将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら

文字の大きさ
130 / 140
退魔の輝き

11

しおりを挟む
 固唾を飲んで、ルーカスの言葉に聞き入る。

「お前の立場がどうなろうと、俺はお前を愛している。ずっと正直になれず、お前には辛く当たってしまった。詫びて許されるとは思っていないが、俺の心だけは覚えていて欲しい」

 ――は? 

 オリヴィエは咄嗟に言葉の真意を理解できない。

 何を言ってるの……?

 頭では理解が追い付かない中、心だけが素直に応答を示していた。

 急激に涙が込み上げて……落涙に至る。

「う……そ、団長が、私を……?」

「嘘じゃない。嘘だと思われても仕方ない振る舞いをしたが、俺はずっとオリヴィエを諦められなかった。立場的に聖女を娶らなければならない身だ。お前を幸せにしてやれる自信が……なかったために、いたづらに傷付けてしまった」

 ”嘘じゃない” と否定されても、信じられない。

 ルーカスと結ばれないことは、聖女選定に落ちた時から覚悟していた。

 それでも、未練を……抱えていたのは、オリヴィエだけではなかったのか。

「本当に済まない。未練がましい男だが……お前にまだ、ほんの少しでも俺への愛着が残っているなら、俺を信じて、待っていてくれないか」

 ルーカスは瞼を伏せた。

 手綱から右手を離すと、躊躇いがちに、指をオリヴィエの目元へ伸ばす。

「万事丸く収めてみせる」

「嘘じゃないの? 信じても、いいの? 今でも、私を……?」

「こんな場面で嘘を吐くほど、俺は愚かじゃない。本当はずっと、オリヴィエが好きだった」

 ルーカスはオリヴィエの右目の涙を優しく拭った。

 そんな台詞をルーカスの口から聞けたなら、どんなに嬉しく天にも昇る気持ちになるだろうと夢想していた時もあった。

 だが、実際にそんな場面に直面してみたら、そんなキラキラした感動に至らない。

 どちらかと言えば、夢を見ているようだ。

 これは本当に現実なのだろうか?

「返事を聞かせてくれないか?」

「わ、私は……」

 問いかけにオリヴィエは動揺した。

 ルーカスはまるで、オリヴィエの気持ちを既に知っているかのように落ち着き払っている。

 勿論返事は決まっている。今だって昔だって、ずっとずっと変わらない。

 そのはずなのに、唇が震えて言葉が出ない。

 オリヴィエには聖女の他に、もう一つ、問題を抱えていた。

 待てない。待つ時間がオリヴィエにはないと。そう、返事をしなければならない。

 しかし、それは心を引き裂かれるより辛い選択だった。

 これ以上は我慢できない。

「私、も……」

 オリヴィエは深く呼吸した。言葉を紡ごうと口を開いた瞬間、冷たい突風が吹く。

「私も、好きだった。ずっと、ずっと……っ」

 髪の毛が風で舞い上がり、睫毛を掠める。

 オリヴィエは堪らず目を瞑った。

 刹那、体温がぐっと近づいたかと思うと、唇に熱い感触が。

 さっと触れただけだったけれど、何が起きたのかくらいはオリヴィエにもわかった。

 ルーカスの身体は静かに離れ、微かな温もりだけが残った。

「ありがとう。……職務の域を超えたな。早く、戻ろう」

 ルーカスはオリヴィエの体勢を元に戻すと、また前だけを向いて馬を走らせる。

 オリヴィエは胸の高まりが治まらぬまま、ルーカスの横顔を黙って見上げる。

 もっと体を起こして向き直らなければ、正面から表情を窺えない。

 けれど仄かに耳たぶが赤く染まっている様が見て取れて、それ以上追及する気が潰えた。

 それから宿舎に着くまでの時間は、まさに至福だった。

 暖かくて、心地いい。宿舎がずっと、遠ければいいのに。

 いつしか、ルーカスに秘匿した罪の意識など吹き飛んでしまうほど、オリヴィエは幸せな気持ちでルーカスの胸に身を預けていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

処理中です...