「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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 豊満とまではいかないが、肉付きにも自信がある。

 国王陛下は確かに仰った。

「魔王オーグレイルを討伐した暁には望みのものを与える」と。

 レオノールはこの国で言うところの“勇者”だ。

 1000年に渡り人間の暮らしを脅かしていた魔王を倒し、平和をもたらした。

 勇者が国を救った暁には、王女を妻として与える。

 レオノールが持つ記憶の人生の中では、割とポピュラーな褒美だったと思う。

 しかしながら記憶は朧気で、確たる証はない。

 わかっていたのは、このまま黙って気持ちを無視したら、一生後悔するであろうこと。

 だから勢いに任せて口にした。

 クラウディオは黙ったまま不快そうに睨め付けるのみだった。

 なので、根負けしたレオノールが言葉を続ける。

「だから、ダメもとで申し上げたんです。貴方は美しいし、強そうだし、こんな機会二度とないと思って……。そんな、虫ケラを見るような目を向けるなら、どうしてもっと早く拒否しなかったのですか? もう儀式は全て済んでしまったのに」

「……一度発せられた宣言を取り消せば、臣民の信頼が揺らぐ」

 無表情・無反応を貫いていたクラウディオの瞳が、ようやく感情を映し出した。

 その視線には、冷たい憎しみと怒りが滲んでいた。

「俺は、この国の未来を担う王子だ。外交の駒として、己の意思を殺す覚悟くらいはあった。だが、それでも——戦場帰りの女丈夫が望んだからといって、その夜伽の褒美として俺を与えるなど、屈辱にもほどがある。俺がそう考えるとは……露ほども思わなかったか」

 クラウディオの影が、僅かに揺れた。

 ふと視線を落とすと、拳を握り締めた右腕がプルプルと震えている。

 そこで、レオノールはハッと気がついた。

 褒賞の授与式でも、成婚のパレードもずっと無表情を貫いていたこの人が、ずっと溜め込んでいた感情の大きさに。

 無表情なのではない、努めて感情を殺していたのだと。

 意に染まぬ婚姻だったが、責務を果たすために受け入れた。

(そうか、この人は……真面目なんだ。それもすごく。だから断れなかったのか。それで、とんでもない願いを口にした私を恨んだわけね。そんな配慮もできない女と同衾なんかできるか、ましてや愛するなど論外! と言いたいのか……)

 材料が揃った今、レオノールはクラウディオの胸の内をするすると読み解いた。

 なるほど。それなら何故、この後に及んでクラウディオが“愛まで望むな“と拒絶したのか。理由は頷ける。

「そうですね。……しかしもう、婚姻は成立してしまったのだし、前向きに努力をするほうが建設的なのでは」

 相手の意を汲み、理解できるところは同意する。

 魔王討伐の道中で身につけたその能力は、パーティメンバーを導くのに適していた。

 しかし、この場での正論は悪手の最たるものだ。

「自分の非は棚に上げて、俺には努力をしろと? 想像を絶する図々しさよ」

 クラウディオは鼻を鳴らし、嘲るような笑みを浮かべた。

 見下ろされたら、ゾッとするほど美しく、畏敬の念をいただいたかもしれない。

 だが、残念ながら身長差はほとんどない。

 クラウディオは忌々しそうに一瞥してから、ずかずかと大股で据え置かれた丸テーブルに歩み寄る。
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