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競い合い
高飛込 2
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「蓮の雫は、ラークで採れる希少な宝石だ。色は黒いが、蓮の花の形をしているから蓮の雫と呼んでいる。見ればすぐにわかる」
他に質問がないと見るや、ローネッドはさっさと2回目の開始を促した。
またもや数名からブーイングが起こるが、その間を縫ってマスク姿のアシュレイが崖の鋒に進み出た。
遠目で見ると、ユリウスと瓜二つだから、幻影を見ているようで不思議だ。
まるで自分がその場面に直面しているような、危うい心地になる。
切岸に立ったアシュレイは、じっと目を凝らすように深淵を覗く。
川の流れはおろか、水面までの距離さえ掴めない。
ぐっと、緊張が胸を押し上げる。
”やめたほうが良い”
制止するべきなのに、心の隅に期待を抱く自分もいる。
不可能だと信じていた思い込みを、価値観を、ひっくり返される瞬間を見てみたい。
ユリウスは息を呑み、拳を握った。
(ーーあっ)
崖下を覗き込んでから、僅か10秒。
身体が傾いだかと思うと、アシュレイは宙に向かって跳躍し、谷底に吸い込まれる。
「ひゃーっ!」
甲高い悲鳴があちこちから上がる中、ユリウスは呼吸も忘れてアシュレイの姿を目で追った。
直ぐに岩肌が邪魔になり、視界から消えたので、追うようにして茂みを飛び出す。
皆と一緒に崖下を覗くわけにはいかない。
どうなったかを、直接この目で確かめようとユリウスは斜面を降り下った。
ローネッドは心配無用と謳ったが、断崖の途中には張り出した岩もあろう。
あの高さからでは、着水の衝撃も計り知れない。
(キレイな軌道だった……アシュレイさんは、怖くないのか!?)
ユリウスは焦りと高揚に勢い余って、転げ落ちるように谷地に到着した。
茂みから湿地に顔を出す頃には何もしていないのに、全身痣だらけ、傷だらけの満身創痍となっていた。
崖上に姿を晒さないように注意しつつも、夢中で目を走らせる。
飛び込んだ位置から目で辿り、着水地点を予測した。
(途中で引っかかった形跡はない。すると、あの辺に……)
注視すると水面に、不自然に泡が集まっている部分がある。
細かな泡が、小さな飛沫を上げて弾ける一点を、固唾を飲んで見つめた。
どっ、どっ、どっ、と、今更心拍が上がる心臓を、服の上からぎゅっと鷲掴む。
……上がってこない。
もうこれ以上は息が続かないだろう。水中で何かあったに違いないと不安に襲われたその時。
唐突に水面が盛り上がってアシュレイが顔を出した。
「ぷはっ!」
生死が危ぶまれたのに、水から出たアシュレイの顔は実に晴れやかだった。
マスクが外れ、襟巻きのように首に引っかかっている。
素顔を晒しているものの、崖上にはわからないと踏んでいるのだろう。
獲得した蓮の雫を、誇らしげに右手で高く掲げて見せた。
頭上から、飛び込んだ時の比ではない歓声が上がる。アシュレイは2度大きく手を振ってから、岸に向けて泳ぎ出した。
雄々しくも、何とも可憐な仕草だった。
(どうしてあんなに輝いているんだろう。あんなに、小さいのにーー)
パチパチと、草陰から上がった拍手に目をやれば、ユリウスと同じく身を隠したマクシムと目が合う。
他に質問がないと見るや、ローネッドはさっさと2回目の開始を促した。
またもや数名からブーイングが起こるが、その間を縫ってマスク姿のアシュレイが崖の鋒に進み出た。
遠目で見ると、ユリウスと瓜二つだから、幻影を見ているようで不思議だ。
まるで自分がその場面に直面しているような、危うい心地になる。
切岸に立ったアシュレイは、じっと目を凝らすように深淵を覗く。
川の流れはおろか、水面までの距離さえ掴めない。
ぐっと、緊張が胸を押し上げる。
”やめたほうが良い”
制止するべきなのに、心の隅に期待を抱く自分もいる。
不可能だと信じていた思い込みを、価値観を、ひっくり返される瞬間を見てみたい。
ユリウスは息を呑み、拳を握った。
(ーーあっ)
崖下を覗き込んでから、僅か10秒。
身体が傾いだかと思うと、アシュレイは宙に向かって跳躍し、谷底に吸い込まれる。
「ひゃーっ!」
甲高い悲鳴があちこちから上がる中、ユリウスは呼吸も忘れてアシュレイの姿を目で追った。
直ぐに岩肌が邪魔になり、視界から消えたので、追うようにして茂みを飛び出す。
皆と一緒に崖下を覗くわけにはいかない。
どうなったかを、直接この目で確かめようとユリウスは斜面を降り下った。
ローネッドは心配無用と謳ったが、断崖の途中には張り出した岩もあろう。
あの高さからでは、着水の衝撃も計り知れない。
(キレイな軌道だった……アシュレイさんは、怖くないのか!?)
ユリウスは焦りと高揚に勢い余って、転げ落ちるように谷地に到着した。
茂みから湿地に顔を出す頃には何もしていないのに、全身痣だらけ、傷だらけの満身創痍となっていた。
崖上に姿を晒さないように注意しつつも、夢中で目を走らせる。
飛び込んだ位置から目で辿り、着水地点を予測した。
(途中で引っかかった形跡はない。すると、あの辺に……)
注視すると水面に、不自然に泡が集まっている部分がある。
細かな泡が、小さな飛沫を上げて弾ける一点を、固唾を飲んで見つめた。
どっ、どっ、どっ、と、今更心拍が上がる心臓を、服の上からぎゅっと鷲掴む。
……上がってこない。
もうこれ以上は息が続かないだろう。水中で何かあったに違いないと不安に襲われたその時。
唐突に水面が盛り上がってアシュレイが顔を出した。
「ぷはっ!」
生死が危ぶまれたのに、水から出たアシュレイの顔は実に晴れやかだった。
マスクが外れ、襟巻きのように首に引っかかっている。
素顔を晒しているものの、崖上にはわからないと踏んでいるのだろう。
獲得した蓮の雫を、誇らしげに右手で高く掲げて見せた。
頭上から、飛び込んだ時の比ではない歓声が上がる。アシュレイは2度大きく手を振ってから、岸に向けて泳ぎ出した。
雄々しくも、何とも可憐な仕草だった。
(どうしてあんなに輝いているんだろう。あんなに、小さいのにーー)
パチパチと、草陰から上がった拍手に目をやれば、ユリウスと同じく身を隠したマクシムと目が合う。
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