61 / 140
舞踏会の裏側
7
しおりを挟む
オリヴィエが止める間もない。
鋭く降ろした蹴りは、今度はハワードの頬を掠めた。
「ひっ」と、ハワードが短く叫ぶと、踵が、背後の幹にめり込む。
「ハワード・ベルモール公爵。俺の名前が、それほど重要か?」
縮こまり、顔を背けるハワードの胸ぐらを、ルーカスは掴み上げた。
「貴様、社交界に詳しいんだろ? この邸で怪しい動きをする奴らを、どのくらい知っている?」
オリヴィエは、はっ、と口元を押さえた。
必要以上に痛めつけたと思ったら、こんなところへ着地するとは。
「ひぃ、……えっ?」
「レティーの好奇を満足させる約束だったんだろう? できるなら、今回の件は見逃してやる」
「できなかったら……?」
ハワードは恐る恐る尋ねた。
「できなきゃ、貴様はただの強姦魔だ。強姦は極刑と決まってる――」
ルーカスに引き付けられて、ハワードはぶるぶると震え出す。
縋るような目を向けられても、同情する気は起きない。
ただただ、ルーカスの機転に感心するばかりだった。
***
オリヴィエが身なりを直して広間に戻ると、そこにベルモール公爵の姿はもうなかった。
あの後、ルーカスの尋問は小一時間に渡って行われた。
公爵は以前から、オリヴィエのように単独で行動をする婦人を狙って近づいては口説き、秘め事に及んでいた。
事実を知るごとに驚かされた。
しかし、もっとも驚いたのは、そう言った「情事」がごく公然と行われていた点だ。
情事だけに限った話ではなく、疑似恋愛を楽しむのが、上流階級の嗜みだそうだ。
政略結婚が常の世界では、珍しくもないらしい。
もちろん表立っては誰も話さない。
(私って、本当に世間知らずなのね……)
ルーカスはしっかりと把握し、前提のように話していたのに、オリヴィエは気づかず、まんまと罠に掛かった。
いや、そもそもは、気付かない娘をどうこうしようとした、ハワードが一番悪い。
それにしても、ハワードをボコボコにした上、目的の情報を引き出したルーカスの手腕には舌を巻いた。
それで丸く収めてしまうのだから、まさに「聖騎士団団長恐るべし」だ。
ハワードは有用なものから、そうでないものまでいろいろと吐いてくれた。
公にしない旨も、脅したりすかしたりして、宣誓させた。
最後はセルゲイに命じて、医者の元に送らせた。
ハワードの供述では、不倫の暴露がほとんどだったが、目的の知れない密会の目撃もあった。
今度はその人物へと接近する。
フェルナンド子爵と、子爵が良く出入りしている娼館の女主人だ。
女主人のほうは正体を明かさず、グレアと名乗っている。
表向きは子爵の側室で通っていた。
鋭く降ろした蹴りは、今度はハワードの頬を掠めた。
「ひっ」と、ハワードが短く叫ぶと、踵が、背後の幹にめり込む。
「ハワード・ベルモール公爵。俺の名前が、それほど重要か?」
縮こまり、顔を背けるハワードの胸ぐらを、ルーカスは掴み上げた。
「貴様、社交界に詳しいんだろ? この邸で怪しい動きをする奴らを、どのくらい知っている?」
オリヴィエは、はっ、と口元を押さえた。
必要以上に痛めつけたと思ったら、こんなところへ着地するとは。
「ひぃ、……えっ?」
「レティーの好奇を満足させる約束だったんだろう? できるなら、今回の件は見逃してやる」
「できなかったら……?」
ハワードは恐る恐る尋ねた。
「できなきゃ、貴様はただの強姦魔だ。強姦は極刑と決まってる――」
ルーカスに引き付けられて、ハワードはぶるぶると震え出す。
縋るような目を向けられても、同情する気は起きない。
ただただ、ルーカスの機転に感心するばかりだった。
***
オリヴィエが身なりを直して広間に戻ると、そこにベルモール公爵の姿はもうなかった。
あの後、ルーカスの尋問は小一時間に渡って行われた。
公爵は以前から、オリヴィエのように単独で行動をする婦人を狙って近づいては口説き、秘め事に及んでいた。
事実を知るごとに驚かされた。
しかし、もっとも驚いたのは、そう言った「情事」がごく公然と行われていた点だ。
情事だけに限った話ではなく、疑似恋愛を楽しむのが、上流階級の嗜みだそうだ。
政略結婚が常の世界では、珍しくもないらしい。
もちろん表立っては誰も話さない。
(私って、本当に世間知らずなのね……)
ルーカスはしっかりと把握し、前提のように話していたのに、オリヴィエは気づかず、まんまと罠に掛かった。
いや、そもそもは、気付かない娘をどうこうしようとした、ハワードが一番悪い。
それにしても、ハワードをボコボコにした上、目的の情報を引き出したルーカスの手腕には舌を巻いた。
それで丸く収めてしまうのだから、まさに「聖騎士団団長恐るべし」だ。
ハワードは有用なものから、そうでないものまでいろいろと吐いてくれた。
公にしない旨も、脅したりすかしたりして、宣誓させた。
最後はセルゲイに命じて、医者の元に送らせた。
ハワードの供述では、不倫の暴露がほとんどだったが、目的の知れない密会の目撃もあった。
今度はその人物へと接近する。
フェルナンド子爵と、子爵が良く出入りしている娼館の女主人だ。
女主人のほうは正体を明かさず、グレアと名乗っている。
表向きは子爵の側室で通っていた。
123
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる