王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

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行軍

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「こうして貴方がお越し下さる日が来なければいいと、私は心のどこかで祈っていました」

 アシュレイをマクシムに託してから丸二日後、アルダシールはアラウァリア国最北東の国境地、ベルツに入城した。

 ベルツ城主は、ナセル・ベラミ辺境伯。

 目の前の人物は辺境伯の伯父に当たる伯爵、ギルフォード・ベラミだ。

 現辺境伯の父デュセルが戦死したため、若干13歳の息子が家督を引き継いだものの、実質的な執務はギルフォードが担っていた。

 人払いしたギルフォードの執務室で、アルダシールは彼と向かい合っていた。

 ギルフォードは父と同じ年頃だと聞いている。

 後ろに撫でつけるよう短く刈り込んだ黒髪にはやや白髪が混じるものの、全く老いを感じさせない風貌をしていた。

 ダークブラウンの瞳に通った鼻梁、顎先が尖り、頭髪より幾分色素の薄い髭を生やしていた。

 精悍な顔立ちは歴戦の兵士そのものといった風情だが、品の良い所作や物腰は紳士然としている。

 彼はかつてアムスタの……アルダシールの母の、夫となるはずの男だった。

「……すべて、私の不徳の致すところです」

 今回の騒動の発端はすべて、アルダシールの父アルタクセルにある。

 その上、第一王子のアルダシールは、神出鬼没の放蕩息子で通っている。

 国境の守り人として、国家の片翼を担う辺境伯爵家からすれば、王室の醜聞は聞くに耐えないものだろう。

 今更何の用だと突き放されても仕方ない。

「いえ、申し訳ありませんでした、殿下! 頭をお上げください」

「何故? 卿の言葉は真実だ」

「殿下のお人柄を試すような言動、どうかお許しください」

 ギルフォードから、威圧的な態度が消える。

 ギルフォードは直立し頭を下げるアルダシールの前に回り込むと、跪いて恭しく礼を取った。

「此度の件は、殿下の落度ではない、それが正直な意見です。私が恐れていたのは、国家の危機であり、殿下との謁見ではありません。殿下の器量は、この目でしかと拝見しました。ご無礼をお詫びし、改めて二心ない忠誠を誓います」

「これしきのやり取りでどうやって器量が知れたかわからんが、卿の度量の広さに感謝しましょう。……先ずは掛けさせてもらいます。本題に入りましょう」

 ギルフォードの態度が一変するや否や、アルダシールもいつもの傲岸不遜な振舞いに戻って、椅子の一つにドッカと腰を下ろした。

 ただ一つ、言葉遣いだけは敬意を払ってそのままに。

 ギルフォードは一度、唖然と目を見張ったが、直ぐに口元を綻ばせた。

 自らもテーブルに着き、アルダシールの正面に腰を下ろした。

「前置きはお嫌いでしょうから、結論から申し上げます。書簡にて照会のありましたアムスタ王妃から託された侍女は確かに、このベルツ城にて匿っております」

 先ほどは初対面で、随分と皮肉な態度を取られたが、なるほど。ギルフォードの瞳は澄み、声にも澱みがない。

 裏表なく生きて来た男の、清々しい人柄にアルダシールは素直に好感を持った。

(これが、母上が想いを寄せていた男か)

 母アムスタは、この地でベラミ伯に次ぐ有力な貴族、パーシヴァル家の令嬢だった。

 ベラミ家とパーシヴァル家には交流があった。
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