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アシュレイの闇
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「な、何を……!?」
咽喉が詰まるようだった。
他人に触れられる、初めての感覚に身震いする。
「ココに子を宿しても、お前が俺の愛を乞わずにいられるかどうか」
掌はアシュレイの臍の下でぴたりと止まった。
「セレンティアではどうか知らないが、子を孕んだ身体で生き抜けるほど、アラウァリアは平和な国じゃない。自分と子供の命が大事なら、どうしたって俺の力が必要になる」
「黙れ」
その瞬間、ピクリと、アシュレイの蟀谷が震えた。
どす黒い力の奔流が、堰を切って、全身に流れ出した。
「この……クソが!!」
アシュレイは吼えていた。
頭に血が昇り、一瞬で何もかもわからなくなる。
気付いた時には左手を支柱に上体を捻り、肘で蟀谷を打って出ていた。
強姦を仄めかされただけなら、アシュレイはそこまで取り乱さなかったかもしれない。
或いはアシュレイの中身が、純然たる王女様のものならば、単に侮辱に憤怒を募らせただけだっただろう。
母も父も知らない千春の名残が、激昂の余りアシュレイの身体を突き動かしていた。
千春は幼少の頃よりしばしば、何故自分には両親がないのか考えた。
テレビなどで、仲睦まじい夫婦や親子の関係を見かけて、ふと思い立ち、母親を探して歩いたこともある。
『どうにもならない事情があったのよ。千春ちゃんを死なせたくなかったから、施設に託したのだと思うわ。辛いだろうけど、命があるだけでも有難いものよ』
”私は、生まれたいとも、生きたいとも願ってないのに”
施設長の言葉に、胸中では言いようのない不満が渦巻いた。
けれど赤の他人の千春を労わり、面倒を見てくれる人へ、それ以上の答えは求められなかった。
その頃の寂寞とした想いが、急激に膨れ上がり、爆ぜた。
アルダの論理は正しい。
日本と違うこの世界では、インフラも法も、充分に整備されていない。
身寄りのない女が胎児を抱え、一人で出産までこぎつけるのは至難の業だ。
そのために、出産を支えるコミュニティが存在し、父親は未婚の娘を守り、夫がその役目を引き継ぐ――。
その部分は、元の世界でも共通した自然の摂理だったと思う。
そこから弾かれ、零れて、今あるのが千春でありアシュレイだ。
前世では父も母もおらず、今世の父は、守るどころか存在すら無視した、邪魔にすらした。
アシュレイはただ、激昂した。
「ぐっ」
アルダは咄嗟に頭部を庇った。
「何だ? 急に……!?」
肘鉄は左前腕を打つに留まったが、身体が浮いて重心が崩れた。
「お前が!!」
そこへもう一撃、追い打ちをかける。
「やめろ、オイ」
「お前みたいな男のせいで!!」
鍛えられたアルダの腕は、鋼のように固い。
咽喉が詰まるようだった。
他人に触れられる、初めての感覚に身震いする。
「ココに子を宿しても、お前が俺の愛を乞わずにいられるかどうか」
掌はアシュレイの臍の下でぴたりと止まった。
「セレンティアではどうか知らないが、子を孕んだ身体で生き抜けるほど、アラウァリアは平和な国じゃない。自分と子供の命が大事なら、どうしたって俺の力が必要になる」
「黙れ」
その瞬間、ピクリと、アシュレイの蟀谷が震えた。
どす黒い力の奔流が、堰を切って、全身に流れ出した。
「この……クソが!!」
アシュレイは吼えていた。
頭に血が昇り、一瞬で何もかもわからなくなる。
気付いた時には左手を支柱に上体を捻り、肘で蟀谷を打って出ていた。
強姦を仄めかされただけなら、アシュレイはそこまで取り乱さなかったかもしれない。
或いはアシュレイの中身が、純然たる王女様のものならば、単に侮辱に憤怒を募らせただけだっただろう。
母も父も知らない千春の名残が、激昂の余りアシュレイの身体を突き動かしていた。
千春は幼少の頃よりしばしば、何故自分には両親がないのか考えた。
テレビなどで、仲睦まじい夫婦や親子の関係を見かけて、ふと思い立ち、母親を探して歩いたこともある。
『どうにもならない事情があったのよ。千春ちゃんを死なせたくなかったから、施設に託したのだと思うわ。辛いだろうけど、命があるだけでも有難いものよ』
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施設長の言葉に、胸中では言いようのない不満が渦巻いた。
けれど赤の他人の千春を労わり、面倒を見てくれる人へ、それ以上の答えは求められなかった。
その頃の寂寞とした想いが、急激に膨れ上がり、爆ぜた。
アルダの論理は正しい。
日本と違うこの世界では、インフラも法も、充分に整備されていない。
身寄りのない女が胎児を抱え、一人で出産までこぎつけるのは至難の業だ。
そのために、出産を支えるコミュニティが存在し、父親は未婚の娘を守り、夫がその役目を引き継ぐ――。
その部分は、元の世界でも共通した自然の摂理だったと思う。
そこから弾かれ、零れて、今あるのが千春でありアシュレイだ。
前世では父も母もおらず、今世の父は、守るどころか存在すら無視した、邪魔にすらした。
アシュレイはただ、激昂した。
「ぐっ」
アルダは咄嗟に頭部を庇った。
「何だ? 急に……!?」
肘鉄は左前腕を打つに留まったが、身体が浮いて重心が崩れた。
「お前が!!」
そこへもう一撃、追い打ちをかける。
「やめろ、オイ」
「お前みたいな男のせいで!!」
鍛えられたアルダの腕は、鋼のように固い。
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