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予感
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「ソーセージが飲めるって、どんな感性をしてるんだ」
「だって、ソーセージの塩気たっぷりの肉汁が、ジュースみたいでしょ」
アシュレイはごくんと飲みくだしてから答えた。
「あははっ。お前、面白すぎる……! じゃあ、こっちはどうだ。どんどん食べろ……」
アルダの笑い声と、覚醒した食欲に、どんどん罪悪感が薄らいでいく。
その上あんまり嬉しそうにアシュレイを見守るから、いつの間にか食べ物の美味しさと相まって、幸せな気持ちに浸っていた。
***
「力が入ってる。そこで手綱を引いたら、馬が混乱する」
食後の帰り道には馬上で手綱を預かって、アルダから乗馬の指導を受けていた。
「そうだ。いいぞ。元々身のこなしは悪くない。身体も軽いから、すぐに乗りこなせるようになる」
アルダに褒められて、気を良くする。
馬上でバランスを取りながら、前方の景色を見渡す。
(なんて新鮮!)
目線は高く、空が近い。
大地には豊かな緑が絨毯の如く広がっている。
風はそよそよと心地よく、花の甘い香りを運ぶ。
「こら。慣れたからといって、余所見するほどの腕前か? 油断するな」
すぅと、心地よさに深呼吸した拍子に、体幹が崩れる。
傾いだ身体は、落馬する前に腰を引かれて、アルダの胸元に収まった。
「……ありがと」
礼を述べたものの、距離の近さに、慌てて進行方向に視線を戻す。
腰に回ったアルダの腕、背中に触れる胸の温かさが、気恥ずかしい。
アシュレイがうっかり身体を預けても、びくともしない。
この逞しさには、惚れ惚れする。
(昔の私だったら、腕相撲くらい勝てたかしら? ううん、今からだって……)
体格に恵まれていた千春だって、本格的に鍛え始めたのは自衛官になってからだ。
アシュレイはまだ16歳だ。これからでも遅くない。
「そういえば、アルダはいくつ?」
「歳か? 来月19になる」
さりげなく、触れぬよう背を逸らして、控え目に尋ねる。
「ええっ? 若い。もう少し上かと思ってた。とても逞しいように見えるけど、何か鍛錬をしてる?」
アシュレイを攫い出した時の手腕も見事だった。
あの身のこなしで、すっかり盗賊の一員なのだと信じ込んだ。
「まあな。剣でも槍でも一通りは嗜む。近頃はさぼりがちだがな……」
アルダが言い淀んだので、アシュレイは勝手に早合点した。
そうか。昔は教育を受けられるくらいに家計の余裕があったけど、今はそうではないんだものね……。
訊いてはいけない質問だったと、次の話題を考える。
「俺はお前について知ってるぞ。アシュレイ・シャプール・セレンティア。16歳。オスローの血を引く第一王女、アラウァリア国王の19人目の妃となるべく、王都に向かう。メルンで略奪せよ」
しかし、次の話題を攫ったのはアルダだ。
アルダはアシュレイの腰に腕を回したまま、考えるようにして続けた。
「それが、貴方が入手した情報なのね……?」
「ああ。今更だが、お前はどうして逃げようと思ったんだ? この通り、アラウァリアは肥沃な国土の広大な国だ。両国の間には特に摩擦もない。……アラウァリア王がオッサンだからか? それとも19番目が気に入らなかったのか?」
アルダは軽く首是すると、冗談交じりに尋ねる。
王族や貴族の婚姻は、本人の意に沿うほうが稀だ。
アラウァリア王なら悪くない、アルダもそう考えるのか。
胸がツキンと小さく痛んだ。
「だって、ソーセージの塩気たっぷりの肉汁が、ジュースみたいでしょ」
アシュレイはごくんと飲みくだしてから答えた。
「あははっ。お前、面白すぎる……! じゃあ、こっちはどうだ。どんどん食べろ……」
アルダの笑い声と、覚醒した食欲に、どんどん罪悪感が薄らいでいく。
その上あんまり嬉しそうにアシュレイを見守るから、いつの間にか食べ物の美味しさと相まって、幸せな気持ちに浸っていた。
***
「力が入ってる。そこで手綱を引いたら、馬が混乱する」
食後の帰り道には馬上で手綱を預かって、アルダから乗馬の指導を受けていた。
「そうだ。いいぞ。元々身のこなしは悪くない。身体も軽いから、すぐに乗りこなせるようになる」
アルダに褒められて、気を良くする。
馬上でバランスを取りながら、前方の景色を見渡す。
(なんて新鮮!)
目線は高く、空が近い。
大地には豊かな緑が絨毯の如く広がっている。
風はそよそよと心地よく、花の甘い香りを運ぶ。
「こら。慣れたからといって、余所見するほどの腕前か? 油断するな」
すぅと、心地よさに深呼吸した拍子に、体幹が崩れる。
傾いだ身体は、落馬する前に腰を引かれて、アルダの胸元に収まった。
「……ありがと」
礼を述べたものの、距離の近さに、慌てて進行方向に視線を戻す。
腰に回ったアルダの腕、背中に触れる胸の温かさが、気恥ずかしい。
アシュレイがうっかり身体を預けても、びくともしない。
この逞しさには、惚れ惚れする。
(昔の私だったら、腕相撲くらい勝てたかしら? ううん、今からだって……)
体格に恵まれていた千春だって、本格的に鍛え始めたのは自衛官になってからだ。
アシュレイはまだ16歳だ。これからでも遅くない。
「そういえば、アルダはいくつ?」
「歳か? 来月19になる」
さりげなく、触れぬよう背を逸らして、控え目に尋ねる。
「ええっ? 若い。もう少し上かと思ってた。とても逞しいように見えるけど、何か鍛錬をしてる?」
アシュレイを攫い出した時の手腕も見事だった。
あの身のこなしで、すっかり盗賊の一員なのだと信じ込んだ。
「まあな。剣でも槍でも一通りは嗜む。近頃はさぼりがちだがな……」
アルダが言い淀んだので、アシュレイは勝手に早合点した。
そうか。昔は教育を受けられるくらいに家計の余裕があったけど、今はそうではないんだものね……。
訊いてはいけない質問だったと、次の話題を考える。
「俺はお前について知ってるぞ。アシュレイ・シャプール・セレンティア。16歳。オスローの血を引く第一王女、アラウァリア国王の19人目の妃となるべく、王都に向かう。メルンで略奪せよ」
しかし、次の話題を攫ったのはアルダだ。
アルダはアシュレイの腰に腕を回したまま、考えるようにして続けた。
「それが、貴方が入手した情報なのね……?」
「ああ。今更だが、お前はどうして逃げようと思ったんだ? この通り、アラウァリアは肥沃な国土の広大な国だ。両国の間には特に摩擦もない。……アラウァリア王がオッサンだからか? それとも19番目が気に入らなかったのか?」
アルダは軽く首是すると、冗談交じりに尋ねる。
王族や貴族の婚姻は、本人の意に沿うほうが稀だ。
アラウァリア王なら悪くない、アルダもそう考えるのか。
胸がツキンと小さく痛んだ。
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