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火蓋
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ゴトゴト
と揺れる振動に、アシュレイの意識は浮上した。
規則的な揺れと、蹄が土を叩く音、タイヤの軋みで、馬車の中にいるのだとわかる。
(ん……私眠って……? どこへ行くのかしら)
横になっていた身体を急激に起こすと、自らを包んでいた薄く綿の入った上掛けがぱさりと落ちた。
しんとした客車の中は、カーテン越しに僅かな光を受けるだけで薄暗い。
慌てて室内を見回すと、足元に幾つもの箱が積まれている。
しかし、アルダの姿はない。
馬の蹄と軋むタイヤの音だけが延々と続く。
マクシムの邸から移動する時間まで眠っていたのか。
こんな失態を犯すほど寝不足だったのだろうかと首を捻りながら、そっとカーテンに手を伸ばす。
……と、手に触れたのはカーテンではなく幌だった。
つまり、ここは客車ではなく荷台なのか。
座席のない構造にようやく気付いて、幌の隙間に手を差し込み、隙間から様子を窺う。
外はもう、とうに日没を迎えていた。
辺りは昏く、御者台に吊るされているカンテラの灯りだけがぼんやりと輝いていた。
「アルダ……? 外にいるの?」
御者台で馬を操っているのやも。
ばさばさ、と幌を叩きながら声をかける。
すると馬車は静かに停止した。
輪郭のない濃い影が動き、幾つかの留め具を外す音が聞こえると、捲れた幌の間から姿を見せたのはマクシムだった。
「良くお眠りでしたね。お加減はいかがですか」
「マクシムさん……! すみません。こんなに、暗くなるまで眠ってしまって」
目覚めたてのところに、見知った顔があってほっと安堵する。
しかし、それでも外が気になってアシュレイは荷台から身を乗り出した。
「眠っていたとはいえ、しばらく揺られっぱなしでしたからね。少し休憩なさいますか」
「いえ……外を見てもいいですか?」
アシュレイは荷台から飛び降りると、御者台に近づき、アルダシールを探した。
しかし、台の上を見上げても、人影はない。
「マクシムさん、……アルダはどこへ?」
「殿下は……。所用があり、今はお傍におりません。代わりに私が護衛を務めさせていただきます」
マクシムは、長いローブで全身を包んでいた。ローブの裾が持ち上がり、剣を帯びているとわかる。
「護衛だなんて……気を遣って頂いて、ありがとうございます」
いないと聞かされたのに、つい未練たらしく、闇に目を凝らす。
知らずの内に抱いていた執着心に気が付いて、フルフルと首を振った。
いつの間に、こんなにアルダを気に掛けるようになったのだろう。
夢の中で囁かれた、優しい声が思い出されて、耳が熱くなる。
アシュレイは右手で左の肘を、きゅうと抱きしめる。
「よろしければ、御者台に上がりますか。見晴らしがいいですよ」
じっと台上を見上げていたせいか、マクシムが誘ってくれる。
「ありがとうございます!」
照れ隠しに、張り切った声を出す。言葉に甘えて隣に座ると、なるほど、見晴らしは良かった。
しかし、日はとっぷりと沈んで、見えるのは天と地の境界がせいぜいだ。
月明りは雲が遮っているし、カンテラの灯りも心許ない。
「先を急ぎますので、馬を出しますね」
手綱を握り、マクシムは軽く鞭を振るって馬車を進ませた。
と揺れる振動に、アシュレイの意識は浮上した。
規則的な揺れと、蹄が土を叩く音、タイヤの軋みで、馬車の中にいるのだとわかる。
(ん……私眠って……? どこへ行くのかしら)
横になっていた身体を急激に起こすと、自らを包んでいた薄く綿の入った上掛けがぱさりと落ちた。
しんとした客車の中は、カーテン越しに僅かな光を受けるだけで薄暗い。
慌てて室内を見回すと、足元に幾つもの箱が積まれている。
しかし、アルダの姿はない。
馬の蹄と軋むタイヤの音だけが延々と続く。
マクシムの邸から移動する時間まで眠っていたのか。
こんな失態を犯すほど寝不足だったのだろうかと首を捻りながら、そっとカーテンに手を伸ばす。
……と、手に触れたのはカーテンではなく幌だった。
つまり、ここは客車ではなく荷台なのか。
座席のない構造にようやく気付いて、幌の隙間に手を差し込み、隙間から様子を窺う。
外はもう、とうに日没を迎えていた。
辺りは昏く、御者台に吊るされているカンテラの灯りだけがぼんやりと輝いていた。
「アルダ……? 外にいるの?」
御者台で馬を操っているのやも。
ばさばさ、と幌を叩きながら声をかける。
すると馬車は静かに停止した。
輪郭のない濃い影が動き、幾つかの留め具を外す音が聞こえると、捲れた幌の間から姿を見せたのはマクシムだった。
「良くお眠りでしたね。お加減はいかがですか」
「マクシムさん……! すみません。こんなに、暗くなるまで眠ってしまって」
目覚めたてのところに、見知った顔があってほっと安堵する。
しかし、それでも外が気になってアシュレイは荷台から身を乗り出した。
「眠っていたとはいえ、しばらく揺られっぱなしでしたからね。少し休憩なさいますか」
「いえ……外を見てもいいですか?」
アシュレイは荷台から飛び降りると、御者台に近づき、アルダシールを探した。
しかし、台の上を見上げても、人影はない。
「マクシムさん、……アルダはどこへ?」
「殿下は……。所用があり、今はお傍におりません。代わりに私が護衛を務めさせていただきます」
マクシムは、長いローブで全身を包んでいた。ローブの裾が持ち上がり、剣を帯びているとわかる。
「護衛だなんて……気を遣って頂いて、ありがとうございます」
いないと聞かされたのに、つい未練たらしく、闇に目を凝らす。
知らずの内に抱いていた執着心に気が付いて、フルフルと首を振った。
いつの間に、こんなにアルダを気に掛けるようになったのだろう。
夢の中で囁かれた、優しい声が思い出されて、耳が熱くなる。
アシュレイは右手で左の肘を、きゅうと抱きしめる。
「よろしければ、御者台に上がりますか。見晴らしがいいですよ」
じっと台上を見上げていたせいか、マクシムが誘ってくれる。
「ありがとうございます!」
照れ隠しに、張り切った声を出す。言葉に甘えて隣に座ると、なるほど、見晴らしは良かった。
しかし、日はとっぷりと沈んで、見えるのは天と地の境界がせいぜいだ。
月明りは雲が遮っているし、カンテラの灯りも心許ない。
「先を急ぎますので、馬を出しますね」
手綱を握り、マクシムは軽く鞭を振るって馬車を進ませた。
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