213 / 223
決着
二人とも 2
しおりを挟む
アシュレイは望むと望まざるとにかかわらず、その身を差し出すだろう。
世継ぎはないよりいたほうが良い。
そのためにアルダシールはリスクを冒してこの地に来た。
だから、こんなところで怯むのは間違っているーー
はずなのに、どうしてかアルダシールの心は葛藤した。
アシュレイに義務も同然の行為を迫るような真似はしたくない。
ましてや今は怪我まで負っている。それもアルダシールのせいで。
「俺は痛感した。子供のためにとこの地へ来たが、アシュレイを傷つけてまで欲しいとは思わないと。世継ぎなら、直系にこだわる必要もないんだ。授からなければ優秀な者を養子に迎えればいい」
我ながら矛盾しているとは思う。
アシュレイには自分の子を生んで欲しい。だが、授かるのは、俺を求めた結果であって欲しい。
そんな感懐を今更抱くなんて、おかしいだろうか。
アルダシールが珍しく不安に囚われていると、彷徨っていたアシュレイの目が、ピタリと定まった。
「アルダはそう思ってくれたんだ。……私たち、もっと早くちゃんと話をするべきだったわね」
小さく肩をすくめると、切り株から身を乗り出した。
今まで張り詰めていた空気がへにゃりと萎れて、怒りの鎮火が見て取れる。
世継ぎの話題は、アシュレイの負担になると避けている節があった。
まだまだ授かるチャンスがあると考えていたせいもあるが、勝手にお互いで気を揉むくらいなら、アシュレイの言う通り意思の疎通を図るべきだった。
アルダシールは肩に載せていた手を下ろして、アシュレイの手の甲を包んだ。
もう、拒絶はされない。
「私たちは国を預かる立場だからね、お世継ぎは必要だわ。でも、そうじゃなくて私は……」
態度の些細な変化にも喜びを感じたのに、でもと続いてアルダシールは固唾を飲む。
でも、の後には否定的な言葉が続くものだ。
しかし、アシュレイの表情は暗くなかった。どちらかと言えば……
(……これはどういう意味だ? アシュレイの気持ちは)
アシュレイは包み込んだアルダシールの手に指を絡めて、キュッと握り返した。
頬ははっきりと赤らんでいて、どちらかと言えば面差しは艶かしい。
魅力的で、可愛らしくて、こんな時なのについ魅入ってしまいそうになる。
普段は自由で気が強くて、手に負えないほどの跳ねっ返りなのに、たまにひどく悩ましい姿を見せる。
アルダシールはこれまで自身の女の趣味について深く考察してこなかったが、こんな時にはアシュレイこそが理想なのだと思い知らされる。
そうと意識すれば鷲掴みされたように胸が軋み、全てを投げ出して平伏し、愛を乞いたい衝動に襲われる。
アシュレイだけが掛けられる強制的な魔法だ。
「お世継ぎじゃなくて、私は貴方の赤ちゃんが欲しいの」
血の繋がった子供を望む事実に変わりはない。だが”世継ぎ”と”赤子”の言葉が示す、意味の違いは明確だった。
「お妃だからってだけじゃなくて、私が、貴方を好きだから」
アシュレイは、真っ赤になって言葉を紡いだ。
「……意味、わかる?」
控えめに、尋ねるように。
恐る恐るこちらを見上げる仕草は止めだ。
世継ぎはないよりいたほうが良い。
そのためにアルダシールはリスクを冒してこの地に来た。
だから、こんなところで怯むのは間違っているーー
はずなのに、どうしてかアルダシールの心は葛藤した。
アシュレイに義務も同然の行為を迫るような真似はしたくない。
ましてや今は怪我まで負っている。それもアルダシールのせいで。
「俺は痛感した。子供のためにとこの地へ来たが、アシュレイを傷つけてまで欲しいとは思わないと。世継ぎなら、直系にこだわる必要もないんだ。授からなければ優秀な者を養子に迎えればいい」
我ながら矛盾しているとは思う。
アシュレイには自分の子を生んで欲しい。だが、授かるのは、俺を求めた結果であって欲しい。
そんな感懐を今更抱くなんて、おかしいだろうか。
アルダシールが珍しく不安に囚われていると、彷徨っていたアシュレイの目が、ピタリと定まった。
「アルダはそう思ってくれたんだ。……私たち、もっと早くちゃんと話をするべきだったわね」
小さく肩をすくめると、切り株から身を乗り出した。
今まで張り詰めていた空気がへにゃりと萎れて、怒りの鎮火が見て取れる。
世継ぎの話題は、アシュレイの負担になると避けている節があった。
まだまだ授かるチャンスがあると考えていたせいもあるが、勝手にお互いで気を揉むくらいなら、アシュレイの言う通り意思の疎通を図るべきだった。
アルダシールは肩に載せていた手を下ろして、アシュレイの手の甲を包んだ。
もう、拒絶はされない。
「私たちは国を預かる立場だからね、お世継ぎは必要だわ。でも、そうじゃなくて私は……」
態度の些細な変化にも喜びを感じたのに、でもと続いてアルダシールは固唾を飲む。
でも、の後には否定的な言葉が続くものだ。
しかし、アシュレイの表情は暗くなかった。どちらかと言えば……
(……これはどういう意味だ? アシュレイの気持ちは)
アシュレイは包み込んだアルダシールの手に指を絡めて、キュッと握り返した。
頬ははっきりと赤らんでいて、どちらかと言えば面差しは艶かしい。
魅力的で、可愛らしくて、こんな時なのについ魅入ってしまいそうになる。
普段は自由で気が強くて、手に負えないほどの跳ねっ返りなのに、たまにひどく悩ましい姿を見せる。
アルダシールはこれまで自身の女の趣味について深く考察してこなかったが、こんな時にはアシュレイこそが理想なのだと思い知らされる。
そうと意識すれば鷲掴みされたように胸が軋み、全てを投げ出して平伏し、愛を乞いたい衝動に襲われる。
アシュレイだけが掛けられる強制的な魔法だ。
「お世継ぎじゃなくて、私は貴方の赤ちゃんが欲しいの」
血の繋がった子供を望む事実に変わりはない。だが”世継ぎ”と”赤子”の言葉が示す、意味の違いは明確だった。
「お妃だからってだけじゃなくて、私が、貴方を好きだから」
アシュレイは、真っ赤になって言葉を紡いだ。
「……意味、わかる?」
控えめに、尋ねるように。
恐る恐るこちらを見上げる仕草は止めだ。
265
あなたにおすすめの小説
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました
チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。
王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。
エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。
だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。
そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。
夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。
一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。
知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。
経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる