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新しい国
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アシュレイは二度目の診察を受けてから、丁重な扱いを受けていた。
目に見える外傷はそれほどひどくなかったが、足首や筋を痛めており、自在に歩けないからだ。
肩は脱臼していたものを嵌めてもらったので、問題ないが、固定された。
アシュレイが自分で触れてみた感触では、幸い筋肉の断裂は浅く、安静にしていれば充分な回復が見込める。
左肩と右足なので、杖があれば短距離の移動ならできるのに、医師は絶対安静を言い渡した。
「そりゃ、絶対安静だって。ベッドから動かすなってお達しだ。そのために見張りを命じられてるんだから」
ベッドの前で、木製の椅子に跨り、背もたれに両肘を乗せているのは、ジェニスだ。
アシュレイはあの後身を清め、着替えさせてもらった。
だが、その時にはアルダシールが寝入っていたため、そっとしておいた。
可能な限りアルダシールを休養させるため、その間の代行をギルフォードが務めた。
実に見事な采配で、アシュレイはアルダシールがギルフォードを信頼した理由を理解した。
捕えた者は牢に繋ぎ、負傷者は、重傷者を除いて街の救護施設に輸送した。
街の住民には避難指示を解き、以降自由に過ごして良いと触れを出した。
更に並行して、奪還した王城の幾つかの部屋を、使用できるよう整えてもくれた。
部屋が準備できた段階で、アシュレイは移動を促された。
手当てをしてくれた女性、マリアナが、そのままアシュレイの世話を引き受け、何くれとなく面倒を見てくれる。
「ジェニスさん、お勤めご苦労様です。戻りましたので、休憩なさってくださいな。さあ、アシュレイ様。食事を持って来ましたよ~」
マリアナが、トレーを持って入室する。
それを見て取ってジェニスが腰を浮かせた。
「そんな、水も漏らさぬ勢いで見張らなくても、どこへも行かないって……」
「いや、アシュレイならやりかねないだろ。さっきだって、アシュレイは救護所にいるはずだったのにさ。いつの間にか王城でこんな怪我を負ってるんだから、説得力ゼロだぜ」
耳が痛い指摘に、アシュレイは苦笑いした。
ジェニスは反乱軍の天幕で、アシュレイの素性を聞いている。
第三者のいる場所でこそ、アシュレイに敬語を使うようになったが、そうでない場所ではこうして気さくな口調に戻る。
それはジェニスの気遣いと、親しみの表れで、気の置けないやり取りを有難く感じている。
マリアナも、人が善く、そういった部分にも気易さがある。
世話を焼いてもらっても気疲れせずに済む、貴重な人物だった。
「ちょっと怪我をしているだけで、大袈裟なのよ。他に負傷者もいて人手も足りていないのに、私だけこんな特別扱いなんて、気が引けるわ」
反乱軍は街外れの天幕から、街中へ拠点を移している。
アシュレイを見張るよう指示したアルダシールも、告解室での休憩後、自室に移動していた。
ギルフォードや、サヴォア将軍らの主要人物を集めて、これからの対策を協議している。
「大袈裟なものですか。殿下がどれだけアシュレイ様を大切に想っているか、お分かりになりませんか?」
マリアナはきっぱりとした声で抗議をした。
目に見える外傷はそれほどひどくなかったが、足首や筋を痛めており、自在に歩けないからだ。
肩は脱臼していたものを嵌めてもらったので、問題ないが、固定された。
アシュレイが自分で触れてみた感触では、幸い筋肉の断裂は浅く、安静にしていれば充分な回復が見込める。
左肩と右足なので、杖があれば短距離の移動ならできるのに、医師は絶対安静を言い渡した。
「そりゃ、絶対安静だって。ベッドから動かすなってお達しだ。そのために見張りを命じられてるんだから」
ベッドの前で、木製の椅子に跨り、背もたれに両肘を乗せているのは、ジェニスだ。
アシュレイはあの後身を清め、着替えさせてもらった。
だが、その時にはアルダシールが寝入っていたため、そっとしておいた。
可能な限りアルダシールを休養させるため、その間の代行をギルフォードが務めた。
実に見事な采配で、アシュレイはアルダシールがギルフォードを信頼した理由を理解した。
捕えた者は牢に繋ぎ、負傷者は、重傷者を除いて街の救護施設に輸送した。
街の住民には避難指示を解き、以降自由に過ごして良いと触れを出した。
更に並行して、奪還した王城の幾つかの部屋を、使用できるよう整えてもくれた。
部屋が準備できた段階で、アシュレイは移動を促された。
手当てをしてくれた女性、マリアナが、そのままアシュレイの世話を引き受け、何くれとなく面倒を見てくれる。
「ジェニスさん、お勤めご苦労様です。戻りましたので、休憩なさってくださいな。さあ、アシュレイ様。食事を持って来ましたよ~」
マリアナが、トレーを持って入室する。
それを見て取ってジェニスが腰を浮かせた。
「そんな、水も漏らさぬ勢いで見張らなくても、どこへも行かないって……」
「いや、アシュレイならやりかねないだろ。さっきだって、アシュレイは救護所にいるはずだったのにさ。いつの間にか王城でこんな怪我を負ってるんだから、説得力ゼロだぜ」
耳が痛い指摘に、アシュレイは苦笑いした。
ジェニスは反乱軍の天幕で、アシュレイの素性を聞いている。
第三者のいる場所でこそ、アシュレイに敬語を使うようになったが、そうでない場所ではこうして気さくな口調に戻る。
それはジェニスの気遣いと、親しみの表れで、気の置けないやり取りを有難く感じている。
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「ちょっと怪我をしているだけで、大袈裟なのよ。他に負傷者もいて人手も足りていないのに、私だけこんな特別扱いなんて、気が引けるわ」
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ギルフォードや、サヴォア将軍らの主要人物を集めて、これからの対策を協議している。
「大袈裟なものですか。殿下がどれだけアシュレイ様を大切に想っているか、お分かりになりませんか?」
マリアナはきっぱりとした声で抗議をした。
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