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密会
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王城は勾配のある土地に建てられた城塞都市だ。
庭園の下にも更に、勾配と階段が続いている。暗闇で、ドレス姿で、一歩踏み違えたら転がり落ちてしまいそうだなと、ふっと体が浮くような錯覚に襲われた。
最後まで降りると、ようやく目が暗闇に馴れてくる。
さわさわと流れて吹き上がる噴水の飛沫が、月の光を受けて煌めいている。
噴水は円形で、中央には女神像が置かれている。
今は真っ黒に塗りつぶされた影にしか見えないが。
その向こうには東屋がある。
なのに、ここまで来てアシュレイは怖気付いた。
噴水の、水の膜の向こう側に、蠢く影を認めたからだ。
誰のものかはまだ、判然としない。
だけれどーー
風向きの影響か、シャワシャワと弾ける飛沫の音に混じって、微かに、声が流れて来た。
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが……」
「そうだな、不安がないと言えば嘘になる。だが……」
ふわっと、声がくぐもって、途中から聞こえなくなる。
だが、それはアルダシールの声だった。
聞き違うはずがない。
「っ……!」
瞬間、ぞっと全身の毛が逆立ったような心地がした。
誰と話しているんだろう?
「私なら、陛下のお悩みをすーっと解決してあげられますよ。慰めに、寝物語はいかがですか?」
アルダシールの声は聞こえないのに、相手の声だけは耳に届く。
アルダシールは読唇術の他に、アラウァリアの武人がする独特の話し方も体得している。
近くにいる人間には聞こえても、離れている人間には通じない話し方だ。
つまり、アルダシールは意図して、声を潜めた。
「あら、まあそれは……アラウァリアの国王ともあろう方にそのように仰っていただいて、光栄です。では、早速参りましょう。邪魔の入らぬ間に」
水のカーテンを一枚隔てた向こうで、影が揺らいだ気がした。
そこでようやく、ハッとする。
万一向こうでアルダシールが他所の婦人と密会していたとして、怯んでどうする。
むしろこの場を押さえて、はっきりさせなければ!
踏み込んで、誤解だったらやや気まずいが、その時はその時で謝ればいい。
そう、決意して、アシュレイは一歩踏み出す。
影から一気に踊り出ようとして……自身の足に蹴躓いた。
「きゃっ!?」
「ーーアシュレイ様!」
アシュレイが体勢を崩すのと、背後で叫ぶマクシムの声が重なる。
抱きかかえられるようにして、アシュレイは寸でのところで転倒を免れた。
待ってて、と頼んだところで指を咥えて待機しているキャヴスとマクシムではなかった。
庭園の位置を知らないマクシムは、遅ればせながらキャヴスを追って馳せ参じた。
アシュレイの危機を回避してくれたのは大変ありがたかったが、これだけの物音が立てば、向こう側の影にも存在が露呈する。
「ありがと、マクシム……」
手を借りながら体勢を立て直して、アシュレイはマクシムに礼を言った。
覗き見は趣味が悪いけれど、もう弁解もすまいと、諦めた。
ふうと息を吐いて、そのまま進んで噴水の影に回り込む。
だがーー
「アルダ? どこへ行ったの?」
噴水の影には確かに、東屋があった。
4本の支柱と2人ほどが座れる、小さなベンチが。だが、そこにあるべき姿がない。
庭園の下にも更に、勾配と階段が続いている。暗闇で、ドレス姿で、一歩踏み違えたら転がり落ちてしまいそうだなと、ふっと体が浮くような錯覚に襲われた。
最後まで降りると、ようやく目が暗闇に馴れてくる。
さわさわと流れて吹き上がる噴水の飛沫が、月の光を受けて煌めいている。
噴水は円形で、中央には女神像が置かれている。
今は真っ黒に塗りつぶされた影にしか見えないが。
その向こうには東屋がある。
なのに、ここまで来てアシュレイは怖気付いた。
噴水の、水の膜の向こう側に、蠢く影を認めたからだ。
誰のものかはまだ、判然としない。
だけれどーー
風向きの影響か、シャワシャワと弾ける飛沫の音に混じって、微かに、声が流れて来た。
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「そうだな、不安がないと言えば嘘になる。だが……」
ふわっと、声がくぐもって、途中から聞こえなくなる。
だが、それはアルダシールの声だった。
聞き違うはずがない。
「っ……!」
瞬間、ぞっと全身の毛が逆立ったような心地がした。
誰と話しているんだろう?
「私なら、陛下のお悩みをすーっと解決してあげられますよ。慰めに、寝物語はいかがですか?」
アルダシールの声は聞こえないのに、相手の声だけは耳に届く。
アルダシールは読唇術の他に、アラウァリアの武人がする独特の話し方も体得している。
近くにいる人間には聞こえても、離れている人間には通じない話し方だ。
つまり、アルダシールは意図して、声を潜めた。
「あら、まあそれは……アラウァリアの国王ともあろう方にそのように仰っていただいて、光栄です。では、早速参りましょう。邪魔の入らぬ間に」
水のカーテンを一枚隔てた向こうで、影が揺らいだ気がした。
そこでようやく、ハッとする。
万一向こうでアルダシールが他所の婦人と密会していたとして、怯んでどうする。
むしろこの場を押さえて、はっきりさせなければ!
踏み込んで、誤解だったらやや気まずいが、その時はその時で謝ればいい。
そう、決意して、アシュレイは一歩踏み出す。
影から一気に踊り出ようとして……自身の足に蹴躓いた。
「きゃっ!?」
「ーーアシュレイ様!」
アシュレイが体勢を崩すのと、背後で叫ぶマクシムの声が重なる。
抱きかかえられるようにして、アシュレイは寸でのところで転倒を免れた。
待ってて、と頼んだところで指を咥えて待機しているキャヴスとマクシムではなかった。
庭園の位置を知らないマクシムは、遅ればせながらキャヴスを追って馳せ参じた。
アシュレイの危機を回避してくれたのは大変ありがたかったが、これだけの物音が立てば、向こう側の影にも存在が露呈する。
「ありがと、マクシム……」
手を借りながら体勢を立て直して、アシュレイはマクシムに礼を言った。
覗き見は趣味が悪いけれど、もう弁解もすまいと、諦めた。
ふうと息を吐いて、そのまま進んで噴水の影に回り込む。
だがーー
「アルダ? どこへ行ったの?」
噴水の影には確かに、東屋があった。
4本の支柱と2人ほどが座れる、小さなベンチが。だが、そこにあるべき姿がない。
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