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フィアナ、魔法実践演習に挑む
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派閥――それはルナミリアで、口を酸っぱくして言われたタブーワードでした!
――派閥争いなんていうのはね。
――碌な争いを生まないのよ。
ルナミリアで、いつになく怖い顔で私にそう注意したのは、元聖女のナリアさん。
派閥――貴族社会。
それは、腹黒タヌキたちが騙し合う恐ろしい世界だと、ナリアさんは吐き捨てるように言っていました。
なんでもナリアさんは、昔はマーブルロースの聖女として担ぎ上げられていたらしいのです。
それが派閥争いに巻き込まれ、気がつけば冤罪で魔界への追放刑。
腹いせにモンスターを吹き飛ばしていたら、いつの間にかルナミリアにたどり着いたのだそう。
ヤケクソになって、いっそ聖歌を歌って吟遊詩人を名乗ってやることにした――と面白おかしく話していましたが、それはもう壮絶な過去で……、
(すべての元凶は派閥なる存在! 怖すぎます、絶対に近づきません!)
セシリアさんのことは大好きです。
それでも、派閥だけは断固としてNGです!
「お待ちくださいまし! ワタクシの派閥に入れば、ローズウッドの名において庇護を与えることも――」
「派閥、駄目ゼッタイ、です!」
私が目をバッテンにして、ぶんぶんクビを横に振っていると、
「セシリアさまのせっかくのお誘いに、なんって失礼な!」
「そうですわ! またとないチャンスですのに!」
セシリアさんの後ろにいた生徒たちまで、面倒なことを言い出します。
もちろん私の答えに変わりはなく……、
「こ、後悔しても知りませんわよ~!」
「「「ま、待ってくださいセシリアさま~!」」」
(あっ──)
最終的に、セシリアさんたちはパタパタと走り去っていくのでした。
***
そうして訪れた最初の授業。
動きやすい体操着に着替え、私たちは授業を行う校庭に来ていました。
「魔法実戦演習――楽しみです!」
初めて受ける授業に、心を躍らせる私。
担当教師は、私の試験官も務めてくれたマティさんです。
「また、あのイヤみを聞かされるんだな(ヒソヒソ)」
「慣れるしかないさ。腹芸は貴族社会の基礎技術だぞ(ヒソヒソ)」
うんざりした顔で、クラスメイトたちが校庭に集まります。
(随分と評判悪いんですね、マティさんの授業)
マティさんには、編入試験で潔白を証明するのを手伝ってもらった恩があります。
是非とも、信頼回復を手伝いたいところです。
そんな訳で、密かに気合いを入れている私をよそに、
「私は、今までは血筋で才能を測ろうなどと下らぬことを考えていた。生徒を導き、育てる学び舎としてあり得ぬこと――本当に、すまなかった」
マティさんは深々と頭を下げるではありませんか。
これにはクラスメイトも、困惑するばかり。
「いったい何があったんですの?」
「そこにいるフィアナ嬢に教わったのさ。血筋など飾り。天賦の才は、健康な肉体にこそ宿る―─つまり、これからの時代は筋肉だと!」
「そんなこと言ってませんが!?」
セシリアさんの質問に、マティさんは自信満々にそう返します。
「なるほど……! つまりはフィアナさんにボッコボコにやられて、心を入れ替えたということですわね!」
「まあ、そんなところだ」
「いやいやいやいや、全然そんなところじゃないですよね!?」
(ただでさえ自己紹介でやらかしたのに、試験官をボコボコにして、無理やり心変わりをさせたヤバイい奴って噂になっちゃいます!)
(なんでセシリアさんは、そんな腑に落ちたみたいな顔で、ポンと手を打ってるんですか!?! あとマティさんも、ちゃんと否定して下さい!?)
「あのマティさんを改心させてしまうなんて――さすがはフィアナさんですわ。やっぱり是が非でも、ワタクシの派閥に……」
(派閥、ぜんぜん諦めてくれてない~!?)
おまけにセシリアさんの口からは、恐ろしい独り言が聞こえてきて、
「うぅぅ……、王都怖い場所です」
「……??」
私は、ぽつんと離れた場所に立つエリンちゃんの隣にそっと避難するのでした。
※※※
そうして授業が始まりました。
「それぞれの生徒の特性に応じて、訓練を行う必要があると思い直してな。そのためにも、皆の適性を正確に測り直す必要がある――今日は基礎演習をやろうと思う」
マティさんは真剣な表情で、そう切り出しました。
基礎演習――それは結界を張った動かないカカシに、自分がもっとも得意とする魔法をぶつけるという訓練だそうです。
どの段階の魔法まで発動できるか。
詠唱の正確さはどうか。
発動した魔法の威力はどうか。
発動までの速度はどうか。
魔法の持続時間はどうか。
といった5つの項目で魔法の腕を評価し、実力を測る工程だそうです。
(詠唱の正確さって……、何のことだろう)
ルナミリアでも、似た訓練をしたことはあります。
ですがイメージを具現化するために想像力を磨くのが主目的で、詠唱というものには馴染みがありませんでした。
私が首を傾げていると、
「火のマナよ、我が求めに従いて顕現せよ。穿て、火の礫!」
カカシの前に立った生徒たちが、一斉に詠唱を始めるではありませんか。
(詠唱、格好いいです)
(だけどちょっぴりシュールです!)
そういえばマティさんも、模擬戦では、ぶつぶつと詠唱してました。
その時は詠唱という工程を踏むことで、イメージを具現化するスタイルなのかと考えていました。ですが、この人数が同じことをするのはあまりに異様。
「エリンちゃん、これは……?」
「これ……、って?」
隣にいたエリンちゃんに尋ねると、きょとんと首を傾げられてしまいました。
(こ、これが王都流なのかもしれませんね!)
もしかすると、詠唱の利点が確立されているのかもしれません。
私はワクワクと授業を見守ることにします。
――派閥争いなんていうのはね。
――碌な争いを生まないのよ。
ルナミリアで、いつになく怖い顔で私にそう注意したのは、元聖女のナリアさん。
派閥――貴族社会。
それは、腹黒タヌキたちが騙し合う恐ろしい世界だと、ナリアさんは吐き捨てるように言っていました。
なんでもナリアさんは、昔はマーブルロースの聖女として担ぎ上げられていたらしいのです。
それが派閥争いに巻き込まれ、気がつけば冤罪で魔界への追放刑。
腹いせにモンスターを吹き飛ばしていたら、いつの間にかルナミリアにたどり着いたのだそう。
ヤケクソになって、いっそ聖歌を歌って吟遊詩人を名乗ってやることにした――と面白おかしく話していましたが、それはもう壮絶な過去で……、
(すべての元凶は派閥なる存在! 怖すぎます、絶対に近づきません!)
セシリアさんのことは大好きです。
それでも、派閥だけは断固としてNGです!
「お待ちくださいまし! ワタクシの派閥に入れば、ローズウッドの名において庇護を与えることも――」
「派閥、駄目ゼッタイ、です!」
私が目をバッテンにして、ぶんぶんクビを横に振っていると、
「セシリアさまのせっかくのお誘いに、なんって失礼な!」
「そうですわ! またとないチャンスですのに!」
セシリアさんの後ろにいた生徒たちまで、面倒なことを言い出します。
もちろん私の答えに変わりはなく……、
「こ、後悔しても知りませんわよ~!」
「「「ま、待ってくださいセシリアさま~!」」」
(あっ──)
最終的に、セシリアさんたちはパタパタと走り去っていくのでした。
***
そうして訪れた最初の授業。
動きやすい体操着に着替え、私たちは授業を行う校庭に来ていました。
「魔法実戦演習――楽しみです!」
初めて受ける授業に、心を躍らせる私。
担当教師は、私の試験官も務めてくれたマティさんです。
「また、あのイヤみを聞かされるんだな(ヒソヒソ)」
「慣れるしかないさ。腹芸は貴族社会の基礎技術だぞ(ヒソヒソ)」
うんざりした顔で、クラスメイトたちが校庭に集まります。
(随分と評判悪いんですね、マティさんの授業)
マティさんには、編入試験で潔白を証明するのを手伝ってもらった恩があります。
是非とも、信頼回復を手伝いたいところです。
そんな訳で、密かに気合いを入れている私をよそに、
「私は、今までは血筋で才能を測ろうなどと下らぬことを考えていた。生徒を導き、育てる学び舎としてあり得ぬこと――本当に、すまなかった」
マティさんは深々と頭を下げるではありませんか。
これにはクラスメイトも、困惑するばかり。
「いったい何があったんですの?」
「そこにいるフィアナ嬢に教わったのさ。血筋など飾り。天賦の才は、健康な肉体にこそ宿る―─つまり、これからの時代は筋肉だと!」
「そんなこと言ってませんが!?」
セシリアさんの質問に、マティさんは自信満々にそう返します。
「なるほど……! つまりはフィアナさんにボッコボコにやられて、心を入れ替えたということですわね!」
「まあ、そんなところだ」
「いやいやいやいや、全然そんなところじゃないですよね!?」
(ただでさえ自己紹介でやらかしたのに、試験官をボコボコにして、無理やり心変わりをさせたヤバイい奴って噂になっちゃいます!)
(なんでセシリアさんは、そんな腑に落ちたみたいな顔で、ポンと手を打ってるんですか!?! あとマティさんも、ちゃんと否定して下さい!?)
「あのマティさんを改心させてしまうなんて――さすがはフィアナさんですわ。やっぱり是が非でも、ワタクシの派閥に……」
(派閥、ぜんぜん諦めてくれてない~!?)
おまけにセシリアさんの口からは、恐ろしい独り言が聞こえてきて、
「うぅぅ……、王都怖い場所です」
「……??」
私は、ぽつんと離れた場所に立つエリンちゃんの隣にそっと避難するのでした。
※※※
そうして授業が始まりました。
「それぞれの生徒の特性に応じて、訓練を行う必要があると思い直してな。そのためにも、皆の適性を正確に測り直す必要がある――今日は基礎演習をやろうと思う」
マティさんは真剣な表情で、そう切り出しました。
基礎演習――それは結界を張った動かないカカシに、自分がもっとも得意とする魔法をぶつけるという訓練だそうです。
どの段階の魔法まで発動できるか。
詠唱の正確さはどうか。
発動した魔法の威力はどうか。
発動までの速度はどうか。
魔法の持続時間はどうか。
といった5つの項目で魔法の腕を評価し、実力を測る工程だそうです。
(詠唱の正確さって……、何のことだろう)
ルナミリアでも、似た訓練をしたことはあります。
ですがイメージを具現化するために想像力を磨くのが主目的で、詠唱というものには馴染みがありませんでした。
私が首を傾げていると、
「火のマナよ、我が求めに従いて顕現せよ。穿て、火の礫!」
カカシの前に立った生徒たちが、一斉に詠唱を始めるではありませんか。
(詠唱、格好いいです)
(だけどちょっぴりシュールです!)
そういえばマティさんも、模擬戦では、ぶつぶつと詠唱してました。
その時は詠唱という工程を踏むことで、イメージを具現化するスタイルなのかと考えていました。ですが、この人数が同じことをするのはあまりに異様。
「エリンちゃん、これは……?」
「これ……、って?」
隣にいたエリンちゃんに尋ねると、きょとんと首を傾げられてしまいました。
(こ、これが王都流なのかもしれませんね!)
もしかすると、詠唱の利点が確立されているのかもしれません。
私はワクワクと授業を見守ることにします。
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