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火蓋
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「……どこへ、向かうんですか?」
夜の草原は、昼間と比べて気温がぐっと下がっている。
馬の速度はそこまで早くなくても、通り抜ける風が肌寒い。
「アシュレイ様の上着は後ろですね。少し大きいですが、こちらをお召しください」
マクシムは素早くローブを留めていた紐を解くと、アシュレイの肩に掛けた。
「ありがとうございます。マクシムさんこそ、寒くないですか?」
「私はこのままで問題ありません。上着は防寒ではなく、顔を隠すためのものですから、今は必要ありません。どうかお気遣いなく」
マクシムは当初抱いたイメージ通り、柔和な態度で親切な対応をしてくれる。
しかし、どことなくぎこちないのは……気のせいだろうか?
「間もなく小さな集落がありますから、そこで休みましょう」
注視していると、なるほど、不審だ。
前方を見据える目が、泳いでいる。
「マクシムさん……不躾で申し訳ありませんが、何か隠していませんか?」
アシュレイは違和感の正体を詮索するでもなく、直球で質問をぶつけた。
するとマクシムは面白いくらい露骨に――ぎっくんと、全身で身じろいだ。
これは、隠してる。
と一目でわかった。
アルダシールはポーカーフェイスで、なんやかやと煙に巻く。
なるほど、主従が正反対の性格でも、相性は悪くないらしい。
「ごめんなさい。隠してますね……」
アシュレイは気の毒になって、掌を立てて一旦、謝罪した。
「で、何を隠しているんですか?」
じいっと目を見つめると、いたたまれなくなったらしく、サッと逸らされる。
言い逃れができないくらい、はっきりと態度に出しているのに、マクシムは頑なに否定した。
「何も、隠してなどおりません」
「いやっ、否定は無理がありますよ! そんなに動揺して、絶対嘘だってバレバレです。アルダがいないのと、関係あるんですか?」
「関係、ありません……! 私は、嘘など……っ」
マクシムの必死さは、逆に滑稽さを際立てた。
「関係あるんですね、アルダがいないのと。じゃあ、どんな理由で……」
「決めつけないでください。理由……いえ、理由など、ないのです。そもそも嘘をついていませんから」
マクシムの主人がアルダシールなのだから、アルダシールと関係があるに決まっている。
カマをかけられているだけなのに、ドツボに嵌るマクシムの姿が可笑しい。
偽りを見破る。割と緊迫している場面なのに、笑いが込み上げた。
「こんな真面目な人に嘘を吐かせるなんて、アルダは残酷ね」
理不尽に笑われても、噓つきと不名誉な烙印を押されても、偽りを暴かれるよりはマシらしい。
マクシムは眉を八の字に、口は引き結んだまま押し黙った。
夜の草原は、昼間と比べて気温がぐっと下がっている。
馬の速度はそこまで早くなくても、通り抜ける風が肌寒い。
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「ありがとうございます。マクシムさんこそ、寒くないですか?」
「私はこのままで問題ありません。上着は防寒ではなく、顔を隠すためのものですから、今は必要ありません。どうかお気遣いなく」
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しかし、どことなくぎこちないのは……気のせいだろうか?
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するとマクシムは面白いくらい露骨に――ぎっくんと、全身で身じろいだ。
これは、隠してる。
と一目でわかった。
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なるほど、主従が正反対の性格でも、相性は悪くないらしい。
「ごめんなさい。隠してますね……」
アシュレイは気の毒になって、掌を立てて一旦、謝罪した。
「で、何を隠しているんですか?」
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言い逃れができないくらい、はっきりと態度に出しているのに、マクシムは頑なに否定した。
「何も、隠してなどおりません」
「いやっ、否定は無理がありますよ! そんなに動揺して、絶対嘘だってバレバレです。アルダがいないのと、関係あるんですか?」
「関係、ありません……! 私は、嘘など……っ」
マクシムの必死さは、逆に滑稽さを際立てた。
「関係あるんですね、アルダがいないのと。じゃあ、どんな理由で……」
「決めつけないでください。理由……いえ、理由など、ないのです。そもそも嘘をついていませんから」
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「こんな真面目な人に嘘を吐かせるなんて、アルダは残酷ね」
理不尽に笑われても、噓つきと不名誉な烙印を押されても、偽りを暴かれるよりはマシらしい。
マクシムは眉を八の字に、口は引き結んだまま押し黙った。
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