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代償
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途端、呼吸もままならぬような熱風が押し寄せた。
煙の刺激も相俟って、目が潤み出す。
「アルダ!!」
大声で呼びかけると、ガラガラと建物が崩壊するような音が、鼓膜を震わせた。
アシュレイの頭上にも、パラパラと何かの欠片が降り注ぐ。
この塔は頑強な石造りだったはずだが、熱を帯びて天井が崩れ始めているのかもしれない。
「アルダシール!! いるの!?」
煙が充満していて、視界は断片的なものだ。
呼び声にも返事はない。
部屋には奥行きがありそうだ。けれども部屋である以上はたかが知れている。
されど途方もなく広大な、灼熱の砂漠に身を置かれたようだった。
「アル……うっ、ケホッ」
大きく息を吸ったせいで、気管が痛む。
再び口元へ袖を当てて、呼吸を整えようと試みるが、上手く行かない。
目を開けているのも辛くなって、一度瞼を閉じた。
それでも煙は容赦なく忍び込み、眼球を刺激する。
(……目が痛……い……)
目の奥がズキズキと痛む。
「アルダ……」
声にならぬ声でアルダシールを呼んだ。
”ひょっとしたら、ここにはいないかもしれない”
”もし、いたとして、このザマでは助けられないかもしれない”
(いいえ! 絶対に、助けるのよ! 今度は、私が……!)
ふと胸中を過った弱音を、ぶんぶんと首を振って頭から追い出す。
覚悟をして目を開けた。
根拠などないけれど、アシュレイの中の何かが、ここから離れてはならないと警鐘を鳴らしている。
故に、1人逃げ出す選択肢はない。
涙に霞む視界の中、目を凝らした。
だがやはり、黒々とした煙の塊と、火柱が、壁の如く立ち塞がるのみだ。
この中のどこに、アルダシールがいるのか?
「アルダ!!」
煙を吸い込まぬように、覆いの下で息を吸ってから声を張り上げた。
「アルダーッ!! ごほっ、うっ……」
闇雲に叫び、進んでも何も見えない。
それどころかいつの間にか、元来た道筋さえも分からなくなった。
頽れそうになる太腿を叩く。
バチンッ
「熱っ!」
後方で、大きく陽が爆ぜた。その衝撃に弾かれるように、膝を突く。
諦める気はないのに、次第に頭に靄が掛かったように、視界が朧になって行く。
一切が遠ざかるような錯覚に陥った。
――だから、だろうか。
『もう、数歩。アルダシールは、すぐ傍にいる』
ぼんやりとした意識の向こうから、声が届いた。
はっとして、アシュレイは顔を上げる。
ほぼ同時に、ガシャン、と硝子の砕ける音が。
身を起こすより先に、驚くべき勢いで背後から風がびゅうと流れ込み、炎と黒煙を押し流した。
煙の刺激も相俟って、目が潤み出す。
「アルダ!!」
大声で呼びかけると、ガラガラと建物が崩壊するような音が、鼓膜を震わせた。
アシュレイの頭上にも、パラパラと何かの欠片が降り注ぐ。
この塔は頑強な石造りだったはずだが、熱を帯びて天井が崩れ始めているのかもしれない。
「アルダシール!! いるの!?」
煙が充満していて、視界は断片的なものだ。
呼び声にも返事はない。
部屋には奥行きがありそうだ。けれども部屋である以上はたかが知れている。
されど途方もなく広大な、灼熱の砂漠に身を置かれたようだった。
「アル……うっ、ケホッ」
大きく息を吸ったせいで、気管が痛む。
再び口元へ袖を当てて、呼吸を整えようと試みるが、上手く行かない。
目を開けているのも辛くなって、一度瞼を閉じた。
それでも煙は容赦なく忍び込み、眼球を刺激する。
(……目が痛……い……)
目の奥がズキズキと痛む。
「アルダ……」
声にならぬ声でアルダシールを呼んだ。
”ひょっとしたら、ここにはいないかもしれない”
”もし、いたとして、このザマでは助けられないかもしれない”
(いいえ! 絶対に、助けるのよ! 今度は、私が……!)
ふと胸中を過った弱音を、ぶんぶんと首を振って頭から追い出す。
覚悟をして目を開けた。
根拠などないけれど、アシュレイの中の何かが、ここから離れてはならないと警鐘を鳴らしている。
故に、1人逃げ出す選択肢はない。
涙に霞む視界の中、目を凝らした。
だがやはり、黒々とした煙の塊と、火柱が、壁の如く立ち塞がるのみだ。
この中のどこに、アルダシールがいるのか?
「アルダ!!」
煙を吸い込まぬように、覆いの下で息を吸ってから声を張り上げた。
「アルダーッ!! ごほっ、うっ……」
闇雲に叫び、進んでも何も見えない。
それどころかいつの間にか、元来た道筋さえも分からなくなった。
頽れそうになる太腿を叩く。
バチンッ
「熱っ!」
後方で、大きく陽が爆ぜた。その衝撃に弾かれるように、膝を突く。
諦める気はないのに、次第に頭に靄が掛かったように、視界が朧になって行く。
一切が遠ざかるような錯覚に陥った。
――だから、だろうか。
『もう、数歩。アルダシールは、すぐ傍にいる』
ぼんやりとした意識の向こうから、声が届いた。
はっとして、アシュレイは顔を上げる。
ほぼ同時に、ガシャン、と硝子の砕ける音が。
身を起こすより先に、驚くべき勢いで背後から風がびゅうと流れ込み、炎と黒煙を押し流した。
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