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アシュレイの闇
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千春は178センチの長身で、事あるごとに手加減を要求された。だが、今は違う。
アミールは高慢な態度を崩さなかった。
もう、躊躇いはない。
アシュレイは線が細く、パワーこそ足りないが動きは俊敏だ。
すっ、と上半身を沈めると同時に距離を詰め、懐に飛び込んだ。
見下ろすように斜に構えていたアミールの鼻の穴を見上げ、低くした姿勢から思い切り拳を振り抜いた。
「ぐうっ」
アシュレイの白魚のような腕では、大した打撃にならないだろうと踏んでいた。
だが、想像した以上の威力だったのか、左頬に拳を受けたアミールは数歩、よろめいた。
顎先を狙ったわけではないが、脳にも影響を及ぼしたらしい。
「この……~~」
壁に背をつけ、立ち上がろうとしながらアミールは何事か呻く。
「私が気に入らなきゃ、2度と来るな! たかが嫌がらせで、食べ物を無駄にするような人間は、吐き気がするほど嫌い」
「えっ、アシュレイ? アミール??」
瞬く間の出来事に、シャルは混乱している。
まさかアシュレイがアミールを殴ると思っていなかったのだろう。
2人を見比べて、何が起きたのか把握に時間を要していた。
「わ、私だって……アンタなんか……!」
「1発じゃ足りない? なら、2発目は左に食らわせてやる」
アシュレイは再度拳を振りかぶった。
アミールの顔色がさっと青ざめる。
構えるアシュレイの前で、アミールは立ち上がろうと何度も藻掻いた。
しかし、軽くとも一度脳震盪を起こせばそう簡単に立ち上がれない。
立ち上がるのは諦めて、這う這うの体でアミールはドアから外へ這い出た。
「覚えてなさい。アルダ様に、言いつけてやるから」
去り際に、捨て台詞を吐く。
「”嫌がらせをした報復に殴られました”って? まともな人間なら褒めてくれるわよ!」
アシュレイも負けじと大声を上げた。
アミールは引きつった顔で、転がるように出て行った。
ふん! と鼻息を勇ましく吐き出し、室内へ目を戻す。
するとシャルが背後に立っていた。
アシュレイの主張は間違っていないし、何もやましいところはない。
だが、シャルとアミールは古い仲だ。
友人を殴られていい気はしない……
「アシュレイって、見かけによらず強いんだね!」
しかし、シャルはあっけらかんとした声でニッコリと笑う。
「びっくりしたよ。アシュレイが酷い目にあったらどうしようかと心配したけど。逆にやっつけちゃうなんてすごいや」
反発するどころか、無邪気に感心しているようだ。
「ごめんね、何もしてあげられなくて。僕、どうしてかアミールには昔から逆らえなくて……」
(ああ……そういうことか)
アシュレイはあっさり納得した。
幼い頃に順位付けのような物が刷り込まれると、成長してもそれを引き摺る場合がある。
シャルとアミールは幼馴染で、幼少期からずっと一緒に過ごしてきたのだろう。
シャルの気性が穏やかだから、一方的にアミールに言いくるめられている光景が目に浮かぶ。
アシュレイは「いいの」と笑って見せた。
「私こそ、乱暴でごめんね。さっさと片付けようっと」
せっかく掃除した部屋を、酷く荒らされて腹が立つ。
でも、一応報復は済んだのだし、ちょっとすっきりしたので良しとしなくては。
「そうだね! 僕も手伝うよ。箒取ってくる!」
勢いよく駆け出したシャルに礼を述べながら、アシュレイは部屋の隅でしわくちゃになっているシーツを広げた。
上に藁を集めて、外で粉を払おう。
そうこうしているうちに、2日目もあっという間に日暮れを迎えるのだった。
アミールは高慢な態度を崩さなかった。
もう、躊躇いはない。
アシュレイは線が細く、パワーこそ足りないが動きは俊敏だ。
すっ、と上半身を沈めると同時に距離を詰め、懐に飛び込んだ。
見下ろすように斜に構えていたアミールの鼻の穴を見上げ、低くした姿勢から思い切り拳を振り抜いた。
「ぐうっ」
アシュレイの白魚のような腕では、大した打撃にならないだろうと踏んでいた。
だが、想像した以上の威力だったのか、左頬に拳を受けたアミールは数歩、よろめいた。
顎先を狙ったわけではないが、脳にも影響を及ぼしたらしい。
「この……~~」
壁に背をつけ、立ち上がろうとしながらアミールは何事か呻く。
「私が気に入らなきゃ、2度と来るな! たかが嫌がらせで、食べ物を無駄にするような人間は、吐き気がするほど嫌い」
「えっ、アシュレイ? アミール??」
瞬く間の出来事に、シャルは混乱している。
まさかアシュレイがアミールを殴ると思っていなかったのだろう。
2人を見比べて、何が起きたのか把握に時間を要していた。
「わ、私だって……アンタなんか……!」
「1発じゃ足りない? なら、2発目は左に食らわせてやる」
アシュレイは再度拳を振りかぶった。
アミールの顔色がさっと青ざめる。
構えるアシュレイの前で、アミールは立ち上がろうと何度も藻掻いた。
しかし、軽くとも一度脳震盪を起こせばそう簡単に立ち上がれない。
立ち上がるのは諦めて、這う這うの体でアミールはドアから外へ這い出た。
「覚えてなさい。アルダ様に、言いつけてやるから」
去り際に、捨て台詞を吐く。
「”嫌がらせをした報復に殴られました”って? まともな人間なら褒めてくれるわよ!」
アシュレイも負けじと大声を上げた。
アミールは引きつった顔で、転がるように出て行った。
ふん! と鼻息を勇ましく吐き出し、室内へ目を戻す。
するとシャルが背後に立っていた。
アシュレイの主張は間違っていないし、何もやましいところはない。
だが、シャルとアミールは古い仲だ。
友人を殴られていい気はしない……
「アシュレイって、見かけによらず強いんだね!」
しかし、シャルはあっけらかんとした声でニッコリと笑う。
「びっくりしたよ。アシュレイが酷い目にあったらどうしようかと心配したけど。逆にやっつけちゃうなんてすごいや」
反発するどころか、無邪気に感心しているようだ。
「ごめんね、何もしてあげられなくて。僕、どうしてかアミールには昔から逆らえなくて……」
(ああ……そういうことか)
アシュレイはあっさり納得した。
幼い頃に順位付けのような物が刷り込まれると、成長してもそれを引き摺る場合がある。
シャルとアミールは幼馴染で、幼少期からずっと一緒に過ごしてきたのだろう。
シャルの気性が穏やかだから、一方的にアミールに言いくるめられている光景が目に浮かぶ。
アシュレイは「いいの」と笑って見せた。
「私こそ、乱暴でごめんね。さっさと片付けようっと」
せっかく掃除した部屋を、酷く荒らされて腹が立つ。
でも、一応報復は済んだのだし、ちょっとすっきりしたので良しとしなくては。
「そうだね! 僕も手伝うよ。箒取ってくる!」
勢いよく駆け出したシャルに礼を述べながら、アシュレイは部屋の隅でしわくちゃになっているシーツを広げた。
上に藁を集めて、外で粉を払おう。
そうこうしているうちに、2日目もあっという間に日暮れを迎えるのだった。
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