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火蓋
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だが、2人のやり取りを見ていればわかる。
アルダシールの態度は、ただの照れ隠しだ。
「もう、素直じゃないのね。私も殿下に助けて頂いたから、わかるわ。マクシムさん」
「アシュレイ様にも、お判りいただけますか? 殿下は奥ゆかしいお方故、誤解を招きがちなのですが、本来は優しく、思慮深いお方なのです」
謝意を伝えるアシュレイに、マクシムは目を輝かせる。
”奥ゆかしい”とはまた、絶妙な表現だ。
深刻な話をしている最中なのに、笑いが込み上げた。
「どうにも美談に仕上げたいようだが、俺は自分の拠点にべリングバリ家を利用したくて恩を売ったまでだ。アシュレイも、売り払って金に換えるつもりだった」
アルダシールは何とか自分を悪党に見せたいようだが、ここまで材料が揃っては、とても悪人を装い切れない。
素直じゃない、意地悪で嘘つきなアルダシール。
空白だったパズルのピースが埋まるように、アルダの素顔が浮き彫りになる。
「ありがとうございます。アルダシール殿下。本心がどうであれ、貴方が攫ってくれなかったら、私は今頃どうなっていたかわかりません。今更だけど、礼をお受け下さい」
アシュレイはすっと立ち上がり、掲げた掌を額の前で組み合わせて、礼を取った。
輿入れが定まってから練習した、アラウァリアの習俗に則った礼だ。
今までの分も心を込めて、アシュレイは低頭した。
「止めろ。身内の恥を晒して礼を受ける謂れはない。それに、お前に殊勝な態度を取られると気持ちが悪い」
相変わらず、口が悪い。
だが、以前ほど不快ではなかった。
アルダシールの刺々しい発言は、照れ隠しの一種に過ぎない。
「とは仰いましても、アルダシール様はアラウァリアの王子殿下なのですから」
「今まで通り、アルダと呼べ。敬語も不要だ。俺だってお前をアシュレイと呼ぶ」
「……じゃあ、ありがとう。アルダ」
アシュレイは知らずの内に微笑んでいた。
あの逃亡はアルダの介入により、当初の予定と大分違う方向へアシュレイを導いた。
また、もしも逃亡を企てなかったら、アシュレイはアルダシールの父の妾妃だ。
アルダ、アシュレイと呼び合う今は訪れなかった。
今こうしてアルダの目の前にいる。
それが嬉しかった。
アルダから返事はない。面映ゆそうに視線を逸らした。
「では。ちょっと話がずれてしまったけど、本題に戻りましょう。知りたいことはまだいっぱいあるの。国王陛下は、いつからそんな状態に?」
「定かではありませんが、罷免された大臣たちの歴を遡ると、始まりは前王妃様のご逝去の頃と重なるだろうと推測できます。およそ12年ほど前からかと……」
「そんな情報をお前が知って何になる」
マクシムが実直に答えてくれるが、アルダが横から茶々を入れる。
「知っていたほうが、役に立てる機会も多いはずよ」
アルダシールの態度は、ただの照れ隠しだ。
「もう、素直じゃないのね。私も殿下に助けて頂いたから、わかるわ。マクシムさん」
「アシュレイ様にも、お判りいただけますか? 殿下は奥ゆかしいお方故、誤解を招きがちなのですが、本来は優しく、思慮深いお方なのです」
謝意を伝えるアシュレイに、マクシムは目を輝かせる。
”奥ゆかしい”とはまた、絶妙な表現だ。
深刻な話をしている最中なのに、笑いが込み上げた。
「どうにも美談に仕上げたいようだが、俺は自分の拠点にべリングバリ家を利用したくて恩を売ったまでだ。アシュレイも、売り払って金に換えるつもりだった」
アルダシールは何とか自分を悪党に見せたいようだが、ここまで材料が揃っては、とても悪人を装い切れない。
素直じゃない、意地悪で嘘つきなアルダシール。
空白だったパズルのピースが埋まるように、アルダの素顔が浮き彫りになる。
「ありがとうございます。アルダシール殿下。本心がどうであれ、貴方が攫ってくれなかったら、私は今頃どうなっていたかわかりません。今更だけど、礼をお受け下さい」
アシュレイはすっと立ち上がり、掲げた掌を額の前で組み合わせて、礼を取った。
輿入れが定まってから練習した、アラウァリアの習俗に則った礼だ。
今までの分も心を込めて、アシュレイは低頭した。
「止めろ。身内の恥を晒して礼を受ける謂れはない。それに、お前に殊勝な態度を取られると気持ちが悪い」
相変わらず、口が悪い。
だが、以前ほど不快ではなかった。
アルダシールの刺々しい発言は、照れ隠しの一種に過ぎない。
「とは仰いましても、アルダシール様はアラウァリアの王子殿下なのですから」
「今まで通り、アルダと呼べ。敬語も不要だ。俺だってお前をアシュレイと呼ぶ」
「……じゃあ、ありがとう。アルダ」
アシュレイは知らずの内に微笑んでいた。
あの逃亡はアルダの介入により、当初の予定と大分違う方向へアシュレイを導いた。
また、もしも逃亡を企てなかったら、アシュレイはアルダシールの父の妾妃だ。
アルダ、アシュレイと呼び合う今は訪れなかった。
今こうしてアルダの目の前にいる。
それが嬉しかった。
アルダから返事はない。面映ゆそうに視線を逸らした。
「では。ちょっと話がずれてしまったけど、本題に戻りましょう。知りたいことはまだいっぱいあるの。国王陛下は、いつからそんな状態に?」
「定かではありませんが、罷免された大臣たちの歴を遡ると、始まりは前王妃様のご逝去の頃と重なるだろうと推測できます。およそ12年ほど前からかと……」
「そんな情報をお前が知って何になる」
マクシムが実直に答えてくれるが、アルダが横から茶々を入れる。
「知っていたほうが、役に立てる機会も多いはずよ」
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