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開戦
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アシュレイの姿は見えていない筈だが、それでも目が合った気がした。
「アルダ!」
アシュレイはアルダシール目掛けて走り出していた。
手順を飛ばせば不審者と認識されると分かっていたのに、我慢できなかった。
先に確認を取りに行った男を追い抜いて、地に腰を下ろし食事をとる面々の間を縫って、アルダシールの前まで走り寄る。
不思議と誰も、アシュレイを咎めたり、留めたりする者はなかった。
アシュレイはアルダシールの前まで駆け寄ると、その勢いのまま抱きついた。
「アルダ! 会えて良かった!!」
「アシュレイ!?」
アルダシールは驚きに目を見開いた。
束の間、眩しそうに目を細めたが、すぐに表情を引き締めた。
自分の胸の高さにあるアシュレイの頭に手を乗せると、そのまま押し戻す。
「何故お前がここにいる!? マクシムはどうした?」
押し戻されたのと同時に、サッと頭の熱が引いた。
思わず抱きついてしまった、行動の未熟さに耳が熱くなる。
「ごめんなさい。つい、嬉しくて……。こっちにも事情があって」
アシュレイの迂闊な行動に、周囲から騒めきが起こった。
アルダシールが警戒なく接しているから、それでも皆その場を動かず見守っている。
「マクシムさんが、騎士団の人に撃たれたの。それで事情が変わって、貴方を追って来たのよ。……この2人はジェニスとソノラ。会ったことがあるでしょう?」
「マクシムが撃たれた……?」
アルダシールは、どさくさ紛れにアシュレイの背後まで来ていた2人に目を移した。
ジェニスとソノラは示し合わせたように、ローブの裾を左手で払い上げると、その場に膝をついて頭を垂れる。
「お久しゅうございます、アルダシール殿下。いよいよ決起されると聞き、微力ながら馳せ参じました。ミョソ村のソノラです」
「同じくジェニスです。再会できて嬉し……いや、光栄です、ございます」
2人は同時に顔を上げ、口上を述べた。
ジェニスが言葉遣いに苦労している姿が、なんだかおかしい。
「ああ、覚えている。良く来てくれた。……話は中で聞こう」
笑いを堪えたアシュレイを前に、アルダは厳しい目で天幕の中へと誘った。
確かに、このような衆目に晒される中でする内容の話ではない。
中では2人の騎士らしき男性たちがいた。
1人は食事をとり、もう1人は近くに控えてそれを見守っている様子だ。
「どちらからのお客様ですか。可愛らしい声が聞こえましたが」
アシュレイたちが天幕へ入ると、簡易式のテーブルで食事をしていた男性が立ち上がった。
後ろに撫でつけられた黒髪にはいくらか白いものが見られるものの、全身から歴戦の勇士というような威厳が漂っていた。
目線がこちらに向いている気がして、アシュレイは頭を下げた。
それに、ソノラとジェニスが続く。
「アルダ!」
アシュレイはアルダシール目掛けて走り出していた。
手順を飛ばせば不審者と認識されると分かっていたのに、我慢できなかった。
先に確認を取りに行った男を追い抜いて、地に腰を下ろし食事をとる面々の間を縫って、アルダシールの前まで走り寄る。
不思議と誰も、アシュレイを咎めたり、留めたりする者はなかった。
アシュレイはアルダシールの前まで駆け寄ると、その勢いのまま抱きついた。
「アルダ! 会えて良かった!!」
「アシュレイ!?」
アルダシールは驚きに目を見開いた。
束の間、眩しそうに目を細めたが、すぐに表情を引き締めた。
自分の胸の高さにあるアシュレイの頭に手を乗せると、そのまま押し戻す。
「何故お前がここにいる!? マクシムはどうした?」
押し戻されたのと同時に、サッと頭の熱が引いた。
思わず抱きついてしまった、行動の未熟さに耳が熱くなる。
「ごめんなさい。つい、嬉しくて……。こっちにも事情があって」
アシュレイの迂闊な行動に、周囲から騒めきが起こった。
アルダシールが警戒なく接しているから、それでも皆その場を動かず見守っている。
「マクシムさんが、騎士団の人に撃たれたの。それで事情が変わって、貴方を追って来たのよ。……この2人はジェニスとソノラ。会ったことがあるでしょう?」
「マクシムが撃たれた……?」
アルダシールは、どさくさ紛れにアシュレイの背後まで来ていた2人に目を移した。
ジェニスとソノラは示し合わせたように、ローブの裾を左手で払い上げると、その場に膝をついて頭を垂れる。
「お久しゅうございます、アルダシール殿下。いよいよ決起されると聞き、微力ながら馳せ参じました。ミョソ村のソノラです」
「同じくジェニスです。再会できて嬉し……いや、光栄です、ございます」
2人は同時に顔を上げ、口上を述べた。
ジェニスが言葉遣いに苦労している姿が、なんだかおかしい。
「ああ、覚えている。良く来てくれた。……話は中で聞こう」
笑いを堪えたアシュレイを前に、アルダは厳しい目で天幕の中へと誘った。
確かに、このような衆目に晒される中でする内容の話ではない。
中では2人の騎士らしき男性たちがいた。
1人は食事をとり、もう1人は近くに控えてそれを見守っている様子だ。
「どちらからのお客様ですか。可愛らしい声が聞こえましたが」
アシュレイたちが天幕へ入ると、簡易式のテーブルで食事をしていた男性が立ち上がった。
後ろに撫でつけられた黒髪にはいくらか白いものが見られるものの、全身から歴戦の勇士というような威厳が漂っていた。
目線がこちらに向いている気がして、アシュレイは頭を下げた。
それに、ソノラとジェニスが続く。
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