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密会
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それに時計台と庭園の二つのうち、時計台を選択したのはアルダシールだった。
もちろん、そんなものは単なる偶然かもしれないが……。
「そう申し上げましたわ。あそこには東屋がありますでしょう。お姉様はご存知でしたか? 建物の側からは噴水で東屋の様子が見えないようになっているんです」
カリアナはアシュレイが食いつくと見るや、ニヤリと口角を釣り上げる。
「へえ、そう……なの。そこまでは知らなかったわ」
何の根拠もないのに、あらぬ想像が頭を過ぎる。
「なら、是非一度ご覧になって、お確かめになっては? もういらっしゃらないかもしれませんけど……」
アシュレイの動揺を悟って、カリアナは溜飲を下げたようだ。
ほほほ、と高慢に笑って、踵を返す。
「予定とは違いますが、これで私も面目が保てますわ。では、お姉様。ご機嫌よう。わたくしはお母様にご報告に行かないと」
ここぞとばかりに耳障りな高笑いを残し、カリアナは嬉々として去った。
「アシュレイ様、お気になさらず。戯言に過ぎません」
予想外のショックで呆然としていたアシュレイを気遣って、キャヴスがそっと肩に手を添える。
「こう言っては何ですが、アシュレイ様の反応を面白がっているだけでしょう」
「早く部屋に戻りましょう。温かい飲み物をお持ちします。陛下もお戻りに違いありません」
2人の慰めはもっともで、普段ならアシュレイもそのように解釈しただろう。
だが、今日だけは違った。
「待って、マクシム。……やっぱり、庭園を見に行くわ」
「えっ? 王女殿下の妄言を間に受けるのですか?」
「いないことを、確かめるだけよ。直ぐ戻るわ」
どうにも胸騒ぎがしてならない。
「えっ!? でしたら私も……」
間に受けるだけくだらないと、分かっている。アルダシールを疑うような行為も恥ずかしい。
だから、マクシムは連れて行かない。
「すぐに戻るから、ちょっと待ってて」
マクシムに供をさせるのも憚られて、アシュレイは勢いよくスカートの裾を翻した。
廊下を全力ダッシュするのは、はしたないと分かっている。
人目があるうちは早歩きで、人気のない場所まで来ると一気に駆け抜けた。
「はあ、はあ……庭園はーー」
もう一度中庭に戻り、迎賓館とは反対の中央棟へ。
中央棟から修練場に続く、幅広の石階段の下に、庭園はある。
石階段の手前で足を止めると、呼吸を整えつつ階下を見下ろした。
光源は背後にあるため、庭園の様子はほとんど見て取れない。
ただ、風が凪ぐたびに、棚引いて煌めくものがある。
形状から噴水だと分かった。
(確かに、見えない……)
影に誰か、いるのかもしれないし、いないかもしれない。
いないほうがいいに決まっているのに、アルダシールの姿を探してしまうのは何故だろう。
胸が忙しく上下するのは走ってきたせいだ。
そう自分に言い聞かせながら、そっと階段を下る。
もちろん、そんなものは単なる偶然かもしれないが……。
「そう申し上げましたわ。あそこには東屋がありますでしょう。お姉様はご存知でしたか? 建物の側からは噴水で東屋の様子が見えないようになっているんです」
カリアナはアシュレイが食いつくと見るや、ニヤリと口角を釣り上げる。
「へえ、そう……なの。そこまでは知らなかったわ」
何の根拠もないのに、あらぬ想像が頭を過ぎる。
「なら、是非一度ご覧になって、お確かめになっては? もういらっしゃらないかもしれませんけど……」
アシュレイの動揺を悟って、カリアナは溜飲を下げたようだ。
ほほほ、と高慢に笑って、踵を返す。
「予定とは違いますが、これで私も面目が保てますわ。では、お姉様。ご機嫌よう。わたくしはお母様にご報告に行かないと」
ここぞとばかりに耳障りな高笑いを残し、カリアナは嬉々として去った。
「アシュレイ様、お気になさらず。戯言に過ぎません」
予想外のショックで呆然としていたアシュレイを気遣って、キャヴスがそっと肩に手を添える。
「こう言っては何ですが、アシュレイ様の反応を面白がっているだけでしょう」
「早く部屋に戻りましょう。温かい飲み物をお持ちします。陛下もお戻りに違いありません」
2人の慰めはもっともで、普段ならアシュレイもそのように解釈しただろう。
だが、今日だけは違った。
「待って、マクシム。……やっぱり、庭園を見に行くわ」
「えっ? 王女殿下の妄言を間に受けるのですか?」
「いないことを、確かめるだけよ。直ぐ戻るわ」
どうにも胸騒ぎがしてならない。
「えっ!? でしたら私も……」
間に受けるだけくだらないと、分かっている。アルダシールを疑うような行為も恥ずかしい。
だから、マクシムは連れて行かない。
「すぐに戻るから、ちょっと待ってて」
マクシムに供をさせるのも憚られて、アシュレイは勢いよくスカートの裾を翻した。
廊下を全力ダッシュするのは、はしたないと分かっている。
人目があるうちは早歩きで、人気のない場所まで来ると一気に駆け抜けた。
「はあ、はあ……庭園はーー」
もう一度中庭に戻り、迎賓館とは反対の中央棟へ。
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石階段の手前で足を止めると、呼吸を整えつつ階下を見下ろした。
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ただ、風が凪ぐたびに、棚引いて煌めくものがある。
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(確かに、見えない……)
影に誰か、いるのかもしれないし、いないかもしれない。
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胸が忙しく上下するのは走ってきたせいだ。
そう自分に言い聞かせながら、そっと階段を下る。
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