王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

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予感

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「臭うって、言った? まさか、私?」

 アルダは神妙な顔つきで、首を振る。

「違う。馬から降りろ」

 全く説明が足りない。

 欲しくもない言を放つと、アルダはひらりと下馬する。

 肩透かしを食らったアシュレイは、やり場のない感情に憤慨した。

 しかし怒ったところで埒が明かない。

 痺れを切らして馬を雑木へ誘導した、アルダに続いてアシュレイも下馬する。

(もう! 何かあるにしても、こんなのってない……!)

 アルダが態度を急変させたのには、きっと何かを察知したからだ。

 わかっていても、アシュレイはすぐに切り替えられなかった。

 せめてもの意思表示で、頬を膨らませながらアルダの背を追った。

 木々の間には、整備された道はなくとも、日々通行の跡が残る道筋がある。

 アルダはそちらを避けて、身を屈めながら藪の中を進む。

 そうするうちにアシュレイの頭も冷えて、徐々に異変が感じ取れるようになった。

(本当だ。何か、匂う……)

 鼻先を掠めたのは、焦げ臭さ。

 生木が燻され、少しずつ炭化するのに似た臭い。

 風上から流れてくる。

 アルダに倣い、身を屈めて風上を探ると、樹々が開けて空が見えた。

「見てみろ」

 促されて目を凝らすと、見上げた山の中腹から、黒い煙が立ち昇っている。

 山の頂上付近にはルドレール子爵家の本邸がある。

 そこから東方に30度ほど傾斜した辺りだ。

「まさか、別邸が燃えているの……?」

 呟く声が、乾いていくのが自分でもわかる。

 アルダは頷きもしなかったが、沈黙こそが肯定なのだとわかった。

 アシュレイの居所が知れて、追手が火を放ったのか?

 だが、何のために!?

 アシュレイを探しているとすれば、サレシド商会の手の者、カシタと呼ばれる盗賊団、またはアラウァリア王直属の兵士たち……。

 いずれにしても、アシュレイを捕えることはあっても、隠れ家を燃やす動機に乏しい。

 しかし、首謀者が誰であろうが、身に危険が迫っている。

「本邸は……」

「小屋の周囲は開けているし、定期的なスコールで木も湿気っている。そう、燃え広がりはしない」

 確かな返答に、ほっと一つ息が漏れた。なら、本邸の心配は不要そうだ。

「でも、シャルが気になるから、見てくる」

 本邸の人達が一先ず無事なら、次に気になるのはシャルの存在だ。

 もしも意図的な放火なら、身の危険は火事だけでは済むまい。

 けれど、被害に遭っているかもしれないシャルを、放っては置けない。

「馬鹿か。小屋に火を放った奴らに自分から会いに行くつもりか」

 やはり、アルダも同じ見立てだ。

 放火した連中は、まだこの周辺に潜んでいる。

「だからと言って、自分が無事ならそれで良かったとはならないわ」

「シャルなら大丈夫だ。アイツは臆病な分危険に対する勘が鋭い。お前が危険に晒されても、それを感じて逃げるくらいの芸当ができる。多分、安全な場所に隠れているはずだ」

「そうならいいけど、それは……」

 それは、どうなんだ?

 アシュレイは、喉まで出かかった言葉を呑み込む。

 シャルとの付き合いはアルダのほうが長い。

 アルダがそう言うなら、そう言った傾向があるのかもしれないが、あまりな言い草だ。

 アミールも性格が捻じれていたし、どういう人選であの2人を傍に置いていたのか、疑わしくなる。

「こんな非常時にも、気を揉まずに済むからだ」

 アルダはこの時ばかり、アシュレイの心中を先読みした。

「わかったらもっと身を低くしろ」

「犯人が引き上げるまで、隠れているつもり?」

 いくら鬱蒼と樹々が生い茂る山中でも、完全に視界を遮ることはできない。

「逃げる背中を見せたら、それこそ命取りだ。火事はを誘い出す囮に過ぎない。可能なら面を拝みたいところだ。複数犯なら、捕えるのは厳しいだろうが」

(ん?)

 アシュレイは、違和感を覚えた。

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