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帰着
蜜月 3
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口調は穏やかながら、マクシムはキッパリと言い切った。
何しろ今回、身を切って働いたのは大国アラウァリアの国王夫妻だ。
その労力は安くない。
少しでも報われて欲しい。
長年の付き合いにおける経験測だが、アルダシールがここにいても、同じ意見を述べただろう。
「ごゆっくりお考えください。では、私は急ぎますので、これで」
「べリングバリ卿、ご助言をありがとうございます。お言葉に甘えて案内は遠慮しますが、よろしければテムズに向かわれてはいかがでしょう。道程は少々逸れますが、この辺りでは大きな町です」
「ありがとうございます。行きがけにはどこへも寄りませんでしたので、助かります。早速テムズへ向かいます」
「いらした道でラークを出ると、道標がありますから川伝いに南東へお進みください」
「わかりました。ご助言感謝します」
名乗ってもいないのに、姓で呼ばれた違和感は拭えない。だが、今ここに至るまで不可解ばかりが積み重なっていたせいか、不思議と受け入れられた。
エステルも、ランドットもラークも。ここは実に不思議な場所だ。
「では、私はこれで。どうぞお達者で」
マクシムは改めて御辞儀をすると、一直線に川縁の小屋を目指した。
エステルとユリウスは2人並んでむつまじく、いつまでも頭を下げて見送ってくれた。
もう二度とこの地は訪れる機会はないかもしれないが、若い恋人たちにどうか幸あれ。
そう願い胸中で別れを告げる。
マクシミリアン・べリングバリ、23歳・独身。
ちょっとだけ寂しさを感じる初秋の一幕だった。
***
「もう、ご加減はよろしいのでしょうか? もう何日かゆっくりなってはいかがですか」
アシュレイがアルダシールを追って内密にランドットへ向けて出立した朝から2日後。
アラウァリア国王夫妻のセレンティア滞在予定は終了する。
父セレンティア国王への挨拶の後、王太子夫婦が見送りに来てくれた。
馬車停めの前で送別の挨拶を交わす。
今日もからりと晴れて、良い気候だ。
「心配をかけてごめんなさいね。でも、大したことなかったのよ~」
アシュレイは隠し事の後ろめたさから、目を逸らしつつ作り笑いを浮かべた。
祝宴の翌日、新婚ほやほやのシュナイゼルにアルダシール追跡の人員手配を交渉し、物凄く大きな借りを作ってしまった。
しかしランドットへの追跡は極秘のため、表向きは体調不良で安静にしていることにしてもらっていた。
散々振り回してランドットへ置き去りにしたキャヴスは文句も言わず、帰国後はあらゆる秘密を保持してくれている。
事情はマクシムが伝えてくれ、納得しているらしい。
今日は別件でキューべルルの護衛として出ているが、昨晩のうちに挨拶に来てくれた。
離別は寂しくもあるが、互いに元気な姿で別れを告げられて良かった。
前回の別れは碌に言葉を交わす余裕もなかったのだから。
性悪のカリアナなどはアシュレイとアルダシールの間に揉め事があったと勘繰っているが、純粋なコリーヌは本心から2人を心配してくれている。
コリーヌにだけ真実を伝えられず、罪悪感が拭えない。
何しろ今回、身を切って働いたのは大国アラウァリアの国王夫妻だ。
その労力は安くない。
少しでも報われて欲しい。
長年の付き合いにおける経験測だが、アルダシールがここにいても、同じ意見を述べただろう。
「ごゆっくりお考えください。では、私は急ぎますので、これで」
「べリングバリ卿、ご助言をありがとうございます。お言葉に甘えて案内は遠慮しますが、よろしければテムズに向かわれてはいかがでしょう。道程は少々逸れますが、この辺りでは大きな町です」
「ありがとうございます。行きがけにはどこへも寄りませんでしたので、助かります。早速テムズへ向かいます」
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「わかりました。ご助言感謝します」
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エステルも、ランドットもラークも。ここは実に不思議な場所だ。
「では、私はこれで。どうぞお達者で」
マクシムは改めて御辞儀をすると、一直線に川縁の小屋を目指した。
エステルとユリウスは2人並んでむつまじく、いつまでも頭を下げて見送ってくれた。
もう二度とこの地は訪れる機会はないかもしれないが、若い恋人たちにどうか幸あれ。
そう願い胸中で別れを告げる。
マクシミリアン・べリングバリ、23歳・独身。
ちょっとだけ寂しさを感じる初秋の一幕だった。
***
「もう、ご加減はよろしいのでしょうか? もう何日かゆっくりなってはいかがですか」
アシュレイがアルダシールを追って内密にランドットへ向けて出立した朝から2日後。
アラウァリア国王夫妻のセレンティア滞在予定は終了する。
父セレンティア国王への挨拶の後、王太子夫婦が見送りに来てくれた。
馬車停めの前で送別の挨拶を交わす。
今日もからりと晴れて、良い気候だ。
「心配をかけてごめんなさいね。でも、大したことなかったのよ~」
アシュレイは隠し事の後ろめたさから、目を逸らしつつ作り笑いを浮かべた。
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