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新しい国
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タヒルは何かしらの方法でアルタクセルを女狂いの廃人同然に造り変えた。
今、まともに思考ができているなら、この常軌を逸した事態に晒され、正気を取り戻しつつあると考えられるのか?
アルタクセルに気を取られて、タヒルを逃がすわけにはいかない。
しかし、用心する一方で、期待に胸が震えた。
アルダシールは膝に手を突き、立ち上がった。
その時だ。
ドッと勢いづいて、アルタクセルが前方に傾倒した。
(あ……)
軽率だったと、後悔しても遅い。
気付いた時にはもう、支えようと手を伸ばしていた。
アルダシールは、アルタクセルと抱き合うように、床に倒れた。
アルダシールに覆いかぶさる形で、アルタクセルが圧し掛かっている。
詰めるような息遣いが、耳のすぐ傍で聞こえた。
腹部が焼けるように熱い。
「オホホホホ! 陛下、最後の最後で、役に立ってくださいましたわね」
次に響いたのはタヒルの高笑いだ。タヒルの手には、アルダシールの長剣が握られていた。
「タヒル…………!」
タヒルはアルタクセルごとアルダシールを刺し貫いていた。
アルダシールとアルタクセルが折り重なって倒れるのを見て、高笑いしたようだ。
「このっ、女狐……!」
アルダシールは渾身の力を振り絞って、タヒルの足を掴もうと手を伸ばす。
だが、タヒルは耳障りな笑い声を上げながら、大きく仰け反ってアルダシールの手を避けた。
「あっははは! 最期まで目障りな男だこと。けれど、お前の悪運もここまでね」
タヒルは逆手に握った長剣に体重をかけながら、アルタクセルの背から引き抜く……。
――いや、引き抜こうとしたが、できなかった。
アルタクセルが背に剣を突き立てたまま、猛然とタヒルに襲い掛かったからだ。
「え、陛……」
アルタクセルはタヒルの長い髪を鷲掴みにすると、頭を引っ張り上げた。
「この、毒婦め……!」
一回り萎んでしまった身の丈からは想像もつかないほどの怪力でタヒルを振り回し、壁に打ち付ける。
「ぎゃっ!」
悲鳴を上げたタヒルは白目を剥き、呆気なく気絶した。
「はぁ……は、ぁ……」
アルダシールは再び、立ち上がろうとするが、足が言うことを聞かない。
息が上がっているし、視界が霞んでいてアルダシールは数度頭を振る。
「父上……ご無事、で……」
アルダシールは両手で身体を支えながら、顔だけを上げた。
アルタクセルは、無言でタヒルの元へ歩み寄る。
タヒルの身体を抱え上げると、静々と供物を天に捧げるように窓辺に向かった。
まるで行く先に祭壇があるかのような厳かな動作だった。
衣の裾に火が移るのさえ厭わない。
足元から、めらめらと炎をひらめかせて歩むアルタクセルの姿は壮絶だった。
抱く妃と自らの口からは、真っ赤な血が流れ落ち、背には長剣が腹部を貫き、突き刺さっている。
だが、背から血を流すその後ろ姿は、威厳に溢れていた。
かつて深紅のローブを棚引かせ、 居並ぶ臣下の前で弁舌を振るうかつての姿を思い起こさせるほどだった。
今、まともに思考ができているなら、この常軌を逸した事態に晒され、正気を取り戻しつつあると考えられるのか?
アルタクセルに気を取られて、タヒルを逃がすわけにはいかない。
しかし、用心する一方で、期待に胸が震えた。
アルダシールは膝に手を突き、立ち上がった。
その時だ。
ドッと勢いづいて、アルタクセルが前方に傾倒した。
(あ……)
軽率だったと、後悔しても遅い。
気付いた時にはもう、支えようと手を伸ばしていた。
アルダシールは、アルタクセルと抱き合うように、床に倒れた。
アルダシールに覆いかぶさる形で、アルタクセルが圧し掛かっている。
詰めるような息遣いが、耳のすぐ傍で聞こえた。
腹部が焼けるように熱い。
「オホホホホ! 陛下、最後の最後で、役に立ってくださいましたわね」
次に響いたのはタヒルの高笑いだ。タヒルの手には、アルダシールの長剣が握られていた。
「タヒル…………!」
タヒルはアルタクセルごとアルダシールを刺し貫いていた。
アルダシールとアルタクセルが折り重なって倒れるのを見て、高笑いしたようだ。
「このっ、女狐……!」
アルダシールは渾身の力を振り絞って、タヒルの足を掴もうと手を伸ばす。
だが、タヒルは耳障りな笑い声を上げながら、大きく仰け反ってアルダシールの手を避けた。
「あっははは! 最期まで目障りな男だこと。けれど、お前の悪運もここまでね」
タヒルは逆手に握った長剣に体重をかけながら、アルタクセルの背から引き抜く……。
――いや、引き抜こうとしたが、できなかった。
アルタクセルが背に剣を突き立てたまま、猛然とタヒルに襲い掛かったからだ。
「え、陛……」
アルタクセルはタヒルの長い髪を鷲掴みにすると、頭を引っ張り上げた。
「この、毒婦め……!」
一回り萎んでしまった身の丈からは想像もつかないほどの怪力でタヒルを振り回し、壁に打ち付ける。
「ぎゃっ!」
悲鳴を上げたタヒルは白目を剥き、呆気なく気絶した。
「はぁ……は、ぁ……」
アルダシールは再び、立ち上がろうとするが、足が言うことを聞かない。
息が上がっているし、視界が霞んでいてアルダシールは数度頭を振る。
「父上……ご無事、で……」
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タヒルの身体を抱え上げると、静々と供物を天に捧げるように窓辺に向かった。
まるで行く先に祭壇があるかのような厳かな動作だった。
衣の裾に火が移るのさえ厭わない。
足元から、めらめらと炎をひらめかせて歩むアルタクセルの姿は壮絶だった。
抱く妃と自らの口からは、真っ赤な血が流れ落ち、背には長剣が腹部を貫き、突き刺さっている。
だが、背から血を流すその後ろ姿は、威厳に溢れていた。
かつて深紅のローブを棚引かせ、 居並ぶ臣下の前で弁舌を振るうかつての姿を思い起こさせるほどだった。
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