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帰着
帰着とおまけ
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軽々と膝の上に座らされ、アシュレイは抗議した。
「そんなに直ぐ変わりはしないわよ。今だって、何ともないわ」
「そうは言っても、いつ徴候が出るか分からないだろう。マクシムは5人兄弟の長男だが、子を身籠った時はすぐに分かったようだぞ」
「へえ、マクシムって、5人兄弟なのね。初めて聞いた! どうりで面倒見が良いわけだわ。ご兄弟は、全員男?」
しかし目の前にぶら下げられた情報に気を取られ、抵抗をやめ、半身を捻ってアルダシールを振り仰いだ。
「食いつく場所が違う気もするが、まあいいか。べリングバリ家は全員男で、賑やかだが華やかさに欠けると夫人は嘆いていた」
「奥様の気持ち、わかるかも。5人いたら1人くらい女の子が欲しいって、なるわよね。でもこればっかりは」
「授かりものだからな」
アルダシールの掌が、偶然かどうか、アシュレイのお腹に触れる。
同じ気持ちを知って、ふんわりと柔らかな気持ちになる。
アルダシールの胸に背を預けて、優しく微笑んだ。
「来てくれると良いなあ」
「きっと来るさ。俺たちに会いに」
アルダシールは腹部に手を載せたまま、アシュレイの頭上に唇を落とす。
今回の旅行は、相も変わらず想定外ばかりの出来事に終始したが、それだけにより実りあるものになった。
紆余曲折の末にアルダシールとの絆もより深くなった気がする。
もしも子供を授かっていなかったとしても、良き思い出となるだろう。
「そうだね」
アシュレイは、アルダシールの温かな胸に額を擦り付ける。
するとアルダシールもアシュレイの髪に頬を寄せた。
2人は寄り添い合い、馬車に揺られながら優しい時を過ごす。
それから3日後、アラウァリア国王夫妻は滞りなく、無事に自国へと到着した。
帰国後程なくして、王都には王妃懐妊の報がもたらされる。
都の人々はこぞって王城にプルメリアの花を届けた。
翌年の6月には世継ぎが誕生、王室も国民も喜びに湧くことになるのだがーー
夫妻が子を授かったのは果たしてラークで過ごした後だったのかどうか。
それは夜空に浮かぶ星々のみが知る話であった。
***
「撃ち方、止めっ!!」
号令がかかり、方々で銃の構えを解く音がする。
「構えは解くな、次弾を装填し構えて、待機!」
隊長の指示に従い、兵士たちは次の射撃に備えた。
「敵兵、前方より進軍中」
「最大まで引き付ける。構えて待て」
副隊長が現状を通達し、そこからたっぷり1分近くの間を置いて、ようやく次の命令が下る。
「今だっ!!撃てーっ!!」
その叫びと同時に皆が一斉に引き金を引いた。
カチ、カツ、カチンッ!
今回の訓練では本物の火薬を装填しないので、撃鉄が雷管を叩く音だけが響く。
「ふむ……まだこんなものか」
演習場で繰り広げられる光景を、アルダシールは腕組みをして眺めていた。
1人、小さく頷く。
本格的な雨季には少し早いが、6月の風は湿り気を帯びていた。
確かな夏の気配がそこにあった。
「そんなに直ぐ変わりはしないわよ。今だって、何ともないわ」
「そうは言っても、いつ徴候が出るか分からないだろう。マクシムは5人兄弟の長男だが、子を身籠った時はすぐに分かったようだぞ」
「へえ、マクシムって、5人兄弟なのね。初めて聞いた! どうりで面倒見が良いわけだわ。ご兄弟は、全員男?」
しかし目の前にぶら下げられた情報に気を取られ、抵抗をやめ、半身を捻ってアルダシールを振り仰いだ。
「食いつく場所が違う気もするが、まあいいか。べリングバリ家は全員男で、賑やかだが華やかさに欠けると夫人は嘆いていた」
「奥様の気持ち、わかるかも。5人いたら1人くらい女の子が欲しいって、なるわよね。でもこればっかりは」
「授かりものだからな」
アルダシールの掌が、偶然かどうか、アシュレイのお腹に触れる。
同じ気持ちを知って、ふんわりと柔らかな気持ちになる。
アルダシールの胸に背を預けて、優しく微笑んだ。
「来てくれると良いなあ」
「きっと来るさ。俺たちに会いに」
アルダシールは腹部に手を載せたまま、アシュレイの頭上に唇を落とす。
今回の旅行は、相も変わらず想定外ばかりの出来事に終始したが、それだけにより実りあるものになった。
紆余曲折の末にアルダシールとの絆もより深くなった気がする。
もしも子供を授かっていなかったとしても、良き思い出となるだろう。
「そうだね」
アシュレイは、アルダシールの温かな胸に額を擦り付ける。
するとアルダシールもアシュレイの髪に頬を寄せた。
2人は寄り添い合い、馬車に揺られながら優しい時を過ごす。
それから3日後、アラウァリア国王夫妻は滞りなく、無事に自国へと到着した。
帰国後程なくして、王都には王妃懐妊の報がもたらされる。
都の人々はこぞって王城にプルメリアの花を届けた。
翌年の6月には世継ぎが誕生、王室も国民も喜びに湧くことになるのだがーー
夫妻が子を授かったのは果たしてラークで過ごした後だったのかどうか。
それは夜空に浮かぶ星々のみが知る話であった。
***
「撃ち方、止めっ!!」
号令がかかり、方々で銃の構えを解く音がする。
「構えは解くな、次弾を装填し構えて、待機!」
隊長の指示に従い、兵士たちは次の射撃に備えた。
「敵兵、前方より進軍中」
「最大まで引き付ける。構えて待て」
副隊長が現状を通達し、そこからたっぷり1分近くの間を置いて、ようやく次の命令が下る。
「今だっ!!撃てーっ!!」
その叫びと同時に皆が一斉に引き金を引いた。
カチ、カツ、カチンッ!
今回の訓練では本物の火薬を装填しないので、撃鉄が雷管を叩く音だけが響く。
「ふむ……まだこんなものか」
演習場で繰り広げられる光景を、アルダシールは腕組みをして眺めていた。
1人、小さく頷く。
本格的な雨季には少し早いが、6月の風は湿り気を帯びていた。
確かな夏の気配がそこにあった。
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