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アシュレイの闇
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「売る気はなくなったって意味? それを私が信じると思う?」
「それについても考えるんだな。言ったろう、逃げるのは自由だ。自分のために、有益な選択をしろ。選択一つ誤れば命取りの世界に、自分で足を踏み入れたんだからな」
アルダはまた、それだけ告げると用は済んだとばかりにアシュレイに背を向けた。
「何処へ行くの?」
「2・3日出てくる。ここにあるものは自由に使っていい。あの2人にも伝えておく」
「ちょっと!」
呼び止めたが、アルダはそのまま出て行った。
話しが二転三転して、今でもまだ混乱している。
(アルダの指摘が事実なら、私は既に一度サレシド商会に騙されている……。信憑性はある。けれど根拠もなく、アルダの言葉を鵜呑みにするの?)
閉じた扉の向こうから、話し声が漏れ聞こえる。
アミールとシャルの声だ。
従順に扉の外で待機していたようだ。
幾つか言葉が交わされた後、入れ替わりに2人が入ってきた。
先頭はシャルだ。
「良かったねえ! アルダ様から話を聞いたよ。僕はシャル・ラドス。君は?」
「アシュレイ……セレ、ストンよ」
名を問われて、慌てて偽名を使った。
差し出された右手をじっと観察しそうになったが、握手だと気づいて掌を握る。
挨拶と言えば今までは、女性は請われてから手の甲を差し出すのが決まりだった。
「アシュレイか。可愛い名前だね。逃げないで、ずっとここにいるといいよ。困りごとがあったら助けてやれってアルダ様に言われたんだ。ぶっきらぼうだけど、アルダ様は良い人だよ!」
ぎゅっと握った手を、元気よく上下に揺すって、シャルは軽快な握手を交わす。
(人身売買もする悪人を、良い人って言えるのかしら?)
屈託のない笑顔を向けるシャルに、アシュレイは胸中で苦笑した。
「余計な話をしないで。いつ出て行ってくれても構わないのよ。ちょっとアンタ、優しい言葉を掛けられたからって、真に受けたんじゃないでしょうね?」
後ろに控えていたアミールが、ぎろりとアシュレイをねめつけた。
睨まれる原因がアシュレイ側にはない。
どうやら相当にアルダにご執心の様子だが、迷惑も甚だしい。
しかしこれもまた大きく反発すると、更に拗れそうなので対応に苦しむ。
「いいえ。親切かどうか見極めろと忠告を受けてるくらいよ。数日は置いてもらうかもしれないけど、長居する気もないから安心して」
「えぇー」とシャルが残念そうに息を吐く。
「まあ、直ぐに決めなくていいよ。気が変わるかもしれないし。一先ず別邸周りの説明しておくね。僕らが帰っても、困らないようにさ」
シャルが部屋に備え付けのテーブルを指さす。
アミールは腕を組んで、壁にもたれ掛かった。
「まずは食糧と水だね。水瓶に蓄えがあるから、好きに飲んでいいよ。食糧は……」
シャルが指さして教えてくれるものは、キッチンやテーブルの一角にまとめられていたのですぐにわかった。
「それについても考えるんだな。言ったろう、逃げるのは自由だ。自分のために、有益な選択をしろ。選択一つ誤れば命取りの世界に、自分で足を踏み入れたんだからな」
アルダはまた、それだけ告げると用は済んだとばかりにアシュレイに背を向けた。
「何処へ行くの?」
「2・3日出てくる。ここにあるものは自由に使っていい。あの2人にも伝えておく」
「ちょっと!」
呼び止めたが、アルダはそのまま出て行った。
話しが二転三転して、今でもまだ混乱している。
(アルダの指摘が事実なら、私は既に一度サレシド商会に騙されている……。信憑性はある。けれど根拠もなく、アルダの言葉を鵜呑みにするの?)
閉じた扉の向こうから、話し声が漏れ聞こえる。
アミールとシャルの声だ。
従順に扉の外で待機していたようだ。
幾つか言葉が交わされた後、入れ替わりに2人が入ってきた。
先頭はシャルだ。
「良かったねえ! アルダ様から話を聞いたよ。僕はシャル・ラドス。君は?」
「アシュレイ……セレ、ストンよ」
名を問われて、慌てて偽名を使った。
差し出された右手をじっと観察しそうになったが、握手だと気づいて掌を握る。
挨拶と言えば今までは、女性は請われてから手の甲を差し出すのが決まりだった。
「アシュレイか。可愛い名前だね。逃げないで、ずっとここにいるといいよ。困りごとがあったら助けてやれってアルダ様に言われたんだ。ぶっきらぼうだけど、アルダ様は良い人だよ!」
ぎゅっと握った手を、元気よく上下に揺すって、シャルは軽快な握手を交わす。
(人身売買もする悪人を、良い人って言えるのかしら?)
屈託のない笑顔を向けるシャルに、アシュレイは胸中で苦笑した。
「余計な話をしないで。いつ出て行ってくれても構わないのよ。ちょっとアンタ、優しい言葉を掛けられたからって、真に受けたんじゃないでしょうね?」
後ろに控えていたアミールが、ぎろりとアシュレイをねめつけた。
睨まれる原因がアシュレイ側にはない。
どうやら相当にアルダにご執心の様子だが、迷惑も甚だしい。
しかしこれもまた大きく反発すると、更に拗れそうなので対応に苦しむ。
「いいえ。親切かどうか見極めろと忠告を受けてるくらいよ。数日は置いてもらうかもしれないけど、長居する気もないから安心して」
「えぇー」とシャルが残念そうに息を吐く。
「まあ、直ぐに決めなくていいよ。気が変わるかもしれないし。一先ず別邸周りの説明しておくね。僕らが帰っても、困らないようにさ」
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「まずは食糧と水だね。水瓶に蓄えがあるから、好きに飲んでいいよ。食糧は……」
シャルが指さして教えてくれるものは、キッチンやテーブルの一角にまとめられていたのですぐにわかった。
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