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決着
始まりの場所 2
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始まりの木は、女神が植えた一つの苗木。
神話は子供の寝物語になるほどで、ラークに暮らす民に知らない者はない。
だが、神話にはもう一つ、始まりを匂わせる逸話があった。
神話には外伝があり、外伝にはガロンド族の祖先とされる精霊たちの軌跡が語られている。
女神の創りし森にはやがて2人の精霊が住み着いた。
森に降り立った精霊は自らの棲家を定め、森の番人として土地を見守ることとなる。
その精霊たちが暮らした場所へ、今2人は向かっていた。
ユリウスとエステルは幼い頃、よくその場所で遊んだのだそうだ。
過去に逸話を語ったのは、エステルでなくユリウスだった。
母を亡くして塞ぎ込んでいたエステルを、ユリウスがその場所へ連れて行った。
精霊は目に見えずとも、この地で子孫を見守っている。
エステルの母も、僕の両親も同じだとーー
「ユリウスは優しいんだ。自分は平気で我慢するくせに、他人を心配するのね」
ユリウスとは今朝会ったばかりで、互いを良くは知らない。
けれど、これを伝えるのは自分の役目のような気がした。
「でも、貴方が我慢を捨てたら、もっと大勢の人が幸せになれるかもしれないのよ」
キッパリと告げると、ユリウスはハッとしたようにアシュレイを見つめる。
これはユリウスに向けた言葉だが、自身が体感した言葉でもある。
セレンティアで、じっと息を凝らすように生きていた16年間。
我慢に我慢を重ねて耐え抜いていたけれど、得られたものなどないに等しかった。
輿入れ中の失踪は、とても褒められた行為ではない。
アルダシールに救われたのも偶然だし、その後も運に助けられた。
アシュレイがいなくとも、アルダシールは王座を奪還したかもしれない。
けれど、もっと大きな犠牲を払っただろう。
自身の判断を正当化する気は毛頭ないけれど、自分の行動には価値があったと信じている。
「我慢をやめたら、誰かを幸せにすることができる……、アシュレイ様はそう思うのですか?」
「私もそうするまでわからなかったんだけど、我慢するだけで救える人なんてたかが知れてるのよ。だから幸せにしたい人を幸せにできる選択をするようにしているの。そのほうが良い結果が生まれるって、身をもって知ったから」
実際には、求める全ての人に対して救済の手は行き届いていない。
時には効率や確率論に頼らなければならない時もある。
それでも、1人でも多く救うために、力を尽くすほうがよほど潔く建設的だ。
ユリウスは、想いが上手く言葉にならないようだ。
救いを求めるように、食い入るようにアシュレイを見つめている。
サラサラと、せせらぎの音が漂ってきて、もう間もなく目的の場所だと知らせてくれた。
アシュレイを見つめ、言葉を探すユリウスは気づいていないのかもしれないが。
「ユリウスの助けを待っている人がいるように、私は感じるのだけど……ユリウスは、どう思う?」
目的地だと思われる、視線の先には小さな滝があった。
沢の上流から流れてきた水が集まり、細い糸のようにサラサラと流れている。
清水と木と、苔の世界。
積み上がった岩盤の中央をくり抜いたような空洞に、佇んでいる人影がある。
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ユリウスとは今朝会ったばかりで、互いを良くは知らない。
けれど、これを伝えるのは自分の役目のような気がした。
「でも、貴方が我慢を捨てたら、もっと大勢の人が幸せになれるかもしれないのよ」
キッパリと告げると、ユリウスはハッとしたようにアシュレイを見つめる。
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けれど、もっと大きな犠牲を払っただろう。
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「我慢をやめたら、誰かを幸せにすることができる……、アシュレイ様はそう思うのですか?」
「私もそうするまでわからなかったんだけど、我慢するだけで救える人なんてたかが知れてるのよ。だから幸せにしたい人を幸せにできる選択をするようにしているの。そのほうが良い結果が生まれるって、身をもって知ったから」
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