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アシュレイの闇
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「どうして隠すの?」
アシュレイは重ねて問い詰めた。
シャルが立ち上がる。
「これは違うんだ!」とシャルは必死に弁明した。
「アミールはアルダ様に頼まれたお使いの最中だよ。たまに、出るんだよ、ネズミが……。罠を仕掛けておくからさ、もう入ってこないように! だから、心配しないで?」
「シャルは優しいのね。安心して。アルダに言いつけたりしないわ」
アシュレイは微笑んで、シャルの努力を無駄にしたくない一心で、穏やかな声で宥めた。
シャルがホッとしたようにアシュレイを見上げた。
「ほんと? ああ、良かった!」
(やっぱり、庇っていただけなのね。……アミールめ)
「ごめんね。すぐに片付けるから」
肩の荷を下ろしたように笑うシャルを前に、アシュレイは奥歯を噛んだ。
すると外から嘲笑うような声が聞こえて、戸口に目を向けた。
シャルが「あっ」と声を上げる。
「アルダ様に言いつけないでくれるって? 随分と偉そうな口ぶりだけど、私がやったって証拠でもあるの?」
戸口の向こうに、アミールが立っていた。
どこかに隠れて、アシュレイが帰る時を待っていたのか。
正直者のシャルがひくり、と顔を引き攣らせる。
シャルも部屋を見て、咄嗟にアミールの仕業だと判断したのだろう。
その反応で、直接目撃したのではないんだな、とわかる。
「言い掛かりは止めてよね。きっと、ネズミの仕業よ」
ふふん、とアミールは高慢な態度で腕組みをしている。
アシュレイは黙って、拾い集めたナンの欠片に視線を向けた。
元は歪な楕円形だった。20センチほどに伸ばして焼いたものが、3枚、残っていたはずだ。
「どこが、ネズミの仕業よ? 齧った痕が一つもない。手で千切った凹みならあるけど。あと、肘の内側に粉が付いてる。ついでに奴らが粉袋を生真面目に口を開いて取り出すと思う? 他にも理由が必要?」
アシュレイは矢継ぎ早に質問を投げかけ、アミールに詰め寄った。
アミールはぎょっとして組んだ腕を解いて、自分の肘を確かめる。
「ほらね、当たりだ。馬鹿ね、腕に粉なんて着いちゃいないよ」
「あんた……!」
アミールが目を剥く。
「仮にネズミの仕業なら、小屋中粉だらけになってるし、足跡だって残ってる。どうしてこんな馬鹿な真似をした」
「馬鹿って、失礼ね! 面倒を見て貰ってる立場で……ちょっ」
アシュレイは御名まで言わせず、綿で織られた赤茶のワンピースの胸ぐらを掴んだ。
「こんな馬鹿な真似した理由を聞いてるの、聞こえない?」
「何すんのよ。離して!」
胸元を掴んだ手を引き剥がそうとアミールは引っ張ったが、アシュレイは離さない。
こちらの頬を張ろうとした掌を、今回は躱す。
「アミール、止めなよ!」
シャルの悲鳴が上がった。
「怒ってるのはこっちだよ!」
「このっ」アミールはアシュレイの腕を掻きむしろうと爪を立てた。
サッと引いて距離を取る。
「だからどうしたっての。ああ、そうよ。私がやったわ。あんたが気に入らないからよ。あんたにさっさと、ここから消えて欲しいからね!」
アミールは開き直って、大声で言い募った。
分かってはいたが、反省の色が欠片もない。
「いいこと、私は今から貴女を殴る。歯を食い縛りなさい。今はこの体だから手加減しない」
アシュレイは宣言した。
「ははっ、何それ。やれるものならやってみなさい」
アシュレイは重ねて問い詰めた。
シャルが立ち上がる。
「これは違うんだ!」とシャルは必死に弁明した。
「アミールはアルダ様に頼まれたお使いの最中だよ。たまに、出るんだよ、ネズミが……。罠を仕掛けておくからさ、もう入ってこないように! だから、心配しないで?」
「シャルは優しいのね。安心して。アルダに言いつけたりしないわ」
アシュレイは微笑んで、シャルの努力を無駄にしたくない一心で、穏やかな声で宥めた。
シャルがホッとしたようにアシュレイを見上げた。
「ほんと? ああ、良かった!」
(やっぱり、庇っていただけなのね。……アミールめ)
「ごめんね。すぐに片付けるから」
肩の荷を下ろしたように笑うシャルを前に、アシュレイは奥歯を噛んだ。
すると外から嘲笑うような声が聞こえて、戸口に目を向けた。
シャルが「あっ」と声を上げる。
「アルダ様に言いつけないでくれるって? 随分と偉そうな口ぶりだけど、私がやったって証拠でもあるの?」
戸口の向こうに、アミールが立っていた。
どこかに隠れて、アシュレイが帰る時を待っていたのか。
正直者のシャルがひくり、と顔を引き攣らせる。
シャルも部屋を見て、咄嗟にアミールの仕業だと判断したのだろう。
その反応で、直接目撃したのではないんだな、とわかる。
「言い掛かりは止めてよね。きっと、ネズミの仕業よ」
ふふん、とアミールは高慢な態度で腕組みをしている。
アシュレイは黙って、拾い集めたナンの欠片に視線を向けた。
元は歪な楕円形だった。20センチほどに伸ばして焼いたものが、3枚、残っていたはずだ。
「どこが、ネズミの仕業よ? 齧った痕が一つもない。手で千切った凹みならあるけど。あと、肘の内側に粉が付いてる。ついでに奴らが粉袋を生真面目に口を開いて取り出すと思う? 他にも理由が必要?」
アシュレイは矢継ぎ早に質問を投げかけ、アミールに詰め寄った。
アミールはぎょっとして組んだ腕を解いて、自分の肘を確かめる。
「ほらね、当たりだ。馬鹿ね、腕に粉なんて着いちゃいないよ」
「あんた……!」
アミールが目を剥く。
「仮にネズミの仕業なら、小屋中粉だらけになってるし、足跡だって残ってる。どうしてこんな馬鹿な真似をした」
「馬鹿って、失礼ね! 面倒を見て貰ってる立場で……ちょっ」
アシュレイは御名まで言わせず、綿で織られた赤茶のワンピースの胸ぐらを掴んだ。
「こんな馬鹿な真似した理由を聞いてるの、聞こえない?」
「何すんのよ。離して!」
胸元を掴んだ手を引き剥がそうとアミールは引っ張ったが、アシュレイは離さない。
こちらの頬を張ろうとした掌を、今回は躱す。
「アミール、止めなよ!」
シャルの悲鳴が上がった。
「怒ってるのはこっちだよ!」
「このっ」アミールはアシュレイの腕を掻きむしろうと爪を立てた。
サッと引いて距離を取る。
「だからどうしたっての。ああ、そうよ。私がやったわ。あんたが気に入らないからよ。あんたにさっさと、ここから消えて欲しいからね!」
アミールは開き直って、大声で言い募った。
分かってはいたが、反省の色が欠片もない。
「いいこと、私は今から貴女を殴る。歯を食い縛りなさい。今はこの体だから手加減しない」
アシュレイは宣言した。
「ははっ、何それ。やれるものならやってみなさい」
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