77 / 223
行軍
7
しおりを挟む
「で、マクシムさんと別れた後からの話ですよね。ザイードって人に撃たれたところは覚えてますか?」
アシュレイは椅子に掛け直すと、マクシムの記憶にない空白の時間を、解説し始めた。
「……つまり、あの3人をアシュレ……チハルが1人で討ち取ったと!? 他の2人はともかく、あの、ザイードを??」
「セバスチャ先生がマクシムさんを見てくれている間に、もう一度あの場所へ様子を見に行ったんです。ジェニスが、死体は隠した方がいいっていうから。そうしたらザイードの死体だけなくって……あいつだけ、仕留め損ねました。マクシムさんを撃った仇なのに、ごめんなさい」
アシュレイは順を追って説明してくれた。
マクシムが離脱した後、アシュレイは3人と対決し、マクシムを探し当てた。
マクシムは街の西方に逸れた茂みの傍で倒れていた。どうやら逃亡の末に落馬して気を失っていたらしい。
馬が付近をうろついていたのが、目印になったようだ。
「それにしても、よく私を運べましたね。それもお1人で。馬に乗せたと言っても、どうやって」
「それはね、てこの原理ってのが……まあ、紐で括ったりして、結構乱暴にしちゃって、ごめんなさい……」
アシュレイは目覚めないマクシムを抱えて途方に暮れながら村に入った。
そこでたまたま目に付いた鍛冶屋の戸を叩いた。
マクシムの身体から銃弾を取り出すために、道具を借りようと考えたそうだ。
「それで、ジェニスとソノラが私の顔を見て……という訳ですか。では、弾を取り出した話も本当ですか? いったいどうやって……ア……チハルは魔法使いなのですか」
「いや、めっちゃ道具とか使ってるし。ごめんなさいね、私初見だから、いらないところ傷付けちゃったかも……でも、こうして目が覚めて本当に良かった! 運が良かったのよ、あの2人も知り合いだったし……多分、それ以上の仲間ですよね? あんまり詳しくは話してもらえてないけど……お互い、まだ腹の探り合いしてる感じだったから」
アシュレイはあっけらかんと笑った。
この女性がこのような偉業を1人で成し遂げたなど、俄かには信じられない。
しかし、説明は冒頭から結末迄、全部辻褄が合っている。
信じられないような偉業の一部始終を聞いて、マクシムは瞑目した。
でも、きっとそれらは事実だ。
するとこの頬の傷は、その時に負ったものか……!
(だとしたら……アシュレイ様は、私の命の恩人。何と、尊い……!)
護るはずだった人に護られて、騎士として不甲斐ない。
その思いはマクシムを苛んだが、何とも言えぬ高揚感が同時に込み上げた。
悪に与する邪悪な者を討ち破り、傷ついた戦士を救い癒す。
マクシムにとってそれらは人智を越えた、神の御業のようにすら感じられた。
神の御業を施せるのは、神か、それに準ずる者だけだ。
その、女神が手ずから水まで……畏れ多さと感動に、目頭が熱くなる。
「マクシムさん? 大丈夫ですか……先生を呼びますか?」
感激の身震いを、アシュレイは痛みに苦しんでいると解釈したようだ。
「いいえ……これは歓喜のあまり……。アシュレイ様は我が国の危機に神が遣わしたもうた神の代理人……聖女に違いありません」
「はい? どうしてそうなるんです。それと、名前……」
アシュレイは困ったような顔で、マクシムに顔を寄せる。
アシュレイは椅子に掛け直すと、マクシムの記憶にない空白の時間を、解説し始めた。
「……つまり、あの3人をアシュレ……チハルが1人で討ち取ったと!? 他の2人はともかく、あの、ザイードを??」
「セバスチャ先生がマクシムさんを見てくれている間に、もう一度あの場所へ様子を見に行ったんです。ジェニスが、死体は隠した方がいいっていうから。そうしたらザイードの死体だけなくって……あいつだけ、仕留め損ねました。マクシムさんを撃った仇なのに、ごめんなさい」
アシュレイは順を追って説明してくれた。
マクシムが離脱した後、アシュレイは3人と対決し、マクシムを探し当てた。
マクシムは街の西方に逸れた茂みの傍で倒れていた。どうやら逃亡の末に落馬して気を失っていたらしい。
馬が付近をうろついていたのが、目印になったようだ。
「それにしても、よく私を運べましたね。それもお1人で。馬に乗せたと言っても、どうやって」
「それはね、てこの原理ってのが……まあ、紐で括ったりして、結構乱暴にしちゃって、ごめんなさい……」
アシュレイは目覚めないマクシムを抱えて途方に暮れながら村に入った。
そこでたまたま目に付いた鍛冶屋の戸を叩いた。
マクシムの身体から銃弾を取り出すために、道具を借りようと考えたそうだ。
「それで、ジェニスとソノラが私の顔を見て……という訳ですか。では、弾を取り出した話も本当ですか? いったいどうやって……ア……チハルは魔法使いなのですか」
「いや、めっちゃ道具とか使ってるし。ごめんなさいね、私初見だから、いらないところ傷付けちゃったかも……でも、こうして目が覚めて本当に良かった! 運が良かったのよ、あの2人も知り合いだったし……多分、それ以上の仲間ですよね? あんまり詳しくは話してもらえてないけど……お互い、まだ腹の探り合いしてる感じだったから」
アシュレイはあっけらかんと笑った。
この女性がこのような偉業を1人で成し遂げたなど、俄かには信じられない。
しかし、説明は冒頭から結末迄、全部辻褄が合っている。
信じられないような偉業の一部始終を聞いて、マクシムは瞑目した。
でも、きっとそれらは事実だ。
するとこの頬の傷は、その時に負ったものか……!
(だとしたら……アシュレイ様は、私の命の恩人。何と、尊い……!)
護るはずだった人に護られて、騎士として不甲斐ない。
その思いはマクシムを苛んだが、何とも言えぬ高揚感が同時に込み上げた。
悪に与する邪悪な者を討ち破り、傷ついた戦士を救い癒す。
マクシムにとってそれらは人智を越えた、神の御業のようにすら感じられた。
神の御業を施せるのは、神か、それに準ずる者だけだ。
その、女神が手ずから水まで……畏れ多さと感動に、目頭が熱くなる。
「マクシムさん? 大丈夫ですか……先生を呼びますか?」
感激の身震いを、アシュレイは痛みに苦しんでいると解釈したようだ。
「いいえ……これは歓喜のあまり……。アシュレイ様は我が国の危機に神が遣わしたもうた神の代理人……聖女に違いありません」
「はい? どうしてそうなるんです。それと、名前……」
アシュレイは困ったような顔で、マクシムに顔を寄せる。
323
あなたにおすすめの小説
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる