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代償
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ほんの一時、視界が晴れて、道が生まれる。
それは瞬くほどの僅かな間しかないはずだった。
だが、アシュレイには空を流れる雲の動きのように、緩やかに感じられた。
黒煙は、新たな出口となった出窓に、筋となって向かう。
先ほどの音はこの窓硝子が割れる音だった。
それでも決して良好と言える視界ではない。
だが、その窓枠の中心に立つ、何者かの影をアシュレイはその目に捉えた。
また、それよりも遥か近く、目と鼻の先にぐったりと横たわる人の姿も。
(アルダ! こんな、近くに……!)
アシュレイは、転がるように飛びついていた。
窓際に立つ人影も気になりはしたが、考えるよりも早く、咄嗟に身体が動いた。
「アルダ! しっかりして! アルダ!!」
まるでアシュレイがアルダシールの元へ駆けつけるのを待っていたかのように、現実が時を取り戻す。
うねるように炎は燃え上がり、再びアシュレイたちを包囲した。
開いた道も、たちまちに黒煙に埋められた。
「起きて、アルダ! 逃げよう! このままじゃ焼け死ぬわ」
身体を揺すっても、反応はない。
「アルダ!!」
もしや息がないのかと、恐怖に駆られる。
乱暴に身体を揺すり、頬を叩いた。
ぴくり、と筋肉が動いたようにも見える。
だが、微動しているのかいないのか、揺れる炎と煙で判別ができない。
意識がないなら、もう一刻も猶予はない。
私が連れて脱出するしか……。
これだけの体格差だ、一つ間違えれば、脱出の希望は潰える。
アシュレイは気合を入れてアルダを仰向かせた。
その上に、アシュレイも仰向けに重なった。
アルダシールの腰骨の辺りが、アシュレイの肩口に当たるように。
アルダシールの膝を巻き込むために腿を引き寄せようとするが、足が長すぎて膝まで手が届かない。
こんな状況なのに、アシュレイは苦笑した。
「っったく、手のかかる男」
身体をずらして調整し、今度こそ肩にアルダシールの膝を搦めた。
炎の中でも、深い呼吸が必要だと、肺に空気を送り込む。
熱で、焼けそうなほど胸が熱い。
1、2、3!
3つ目のカウントで、仰向けになった自らの膝を腹に引き付け、揺りかごのように弾みをつける。
一気に力を込めて振り子のように起き上がる。
勢いを利用しつつアルダシールの膝を巻き込んで、肩に担ぎ上げた。
「ぬううぅぅううっ!!!」
アルダシールを担ぎ、立ち上がった瞬間には、脳が沸騰するかと思った。
それでも歯を食いしばり、足を一歩、また一歩と踏み出す。
のしかかる重みに、足首からブチブチと筋が切れる音がする。それでも、進むしかない。
炎の合間を縫って、前進する。
(15、16……、アルダの倒れていたところまで、そんなに距離はない。もう、ちょっと)
もう一息だ。
気を引き締めて足を動かしたのに、突如としてガクンと膝が折れた。
「ああっ、そんな! 駄目……!」
堪えようとしても、一度折れてしまったら、もう戻せない。
そのままアルダシールもろとも、床に崩れる。
「ぐうぅっ!」
アルダシールの頭を庇ったは良いが、肩の関節を強打した。
手首も捻ったようで、激痛が走る。
それでも、アルダシールを離すまいと、必死に腕に力を込めた。
「いっ……うぅぅっ」
しかし、なす術もなく、アルダシールの重みで潰れる。
それは瞬くほどの僅かな間しかないはずだった。
だが、アシュレイには空を流れる雲の動きのように、緩やかに感じられた。
黒煙は、新たな出口となった出窓に、筋となって向かう。
先ほどの音はこの窓硝子が割れる音だった。
それでも決して良好と言える視界ではない。
だが、その窓枠の中心に立つ、何者かの影をアシュレイはその目に捉えた。
また、それよりも遥か近く、目と鼻の先にぐったりと横たわる人の姿も。
(アルダ! こんな、近くに……!)
アシュレイは、転がるように飛びついていた。
窓際に立つ人影も気になりはしたが、考えるよりも早く、咄嗟に身体が動いた。
「アルダ! しっかりして! アルダ!!」
まるでアシュレイがアルダシールの元へ駆けつけるのを待っていたかのように、現実が時を取り戻す。
うねるように炎は燃え上がり、再びアシュレイたちを包囲した。
開いた道も、たちまちに黒煙に埋められた。
「起きて、アルダ! 逃げよう! このままじゃ焼け死ぬわ」
身体を揺すっても、反応はない。
「アルダ!!」
もしや息がないのかと、恐怖に駆られる。
乱暴に身体を揺すり、頬を叩いた。
ぴくり、と筋肉が動いたようにも見える。
だが、微動しているのかいないのか、揺れる炎と煙で判別ができない。
意識がないなら、もう一刻も猶予はない。
私が連れて脱出するしか……。
これだけの体格差だ、一つ間違えれば、脱出の希望は潰える。
アシュレイは気合を入れてアルダを仰向かせた。
その上に、アシュレイも仰向けに重なった。
アルダシールの腰骨の辺りが、アシュレイの肩口に当たるように。
アルダシールの膝を巻き込むために腿を引き寄せようとするが、足が長すぎて膝まで手が届かない。
こんな状況なのに、アシュレイは苦笑した。
「っったく、手のかかる男」
身体をずらして調整し、今度こそ肩にアルダシールの膝を搦めた。
炎の中でも、深い呼吸が必要だと、肺に空気を送り込む。
熱で、焼けそうなほど胸が熱い。
1、2、3!
3つ目のカウントで、仰向けになった自らの膝を腹に引き付け、揺りかごのように弾みをつける。
一気に力を込めて振り子のように起き上がる。
勢いを利用しつつアルダシールの膝を巻き込んで、肩に担ぎ上げた。
「ぬううぅぅううっ!!!」
アルダシールを担ぎ、立ち上がった瞬間には、脳が沸騰するかと思った。
それでも歯を食いしばり、足を一歩、また一歩と踏み出す。
のしかかる重みに、足首からブチブチと筋が切れる音がする。それでも、進むしかない。
炎の合間を縫って、前進する。
(15、16……、アルダの倒れていたところまで、そんなに距離はない。もう、ちょっと)
もう一息だ。
気を引き締めて足を動かしたのに、突如としてガクンと膝が折れた。
「ああっ、そんな! 駄目……!」
堪えようとしても、一度折れてしまったら、もう戻せない。
そのままアルダシールもろとも、床に崩れる。
「ぐうぅっ!」
アルダシールの頭を庇ったは良いが、肩の関節を強打した。
手首も捻ったようで、激痛が走る。
それでも、アルダシールを離すまいと、必死に腕に力を込めた。
「いっ……うぅぅっ」
しかし、なす術もなく、アルダシールの重みで潰れる。
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