婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも

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 公爵家本宅に訪れ、何となく、本当に何となく交わされる公爵との挨拶。

 私も公爵様も思う所はあるけれどそんな微妙な表情。 僅かに視線を外し色々と見て見ぬふりをしているそんな感じ。

 老執事アーメントによると、カスパーが暫く私を預かって欲しいと願ったそうだ。

 理由は……語られていないとアーメントは言っていたけれど、分かりやすい視線の揺らぎを見れば彼が話しているのだろうと勝手に予測した。

 そして……公的には何も無かった体裁で、私と公爵様は夕食を共にする事となる。

「是非、正装で参加して欲しいと旦那様がおっしゃっておいででした」

 人の良い……善良で身勝手な両親のせいで、私は幼い頃から王国の福祉厚生を預かっていた両親たちが夢見る人道支援の企画提案に対して、私達は常日頃から精査しダメだし行っていた。 その忙しさと言えばまさに謀殺!! 結果として、私は社交界から遠ざかっていましたし、それに……私が恵まれた貴族に興味がないと言う父は、私のドレスを購入するつもりなど欠片も無かった……。

「……ぇ?」

 周囲には公爵家の侍女達で、貴族が礼儀見習いとして来ている者もいて……私は、居たたまれない気分を味わった。

「その……公爵様が身一つで来ればよいとおっしゃってくださったもので……尾恥ずかしながら……」

「若奥様の事情は存じ上げております。 お若くして日々国政に関わっておいでだったため、社交界には余り興味をお持ちでは無かったと……。 ですので、僭越ではありますが、ドレスはコチラで準備をさせて頂いております。 若奥様のお部屋に準備してありますから、ご自由に召して下さい」

「ぁ、ありがとう」

 何となく気恥ずかしさを感じた。

 殺伐とした気分が……まだ見ても居ないドレスに夢を馳せ、ほぐれてしまいそうになっている。 私って単純だわ……。

「良かったですね。 お嬢様」

 リリーが私の顔をチラリと見ながら微笑み言う。

「少し……嬉しいかな……」

「こういう良い事ないと、やっていられませんよね。 本当」

 姉のような、そんな目でリリーは私を見た。





「綺麗な服……」

 なんだか、それだけで満足しそうな私が……危険だわ。 あの親の子ですし、騙されやすいのかもしれません。

 それでも……そこに気遣いが見て取れた。

 食事の席で私は公爵様に聞く、愛人の事ではなくて

「私を公子様の妻としようとしたのは、我が家が破産しかけていたから都合が良かったと言う事でしょうか?」

 一瞬、公爵様の手が止まり、そして優しく笑って見せる。

「いえ、貴方だからです。 幼い頃から両親の補佐としての働きぶり、自立の見られる振る舞い、それに貴方は息子の初恋の女性と似ている」

「その初恋の方は?」

「幼い頃から息子の世話役を勤めていた女性です。 もう随分前に嫁いでいきましたよ。 その失恋をきっかけに息子は騎士団に入り家を出たくらいですから……」

 これは……私の向こうに初恋の人を見て、一目惚れだと言っているのでしょうか? 本当の夫婦になるなら、好きな要素はあった方が良いのでしょうけど……。 好かれてもなぁ……。

 そんな私の気持ちとは裏腹に、公爵様は亡くなった母の代わりに母であり姉であった女性との幼い日の思い出を語る。

「ところで……息子とはうまくいきそうですか?」

「昨日出会ったばかり、判断はつけかねますが。 仕事として公爵家には心から仕えさせていただくつもりです。

 そんな感じで食事会は終わった。





「お嬢様、午前中に何があったのかを公爵におっしゃらないのですか? 公子様の態度を改めて貰うには良い機会だと思うのですが……」

「私があの方を好いていて、どうしても私だけを見て欲しいと思うなら良い手段ですけど……望んでいないのよねぇ……」

「お嬢様はロマンチストですから、ねっ!!」

 ようやく一息ついた私は、お風呂に入りマッサージを受けていた。 うとうととし始めた頃、ケヴィンが戻ってきた。

「本宅にいらっしゃるとは、私の留守中に何があったんですか?」

 随分と焦った声は、私の緩み切った顔を見て苦笑いへと変わった。

「ご無事なようで良かった」

「無事ではあるんですよね……でも、無事ではなかったのですよ。 ですから!! これは、頑張った私のご褒美なんです!!」

 力強く私が言えば、何処か疲れた様子でドスッとケヴィンはソファに座った。

「それで、其方はどうでした?」

「調べてきましたよ3人とも」

 たった1人で? と、思うかもしれないが、それが可能なのが私の専属執事のケヴィンなのです。



 この国は建国から、水利権を争い隣国との間に争いが続いていた。

 争いごと……。
 強者の傲慢。
 置き去りにされる弱者。

 私の両親は、その偽善……いえ、慈愛、慈悲、善良である心で、人を救うため福祉厚生に関する国の業務を自ら買って出ていた。

 人選としては最悪。
 思い出しただけでもウンザリします。

 破産の噂から、両親はその福祉厚生課をクビにされた。 私がどれほど喜んだのか……私と共に両親の後始末に奔走していた者達には分かるでしょう。

 助けを求める人。
 助けが必要な人。

 これは別。

 大勢の人間が助けを求めている中、私達は才能ある人間を身内とし、性格に難のある人間を外部の諜報とするなど、人を多いに利用し情報網を作った。

 それでも両親が騙されたのか?
 と言う人もいるだろう。

 向こうが必死に事情を隠し、私達が存在を知らなければ、調べるべき事が分からず……落ちる訳なのです。 



 ケヴィンは、そんな人脈から三色愛人の情報を調べて来たと言うか、調べさせたのだ。



 緑の方は、彼女が語った通りの情報だった。
 付け加えるなら、彼女はカスパーと共に居る時間が最も長く、戦場では身の回りの世話を行っていた……が、身体の関係は無かったそうだ。


 赤の方は、高級店の娼婦で一番人気だった。
 ある日、難病にかかり店を追い出されたところを哀れみ、連れ帰ったのだと言う話だ。


 黄の方は、奴隷の中で一際可愛らしかった彼女が、自らをアピールしたと言う。
『私程の美少女が売られればどうなるか……お願いです。 私は貴方のものになりたいとかどうとか言ったらしい』


 別宅が建つまでは、公爵家が経営する集合住宅に住まいし、公子が通っていたと言う話だった。


「黄色の……アレは一癖も二癖もあって、なかなか面白かったですよ」

「私は、全然面白くなかったわ!!」

 何となく情報だけが、ふわふわと集まる状況にモヤリとした私は、ケヴィンに八つ当たり枕を投げつけるのだった。
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