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新しい国
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いつの間にか炎は、部屋の大半を埋め尽くしていた。
止めたくとも、術がない。
元よりアルダシールはこの場をアルタクセル諸共に焼き尽くそうとしていた。
それにもう、こうして顔を起こしているのがやっとだ。
アルタクセルが出窓を開くと、新鮮な空気を求め、狂ったように炎が外界へ噴き出た。
「アルダシール……。済まなかった。逆賊の汚名はせめて私が雪ごう」
炎が駆け抜けた衝撃で、硝子が砕け散った。
キラキラと舞い散るガラスの破片と共に、アルタクセルはタヒルと共に窓から身を投げた。
ゆっくりと傾いだ身体が、宙に吸い込まれるようにして消えて行く。
(父上……!)
アルダシールは手を伸ばすが、炎が視界を遮って、残像を塗り潰した。
「父上! 父上!!」
喉が張り裂けるほど、叫んだつもりが、一つも声にならない。
アルダシールの目には、巨大な生き物のように暴れ狂う炎の残像しか映らなかった。
炎は瞬く間に、アルダシールの視界をも埋め尽くした。
***
その後のことは朧気だ。
『アルダシール、アルダシール……目覚めて……』
だが、深く落ちた眠りの底から、アルダシールを揺り起こす声があった。
懐かしくて、聞きたくて堪らなかった声だった。
アルダシールは弾かれたように、声のする方へ手を伸ばした。
『母上……!?』
だが、アルダシールの手は空を切った。朧に見えたアムスタの幻影は、淡く儚く消え失せてしまう。
『どこへ行かれるのです? せめて、一目だけでもお姿を……!』
『目覚めて……。貴方は、生きるのよ。大切な人を、救って』
大切な、人……?
――誰のことだ?
首を捻ると同時に、頬に熱い雫が触れた。
母上、何故泣いておられるのですか……?
滴った雫を手で拭う。
するとそれは、忽ち現の手触りと変化した。
ハッと目を醒ますと、アルダシールは未だ火災の只中にいた。
1人取り残され、力尽きたはずだった。
これほどの火炎に取り巻かれ、意識を取り戻せたのは奇跡だ。
気を失って、呼吸の量が減った恩恵だろうか……
と、首を巡らせようとして、すぐに命冥加の理由に行き当たった。
(お前か。アシュレイ……)
アシュレイが、アルダシールを庇うように覆いかぶさっている。
何故ここにアシュレイがいるのか、不思議でならない。
だが、アシュレイならばあり得ると、納得してしまう自分がいる。
煤だらけの頬を流れる一筋の線。
アルダシールは震える手で、アシュレイの涙を拭った。
頬は、まだ温かい。
まだ、息がある。
アシュレイが生きていると分かった途端、身体に活力が漲った。
「すまない。また、泣かせたな」
アルダシールは、自分を庇うアシュレイを落とさぬように、掬い上げた。
(不思議だ。身体が綿のように軽い……)
傷が治った訳もなく、背からは相変わらず汗なのか血なのか分からぬ液体が滴っている。
「死なせはしない……アシュレイ」
アルダシールは立ち上がると、炎の壁に向い歩みを進める。
止めたくとも、術がない。
元よりアルダシールはこの場をアルタクセル諸共に焼き尽くそうとしていた。
それにもう、こうして顔を起こしているのがやっとだ。
アルタクセルが出窓を開くと、新鮮な空気を求め、狂ったように炎が外界へ噴き出た。
「アルダシール……。済まなかった。逆賊の汚名はせめて私が雪ごう」
炎が駆け抜けた衝撃で、硝子が砕け散った。
キラキラと舞い散るガラスの破片と共に、アルタクセルはタヒルと共に窓から身を投げた。
ゆっくりと傾いだ身体が、宙に吸い込まれるようにして消えて行く。
(父上……!)
アルダシールは手を伸ばすが、炎が視界を遮って、残像を塗り潰した。
「父上! 父上!!」
喉が張り裂けるほど、叫んだつもりが、一つも声にならない。
アルダシールの目には、巨大な生き物のように暴れ狂う炎の残像しか映らなかった。
炎は瞬く間に、アルダシールの視界をも埋め尽くした。
***
その後のことは朧気だ。
『アルダシール、アルダシール……目覚めて……』
だが、深く落ちた眠りの底から、アルダシールを揺り起こす声があった。
懐かしくて、聞きたくて堪らなかった声だった。
アルダシールは弾かれたように、声のする方へ手を伸ばした。
『母上……!?』
だが、アルダシールの手は空を切った。朧に見えたアムスタの幻影は、淡く儚く消え失せてしまう。
『どこへ行かれるのです? せめて、一目だけでもお姿を……!』
『目覚めて……。貴方は、生きるのよ。大切な人を、救って』
大切な、人……?
――誰のことだ?
首を捻ると同時に、頬に熱い雫が触れた。
母上、何故泣いておられるのですか……?
滴った雫を手で拭う。
するとそれは、忽ち現の手触りと変化した。
ハッと目を醒ますと、アルダシールは未だ火災の只中にいた。
1人取り残され、力尽きたはずだった。
これほどの火炎に取り巻かれ、意識を取り戻せたのは奇跡だ。
気を失って、呼吸の量が減った恩恵だろうか……
と、首を巡らせようとして、すぐに命冥加の理由に行き当たった。
(お前か。アシュレイ……)
アシュレイが、アルダシールを庇うように覆いかぶさっている。
何故ここにアシュレイがいるのか、不思議でならない。
だが、アシュレイならばあり得ると、納得してしまう自分がいる。
煤だらけの頬を流れる一筋の線。
アルダシールは震える手で、アシュレイの涙を拭った。
頬は、まだ温かい。
まだ、息がある。
アシュレイが生きていると分かった途端、身体に活力が漲った。
「すまない。また、泣かせたな」
アルダシールは、自分を庇うアシュレイを落とさぬように、掬い上げた。
(不思議だ。身体が綿のように軽い……)
傷が治った訳もなく、背からは相変わらず汗なのか血なのか分からぬ液体が滴っている。
「死なせはしない……アシュレイ」
アルダシールは立ち上がると、炎の壁に向い歩みを進める。
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