王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

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火蓋

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 これ以上追及しても、彼は口を割ってくれそうにない。

 アシュレイは境界の曖昧になった地平線に目を向けた。

 地平の向こうの一点が、仄かに朱に染まっている。

 きっと集落があるのだろう。

(……隠すとしたら、何かしら。どんな理由があって)

 先刻、べリングバリ邸で、秘密を共有してもらって、仲間に加えてもらえたような心地でいたのに。

 それをまたこうして間に線引きされる――と、自ずと悟って、唐突に虚無に突き落とされた心地になった。



 アルダシールは、切り離す選択をしたんだ。



 ちょっと考えれば、わかることだった。

 アシュレイが眠りこけて起きなくても、必要ならアルダシールは連れ回す。

 逆に、不要となれば、泣こうが喚こうが置いて行く。

「私、置いて行かれたんだ……」

 アシュレイはマクシムに向けたままの、呆れ笑いのような表情で呟いた。

「それで、ごねたら厄介だから……、眠らせたんだ。酷いわあ」

 一つ思い至れば、容易く不審に行き着く。

 あのタイミングで寝落ちするなんて、変だと思った。

 だから、妙に優しい声で囁いたんだ。

「でも、だからって、食べ物に睡眠薬を盛ったりする? ちょっと非常識が過ぎますよね?」

 恨み節を唱えたって、マクシムにはどうにもできないだろう。

 眠りに落ちる間際の、あの、愛しむような優しい声。

 瞼に落とされた温もり。

 あれは夢じゃなかったんだ。きっと、アルダシールのものだった。

 思い出されると、胸がぎゅっと締め付けられる。

 こんな風に、苦しくなるのは嫌だから、思い出したくない。

 けれど、記憶はアシュレイの胸の内に深く刻まれていた。

 身勝手な男から、運良く解放された。置いて行ってくれて清々する。

 それくらいの感懐がちょうどいい。

 結局アルダシールは、アシュレイの乙女心を弄んだのだ。

 アシュレイは一度もまともな恋愛をしたことがない。

 お陰でうっかり絆されるところだった。

 男女を匂わせる関係に、免疫がないせいで……。

「ウソつき。手放したくないって、一緒に逃げようって、言ったくせに……」

 もっと沢山、思いつく限りの悪口で罵りたいのに、できない代わりに涙がこぼれた。

 もう手遅れなのだろうか?

 たったの数日、何度か優しくされただけで、アシュレイの心はすっかりアルダシールに依存してしまったのか?

「申し訳ありません」

「マクシムさんが謝る問題ではありません」

「そこまでお察し頂いているなら、隠しても無意味です。私は殿下に、アシュレイ様をオスローへお連れするよう指示されました」

 やっぱりね。と、アシュレイは唇を噛んだ。

 流れた涙が唇を湿らせる。

「総てはアシュレイ様を想う殿下の愛情故です。殿下がアシュレイ様を手放したくないと仰ったなら、それは真実です」

 アシュレイは俯いているから、マクシムがどんな表情を向けているのか、伺えない。

 しかし、そこでまた、釈然としない思いが生まれた。

(アルダが嘘を吐いていないのなら、アルダは私とオスローへ逃げたかったって……こと?)
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