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予感
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翌日、夜が明ける前からアルダシールはアシュレイに身支度をさせた。
昨日小屋に戻って来た時、既にアミールの姿はなかった。
アルダによれば、シャルに手伝いを依頼した際、アミールが便乗して協力を申し出たのを許可しただけの間柄だったらしい。
”悪戯”の詳細を語ると、アルダは閉口した。
アミールは腕力で勝てないとわかると、正面からの攻撃を避け、不在時ばかりを狙って様々なものを隠した。
アルダが帰ってきたら元に戻すのだと判っているのか、心配になるほどに。
まず水瓶の水を捨てられた。
それで水を汲みに行ったら、井戸の釣瓶が消えていて、やっと見つけた泉から水を汲んで帰り、一度沸かして飲用とした。
すると今度は薪が消え……と、イタチごっこが繰り広げられた。
いくらシャルが助けてくれても、とても追いつかない。
だからアシュレイはやむなく必要な道具をアミールから守るために、あちこちに隠し置いた。
それが空っぽの部屋が出来上がるに至った顛末だ。
アシュレイが来なければ、アミールは追い出されなかっただろう。
気の毒に思う気持ちが1ミリもないかと問われれば、わからない。
でも、腹に据えかねていたし、アミールの雇用に関する権限は間違いなくアルダにある。
シャルにも何か頼んでいたようでもあったし、それ以上の介入は止めて、アシュレイは自分自身の問題に取り組んだ。
いくら変装を施しても、ノーパンでは心許ない。
カーテンを拝借して、簡易な胸当てと腰巻を拵えた。
今朝は発案通り、肌に薄く泥を塗り、髪も念のため草色に染めた。
元が金髪のためくすんだ黄緑色になったが、遠目には落ち着いた色味になった。
全身を覆うローブを頭からすっぽり被れば完成だ。
「ふふっ。私じゃないみたいね」
「美しく装うのが常だったろうに、そんな形で喜ぶとは。もの好きな奴だな」
アルダは相変わらずの口調だが、それは単なる口先だけの台詞だった。
アルダは態度や言葉こそ冷たい。
だが、行動を見るにつれ、面倒見の良いマメな男だということが分かってきた。
本来は貴族の坊ちゃんにもかかわらず、何でも器用にこなす。
頭髪用の染料を用意してくれたのも、何でも侍女にやってもらった我儘な姫には上手くできまいと、塗ってくれたのもアルダだ。
何やかやと憎まれ口を叩きながら、世話を焼いてくれている。
完全に信用したわけではないし、好意に甘え切る気もないが……
今までのアルダはただ、意味不明で謎だらけの、奇妙な男だった。
それが、少しだけ、意思疎通のできる普通の人間のように思えてきた。
(……一晩過ごして、情でも湧いたのかしら……?)
「日が昇る前に街に降りる。この先に通用門があるから待っていろ」
アルダが泉を迂回した先を示し、二手に別れた。
理由もわからず指示された場所で待つと、鉄製の門の向こう側へ、馬を引いて現れた。
昨日小屋に戻って来た時、既にアミールの姿はなかった。
アルダによれば、シャルに手伝いを依頼した際、アミールが便乗して協力を申し出たのを許可しただけの間柄だったらしい。
”悪戯”の詳細を語ると、アルダは閉口した。
アミールは腕力で勝てないとわかると、正面からの攻撃を避け、不在時ばかりを狙って様々なものを隠した。
アルダが帰ってきたら元に戻すのだと判っているのか、心配になるほどに。
まず水瓶の水を捨てられた。
それで水を汲みに行ったら、井戸の釣瓶が消えていて、やっと見つけた泉から水を汲んで帰り、一度沸かして飲用とした。
すると今度は薪が消え……と、イタチごっこが繰り広げられた。
いくらシャルが助けてくれても、とても追いつかない。
だからアシュレイはやむなく必要な道具をアミールから守るために、あちこちに隠し置いた。
それが空っぽの部屋が出来上がるに至った顛末だ。
アシュレイが来なければ、アミールは追い出されなかっただろう。
気の毒に思う気持ちが1ミリもないかと問われれば、わからない。
でも、腹に据えかねていたし、アミールの雇用に関する権限は間違いなくアルダにある。
シャルにも何か頼んでいたようでもあったし、それ以上の介入は止めて、アシュレイは自分自身の問題に取り組んだ。
いくら変装を施しても、ノーパンでは心許ない。
カーテンを拝借して、簡易な胸当てと腰巻を拵えた。
今朝は発案通り、肌に薄く泥を塗り、髪も念のため草色に染めた。
元が金髪のためくすんだ黄緑色になったが、遠目には落ち着いた色味になった。
全身を覆うローブを頭からすっぽり被れば完成だ。
「ふふっ。私じゃないみたいね」
「美しく装うのが常だったろうに、そんな形で喜ぶとは。もの好きな奴だな」
アルダは相変わらずの口調だが、それは単なる口先だけの台詞だった。
アルダは態度や言葉こそ冷たい。
だが、行動を見るにつれ、面倒見の良いマメな男だということが分かってきた。
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頭髪用の染料を用意してくれたのも、何でも侍女にやってもらった我儘な姫には上手くできまいと、塗ってくれたのもアルダだ。
何やかやと憎まれ口を叩きながら、世話を焼いてくれている。
完全に信用したわけではないし、好意に甘え切る気もないが……
今までのアルダはただ、意味不明で謎だらけの、奇妙な男だった。
それが、少しだけ、意思疎通のできる普通の人間のように思えてきた。
(……一晩過ごして、情でも湧いたのかしら……?)
「日が昇る前に街に降りる。この先に通用門があるから待っていろ」
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理由もわからず指示された場所で待つと、鉄製の門の向こう側へ、馬を引いて現れた。
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