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予感
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左わきの露店では、若い女性が寸胴鍋にバナナらしきものを放り込んでいる。
「あれは、バナナでしょう? 何を作っているの?」
「揚げバナナだ。油で揚げている」
「バナナを揚げちゃうの? どんな味? あっ、待って。あれは? ここって、海から近いの??」
アシュレイは目に留まったもの全てをアルダに訊ねた。
アルダはいちいち答えてくれる。
「マングローブ蟹か? 近いというほどでもないが、内陸に海水が入り込んでるから……おっと、その先で用を済ませてこい」
通りの半ばまで来たところで、色とりどりの布を掲げた商店を指差した。
店内を覗くと女性用の服飾品を扱っているとわかる。
「俺はここで待ってる」
掌に何かを握らせ、背中を押された。
アシュレイは下着を買うのだから、アルダについて来られても困る。
掌を広げてみると、渡されたのは1枚の銀貨だった。
(そうよね……お金がなくちゃ買えないもの……。服も用意してもらって、どうやって返したらいいのかしら……)
今まで、嫌味を言われれば生意気に反発したが、アシュレイには今、何もない。
初めて見る街に浮かれていたが、こういう場に早く馴染んで働けるようにならなくては。
そのためにもこんな所……店の入り口で怯んでいる場合ではないと、アシュレイは意を決して店へと入った。
「いらっしゃい。お嬢ちゃん、何が欲しいの?」
店の女将と思しき中年女性に話しかけられ、アシュレイはビクリとする。
「し、下着を……」
消え入りそうな声で答えると、女将は豪快に笑った。
「あっはっは! なあに、恥ずかしがって。初めてのお使いみたいに」
「いや、その、初めてではありません……」
アシュレイは慌てて否定した。
だが、真っ赤な嘘だ。
今日が正真正銘「初めてのお使い」だ。
「うちはね、全部ここで作っているから、お嬢ちゃんの体型に合わせて調整ができるよ。デザインも、サイズも沢山あるから見て行って」
「ありがとうございます」
アシュレイはおずおずと店の奥に進み、商品を物色し始める。
女将が言った通り、沢山の種類の下着が所狭しと飾られていた。
色もデザインも様々で目移りするほどだ。
レースの編みされたものに手を伸ばしかけて、はたと躊躇う。
いつもは生地だけ選べば、仕上がった品が届けられていたので、自分のサイズがわからない。
調整してくれると言っても、どの程度可能なのか。
「どうしたの。随分熱心に選ぶねぇ。誰かに見せる予定でもあるの?」
「い、いえ。とんでもないっ」
あまりにじぃっと見入っていたので、女将に揶揄される。
本当はサイズくらい尋ねれば教えてもらえるのだろうが、「じゃあ」と試着になって、肌がみえたら、困る。
「あれは、バナナでしょう? 何を作っているの?」
「揚げバナナだ。油で揚げている」
「バナナを揚げちゃうの? どんな味? あっ、待って。あれは? ここって、海から近いの??」
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消え入りそうな声で答えると、女将は豪快に笑った。
「あっはっは! なあに、恥ずかしがって。初めてのお使いみたいに」
「いや、その、初めてではありません……」
アシュレイは慌てて否定した。
だが、真っ赤な嘘だ。
今日が正真正銘「初めてのお使い」だ。
「うちはね、全部ここで作っているから、お嬢ちゃんの体型に合わせて調整ができるよ。デザインも、サイズも沢山あるから見て行って」
「ありがとうございます」
アシュレイはおずおずと店の奥に進み、商品を物色し始める。
女将が言った通り、沢山の種類の下着が所狭しと飾られていた。
色もデザインも様々で目移りするほどだ。
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調整してくれると言っても、どの程度可能なのか。
「どうしたの。随分熱心に選ぶねぇ。誰かに見せる予定でもあるの?」
「い、いえ。とんでもないっ」
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