やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら

文字の大きさ
10 / 15
初めての喧嘩

しおりを挟む
 このような形勢だというのに、わたくしのために怒ってくれるドリス嬢は何てお優しいのかしら。

 それに引き換えマリアナ嬢は、わたくしがお伝えした貴族階級の規律を全く覚えていない。

(どうしてこのような女性を傍に置いておくのかしら……)

 蔑ろにされているようで、ずっと苦しい気持ちが付き纏っていたけれど、こうしてマリアナ嬢と言葉を交わせばふつふつと疑問が沸く。

 ルシアン様は多忙のせいでおかしくなってしまったのだろうか。

 マリアナ嬢は転校当初こそ溌剌として魅力的な気もしたけれど、今は嫌がらせを受けていた時の反動か、笑みが歪んで見える。

「結構ですわ。もう間もなく王妃殿下の誕生パーティでお会いする予定ですから。では、わたくしたちは失礼しますわね。コニー様も、お役目お疲れ様です。ご機嫌よう」

「あ、はい……。ごきげんよう、オデット様、ドリス嬢」

 コニー様はマリアナ嬢に付き従っているけれど、わたくしと目が合う度に気まずそうな顔をする。

 マリアナ嬢は立ち位置が逆転したとでも言いたげな得意顔で、わたくしとドリス嬢を交互に嘲笑うように去って行った。

「マリアナ・グランドは一体どういうつもりなのかしら……! オデット様がお伝えし辛いなら、私が父や兄に相談しますわ。このような振る舞い、許してはなりません」 

 ドリス嬢は怒りが収まらない様子で、わたくしの身を案じてくれる。

「なりませんわ。学院内の騒動は学院内で収めるべきもの。騒ぎを大きくすればルシアン様の評価にも傷がつきかねません。貴女にまで不愉快な思いをさせて申し訳なく思うけれど、そのお気持ちだけありがたく頂戴しますわ」

「オデット様、こんな時にまでルシアン殿下のことを案じてらっしゃるのですね……!」

 ドリス嬢は感極まったように涙ぐみ、わたくしの手をぎゅっと握る。

「何と深い愛情でしょう。心から尊敬いたします。私にできることなら、何でも仰ってください!」

 わたくしはそっと彼女の手を握り返すと、微笑んで感謝の辞を述べた。

 そう。誰が何処で騒ぎ立てようと、わたくしはルシアン様の婚約者で未来の王太子妃となる身の上だ。

 今回の混乱で、わたくしの自尊心は多少傷つけられたけれど、わたくしには何の落ち度もないし、積み上げた自信は揺るがない。

 ルシアン様は王位継承権を持つ、特別なお立場にある男性だ。

 貴族の結婚にも、もちろん制約がつきものだが、ルシアン様の婚約・結婚はその比ではない。

 王家と国家の存続に直結する問題だ。

 国王陛下を筆頭に有力な臣下たちの賛否を問うて、候補から選ばれた女性がわたくしだ。 

 だから簡単に破棄はできないし、させるつもりはない。

 今は状況が変わって混乱しているだけだとわたくしは確信している。

「さぁドリス嬢、そろそろわたくしたちも帰りましょう」

 今日もルシアン様はマリアナ嬢のために忙しいのだからと自分に言い訳をして、わたくしは帰途に着くことにした。

 しかし、騒動の結末は意外なほど早く訪れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

好きな人

はるきりょう
恋愛
好きな人がいます。 「好き」だと言ったら、その人は、「俺も」と応えてくれました。  けれど、私の「好き」と彼の「好き」には、大きな差があるようで。  きっと、ほんの少しの差なんです。  私と彼は同じ人ではない。ただそれだけの差なんです。 けれど、私は彼が好きだから、その差がひどく大きく見えて、時々、無性に泣きたくなるんです。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあるものを一部修正しました。季節も今に合わせてあります。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

メリザンドの幸福

下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。 メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。 メリザンドは公爵家で幸せになれるのか? 小説家になろう様でも投稿しています。 蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...