王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

文字の大きさ
28 / 223
アシュレイの闇

10

しおりを挟む
 千春は178センチの長身で、事あるごとに手加減を要求された。だが、今は違う。

 アミールは高慢な態度を崩さなかった。

 もう、躊躇いはない。

 アシュレイは線が細く、パワーこそ足りないが動きは俊敏だ。

 すっ、と上半身を沈めると同時に距離を詰め、懐に飛び込んだ。

 見下ろすように斜に構えていたアミールの鼻の穴を見上げ、低くした姿勢から思い切り拳を振り抜いた。

「ぐうっ」

 アシュレイの白魚のような腕では、大した打撃にならないだろうと踏んでいた。

 だが、想像した以上の威力だったのか、左頬に拳を受けたアミールは数歩、よろめいた。

 顎先を狙ったわけではないが、脳にも影響を及ぼしたらしい。

「この……~~」

 壁に背をつけ、立ち上がろうとしながらアミールは何事か呻く。

「私が気に入らなきゃ、2度と来るな! たかが嫌がらせで、食べ物を無駄にするような人間は、吐き気がするほど嫌い」

「えっ、アシュレイ? アミール??」

 瞬く間の出来事に、シャルは混乱している。

 まさかアシュレイがアミールを殴ると思っていなかったのだろう。

 2人を見比べて、何が起きたのか把握に時間を要していた。

「わ、私だって……アンタなんか……!」

「1発じゃ足りない? なら、2発目は左に食らわせてやる」

 アシュレイは再度拳を振りかぶった。

 アミールの顔色がさっと青ざめる。

 構えるアシュレイの前で、アミールは立ち上がろうと何度も藻掻いた。

 しかし、軽くとも一度脳震盪を起こせばそう簡単に立ち上がれない。

 立ち上がるのは諦めて、這う這うの体でアミールはドアから外へ這い出た。

「覚えてなさい。アルダ様に、言いつけてやるから」

 去り際に、捨て台詞を吐く。

「”嫌がらせをした報復に殴られました”って? まともな人間なら褒めてくれるわよ!」

 アシュレイも負けじと大声を上げた。

 アミールは引きつった顔で、転がるように出て行った。

 ふん! と鼻息を勇ましく吐き出し、室内へ目を戻す。

 するとシャルが背後に立っていた。

 アシュレイの主張は間違っていないし、何もやましいところはない。

 だが、シャルとアミールは古い仲だ。

 友人を殴られていい気はしない……

「アシュレイって、見かけによらず強いんだね!」

 しかし、シャルはあっけらかんとした声でニッコリと笑う。

「びっくりしたよ。アシュレイが酷い目にあったらどうしようかと心配したけど。逆にやっつけちゃうなんてすごいや」

 反発するどころか、無邪気に感心しているようだ。

「ごめんね、何もしてあげられなくて。僕、どうしてかアミールには昔から逆らえなくて……」

(ああ……そういうことか)

 アシュレイはあっさり納得した。

 幼い頃に順位付けのような物が刷り込まれると、成長してもそれを引き摺る場合がある。

 シャルとアミールは幼馴染で、幼少期からずっと一緒に過ごしてきたのだろう。

 シャルの気性が穏やかだから、一方的にアミールに言いくるめられている光景が目に浮かぶ。

 アシュレイは「いいの」と笑って見せた。

「私こそ、乱暴でごめんね。さっさと片付けようっと」

 せっかく掃除した部屋を、酷く荒らされて腹が立つ。

 でも、一応報復は済んだのだし、ちょっとすっきりしたので良しとしなくては。

「そうだね! 僕も手伝うよ。箒取ってくる!」

 勢いよく駆け出したシャルに礼を述べながら、アシュレイは部屋の隅でしわくちゃになっているシーツを広げた。

 上に藁を集めて、外で粉を払おう。

 そうこうしているうちに、2日目もあっという間に日暮れを迎えるのだった。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

処理中です...