肩をつかんで向きを変えた。

 自身も背を向けてくれる。

 レオノールとしては、もう一刻の猶予もない緊急事態だ。
 
 多少の暴挙も大目に見てもらおう。

「セレス、もういいよ、ありがとね。行ってくるわ」
 
 籠手にブーツも着用し終えると、レオノールはセレスに声を掛けた。

 振り返って、現役時代より少し伸びた赤い髪をかきあげる。

 癖のある髪は、久しぶりのポニーテールだ。

「あ……あと、雨よけにこれを」

 セレスは鎧に足を掛けようとしたレオノールの肩に、自身の黒いローブを羽織らせた。

 不穏な雲行きの夜空を見上げる。

「金貨、左ポケットに入ってるから。携行食は鞍に下げとく」

「了解。本当にありがとう!」

 何から何まで、こんなに素早く準備してくれるなんて至れり尽くせりだ。

 できた旧友と愛しい夫の心遣いに感謝して、レオノールはぐるりと馬首を廻らせる。

 大きく息を吸い込んでから、遥か先の地、ノーキエへ向けて城を飛び出した。
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