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予感
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「乗らないの?」
「これはお前がへばった時用だ。体力をつけなけりゃ話にならない。楽はさせん」
「アルダが歩ける距離を、私が歩けないとでも?」
アルダは答えようとせず、挑発的な目だけを向ける。
(まあ! 私を軟弱なお姫様だと思っているなら、大違いなんだから)
アシュレイは一層奮い立ち、共に街へと続く道を進んだ。
――長く続く丘陵を、黙々と進んでおよそ1時間半。
後悔とはいかないまでも、現在の体力を痛感させられた。
(昔は……千春の時は……20キロの荷物とか背負っても、全然余裕だったのに……)
頭の中に記憶があっても、肉体の情報は変わらない。
ここ2・3日庭先を駆け回ったところで、そう劇的に体力が向上するものでもなかった。
アシュレイは、アルダの予想した通りの展開を受け入れるのが悔しくて、痛みを堪えて懸命に歩いた。
「予定よりも早く着いたな。ちょっと待ってろ」
やっと街に着いたところで、水筒を渡された。
アミールたちの住む街と別方向に向かい、「邸から近い街」とは言っても、多少は離れているよね。
とある程度の予想を立てていた。
使用人が通える距離なのだから、恐らく10数キロかその辺りだろう。
ほとんど空手での徒歩なら余裕だろうと高を括っていた。
まことに遺憾だが、後先考えず邸を飛び出さなくて良かった。
街の入口から見える大きな目抜き通りでは、各露店の店主たちが開店の準備に取り掛かっている。
街の規模はそれほど大きくなさそうだ。
輿に乗って訪れたアロッカの街に似ている。
アルダはその一角で誰かと2・3言会話を交わしている。
まだ、街は目覚めて間もないが、あちこちから何かの湯気が上がり、良い香りが漂ってくる。
右奥の商店から、山盛りのオレンジが入った籠を背負った少年が飛び出す。
アシュレイは物珍しそうにそれらを目で追った。
きっとこの街ではいつもの日常なのだろう。
けれどアシュレイにとっては初めてで、千春にとっても忘れかけていた光景だ。
夢中になって眺めているうちに、アルダが戻ってくる。
「よく頑張ったな。見せてみろ」
水筒を抱え、水を飲みもせず立っていたアシュレイを抱え上げ、ひょいと花壇の縁に座らせた。
おもむろに跪くと、足を持ち上げる。
「なっ! 何を……!」
「あちこち、すりむけてる。痛かったろう?」
アシュレイは驚き足をバタつかせるが、アルダは動じない。
靴を脱がせて足の裏や指の付け根を検分し始めた。
「大したことないわ。大丈夫よ……」
嘘だ。
普通にジンジン痛むレベルで、大丈夫ではない。
ちらっと見えた踵や踝は、肉刺を作る前に皮がむけて血が滲んでいた。
「これはお前がへばった時用だ。体力をつけなけりゃ話にならない。楽はさせん」
「アルダが歩ける距離を、私が歩けないとでも?」
アルダは答えようとせず、挑発的な目だけを向ける。
(まあ! 私を軟弱なお姫様だと思っているなら、大違いなんだから)
アシュレイは一層奮い立ち、共に街へと続く道を進んだ。
――長く続く丘陵を、黙々と進んでおよそ1時間半。
後悔とはいかないまでも、現在の体力を痛感させられた。
(昔は……千春の時は……20キロの荷物とか背負っても、全然余裕だったのに……)
頭の中に記憶があっても、肉体の情報は変わらない。
ここ2・3日庭先を駆け回ったところで、そう劇的に体力が向上するものでもなかった。
アシュレイは、アルダの予想した通りの展開を受け入れるのが悔しくて、痛みを堪えて懸命に歩いた。
「予定よりも早く着いたな。ちょっと待ってろ」
やっと街に着いたところで、水筒を渡された。
アミールたちの住む街と別方向に向かい、「邸から近い街」とは言っても、多少は離れているよね。
とある程度の予想を立てていた。
使用人が通える距離なのだから、恐らく10数キロかその辺りだろう。
ほとんど空手での徒歩なら余裕だろうと高を括っていた。
まことに遺憾だが、後先考えず邸を飛び出さなくて良かった。
街の入口から見える大きな目抜き通りでは、各露店の店主たちが開店の準備に取り掛かっている。
街の規模はそれほど大きくなさそうだ。
輿に乗って訪れたアロッカの街に似ている。
アルダはその一角で誰かと2・3言会話を交わしている。
まだ、街は目覚めて間もないが、あちこちから何かの湯気が上がり、良い香りが漂ってくる。
右奥の商店から、山盛りのオレンジが入った籠を背負った少年が飛び出す。
アシュレイは物珍しそうにそれらを目で追った。
きっとこの街ではいつもの日常なのだろう。
けれどアシュレイにとっては初めてで、千春にとっても忘れかけていた光景だ。
夢中になって眺めているうちに、アルダが戻ってくる。
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「なっ! 何を……!」
「あちこち、すりむけてる。痛かったろう?」
アシュレイは驚き足をバタつかせるが、アルダは動じない。
靴を脱がせて足の裏や指の付け根を検分し始めた。
「大したことないわ。大丈夫よ……」
嘘だ。
普通にジンジン痛むレベルで、大丈夫ではない。
ちらっと見えた踵や踝は、肉刺を作る前に皮がむけて血が滲んでいた。
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