将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら

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舞踏会

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 それだけなのに、この変貌ぶりはどういうことだろう?

(これはこれで、どう対応して良いのか分からないし……)

 オリヴィエは、心の中でぼやいた。

 それでようやく、オリヴィエはルーカスにどんな態度を取られても、困るのだと気が付いた。

(ほんと、重傷だわ……)

 オリヴィエは、ルーカスの視線から逃れるように、再び手元の地図に目を落とした。

「それで、明日の打ち合わせなんですが」唐突に、オリヴィエは話題を戻す。

「ああ、そうだった」

 ルーカスは思い出したように顔を上げたが、相変わらず表情は読めない。

 どこか上の空の様子だが、打ち合わせには真面目に対応している。

「私とお前は、リュート領主の縁戚に扮する。元々お前は伯爵令嬢だし、過度な演技は必要ない」

「リュート領主の? でも、今演技と言われて気付きましたが、団長は皇太子として顔が知れ渡っているのでは……?」

 どうして今まで気付かなかったのだろう?

 いや、オリヴィエが気付かなくとも、ルーカスやセルゲイが見落とすとも思えない。

「ボッカはアリシア国の統治下とはいえ、自主管理で伸び伸びとしたいのか、税を治めるだけで碌に政治にも参加してこない。だから、俺の顔など知る由もないさ。ただ、名前だけは間違えるなよ。俺はレヴァンシエル、だ。レヴァンとでも呼べばいい」

「レヴァン、ですね。了解しました」

 名前を偽るなんて、子供の頃のごっこ遊びのようだ。

 何となく楽しくなったオリヴィエの返事に、応えるようにルーカスは悪戯っぽく微笑んだ。

「それで、お前はレティーだ。俺は愛称の、レイと呼ぶ」

「はい……えっ? すると、リュート伯の縁戚とは」

 ルーカスの、雰囲気が、変わる。

 名前ではなく愛称で呼び合うだなんて、親しい男女のようだ。

「伯爵の孫娘はお前と同じ、銀髪だそうだ」

「えっ、私のほうがお血筋なんですか?」

 しかも、親し気な呼び方に釣られてルーカスを取り巻く空気まで軽くなった気がする。

「令嬢と、その婚約者という設定だ。令嬢は外国育ち、婚約者は学者筋であまり社交界に顔を出さない。人選はセルゲイに任せたんだが」

(セルゲイさんが。まさか)

 オリヴィエは、ルーカスの言葉の端々から、情報を読み取った。

 セルゲイは、オリヴィエがまだ、ルーカスを慕っていると知っている。

 2人を〝婚約者”という役柄に当てはめることによって、オリヴィエの気持ちを少しでも叶えてくれようと、気を回してくれたのか。

 まさか、オリヴィエの気持ちまでルーカスに明かしたのではないだろうか……とだけは気になる。

「……色々と、完璧だ。着任早々、応用力が試される任務で骨が折れるだろうが、お前がいてくれて良かった」

 どっきーん。

 と、胸の奥を弾かれたような音がする。

「警備状態なんかは、現場を見て判断するしかない。お前なら、普段通り振舞っても完璧な令嬢だ。レディーの素養と騎士の身体能力、両方を兼ね備えた人間は他にはない」

 どっき、どっきん。

(もう、駄目かもしれない)

 オリヴィエは、ルーカスの何気ない一言に胸を潰された。

(そんな風に褒められると、嬉しすぎるわ……)

 条件を褒められたにすぎないのに、喜びを噛み殺せない。

 どうしても、顔が笑いそうになる。

 それに、この様子から察するに、セルゲイはオリヴィエの気持ちを黙っていてくれたに違いない。

 その点も安心できた。
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