王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

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アルダシール

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 アルダは、気持ち足早に“別邸”へ向かっていた。

 手には一抱えもある紙袋を携えている。

(馬を預けに戻って、余計な時間を食った……)

 袋の中身はパパイヤやアップルマンゴー、パッションフルーツなど、アラウァリアを代表とする果物だ。

 アシュレイは食した経験があるだろうか。

 アルダは柄にもなく、浮き上がりそうになる口元を引き締めた。

 元より、花嫁行列の一行からアシュレイを攫い出したら、別邸に匿うつもりだった。

 アルダは国内の主要都市の7か所に、私費で雇用した諜報員を配備している。

 国家は騎士団を始めとする軍事力を有しているが、それら一切の権限はアルダの手中にない。

 王国の全権は国王が掌握している――アルダの父、アラウァリア国王が。

 アルダの本名は、アルダシール・フェルドウス・アラウァリア。

 アラウァリア王国の第一王子で、第一王位継承者でもある。

 ルドレール子爵家の令息は仮の姿だ。

 第一王子という確固たる立場にありながら、足元の脆さは嫌というほど実感していた。

 アルダシールは、国王アルタクセルと前王妃アムスタとの間に生まれた子だが、アムスタ……つまり母は逝去している。

 アムスタの死は、表向きは病死として扱われているが、実際の死因は異なる。

 不義密通の嫌疑をかけられ、自ら命を絶った。

 アムスタの死後、第1側妃だったタヒルが繰り上がりで正妃の座に収まった。

 タヒルは1人王子を生んでいる。

 王位の継承権はアルダシールに次ぐ2位だ。

 とにかくこの、タヒル王妃は油断ならない女狐だとアルダシールは踏んでいる。

 確たる証拠はないが、母の死にも関与しているのではと疑念を持っていた。

 だからだろう。

 アシュレイ王女の誘拐依頼をカシタが請け負うとの報告を受けた際、その場で躊躇いなく横奪を決めた。

 報告上、王女は不遇の扱いを受けていた。

 気の毒な身の上と自分の境遇とが重なった。

 それに計画がお粗末すぎて、あのまま行けば王女のお先は真っ暗だった。

 事前に王家の名義で酒宴の酒を手配した。

 月光に浮かび上がった異国の花嫁の姿は、噂通り儚い妖精のようだった。

 窓から乗り込み、盗み出すのに躊躇いはなかった――

 だが、実際のアシュレイは、想像以上に生意気で、何というか生々しい少女だった。

 妖精のような清廉さとはかけ離れた、黒くて重い感情を持て余していた。

 それがアルダシールの目には、たまらなく人間臭く映った。

 道のない茂みをかき分けて、ようやく別邸が見えてきた。

 アルダシールは一度立ち止まり、自分の態度を改めて確認した。

 鏡などないが、すっと目を落とし、心を平生通りに落ち着ける。

 どうしてソワソワするのだろう。

 ただ、拾った子猫の面倒を見てやるようなものなのに。
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