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夢だった。
見覚えのある景色。
これは本当の意味で。
毎朝見る景色だ、見間違えることはない。
大きな木もないし、少女もいない。
あのおぞましい蛇の姿はない。
なによりここは外ではない。
私の部屋だ。
「……はぁ」
深いため息。
それ程までに、私は悩んでいるということだろう。
比喩的ではあったけれど、かなり私の心象と記憶を反映した夢だった。
少女は私で、蛇はあの男、巨木は国王で林檎とそれを支える枝はーーいや、やめよう。
悪い夢を思い出したところで、また疲れるだけだ。ー
重い頭のまま、テキパキと身支度を整える。
如何なる時も私は公爵家令嬢、それに恥じない姿でいなければならない。
そうである必要がある。
それも私の一部分。
この肩書きが剥ぎ取れたら、私は私で亡くなることだろう。
だったら、あのお方も、第二王子の地位を失えば、もしかしたらーー
いや、考えるのはやめよう。
考えたところで、どうせ答えは出ない。
特に、今のこの鈍い重い頭ではとても。
少し、時間が必要だ。
冷静になるための時間が。
気持ちを整理するための時間が。
そんな時、
ノックの音が2回。
「お嬢様、おはようございます。お部屋に入ってもよろしいでしょうか」
エクレアの声がする。
「大丈夫です。どうぞ」
私は言う。
いつも通りに。
「失礼しますーーって、あまり大丈夫ではありませんね」
嘆息気味に彼女は言う。
そして、無言のままに鏡を指さす。
「ひょっとして、今お目覚めですか。優雅さに欠けますよ」
たしかにそうだった。
鏡に映る私は、公爵家令嬢に相応しくない身なりをしていた。
髪はぼさぼさ、服ははだけて。
自分ではいつも通りにこなしているつもりだったが、全くできていない。
一体何を見て、公爵家令嬢に恥じない姿と思ったのか。
従者相手とはいえ、油断が過ぎる。
本当に、他人のことを言える資格がなくなってしまった。
心どころか外面すらもぼろぼろ。
あの会食の一時が、私のこれまでを一瞬で台無しにしてしまった。
「ごめんなさい」
「……分かったくだされば大丈夫です」
てくてくとエクレアは私に近づく。
「でも、準備はお早めにお願いします。お友達がお待ちですから」
「お友達?」
と私は首を傾げた。
私に友達なんていただろうかーーなんて寂しいことは思わない。
いくつか当てはあるけれど、一体誰だろう。
心身ともに疲れ果てているこの状況だ、ちゃんと『友達』と思える相手ならば良いのだが。
「はい、お友達です」
にこり、とエクレアが笑う。
そして、彼女の背後からひょっこりとーー
「やっほー。元気にしてる?」
私の数少ない友達の一人が顔出した。
短い髪に、蒼い目。
小柄で明るい、優雅さには欠ける女。
同じ上流階級の家柄。
あのお方の婚約者候補の一人でもある。
ペコット=バルバシリアの登場である。
見覚えのある景色。
これは本当の意味で。
毎朝見る景色だ、見間違えることはない。
大きな木もないし、少女もいない。
あのおぞましい蛇の姿はない。
なによりここは外ではない。
私の部屋だ。
「……はぁ」
深いため息。
それ程までに、私は悩んでいるということだろう。
比喩的ではあったけれど、かなり私の心象と記憶を反映した夢だった。
少女は私で、蛇はあの男、巨木は国王で林檎とそれを支える枝はーーいや、やめよう。
悪い夢を思い出したところで、また疲れるだけだ。ー
重い頭のまま、テキパキと身支度を整える。
如何なる時も私は公爵家令嬢、それに恥じない姿でいなければならない。
そうである必要がある。
それも私の一部分。
この肩書きが剥ぎ取れたら、私は私で亡くなることだろう。
だったら、あのお方も、第二王子の地位を失えば、もしかしたらーー
いや、考えるのはやめよう。
考えたところで、どうせ答えは出ない。
特に、今のこの鈍い重い頭ではとても。
少し、時間が必要だ。
冷静になるための時間が。
気持ちを整理するための時間が。
そんな時、
ノックの音が2回。
「お嬢様、おはようございます。お部屋に入ってもよろしいでしょうか」
エクレアの声がする。
「大丈夫です。どうぞ」
私は言う。
いつも通りに。
「失礼しますーーって、あまり大丈夫ではありませんね」
嘆息気味に彼女は言う。
そして、無言のままに鏡を指さす。
「ひょっとして、今お目覚めですか。優雅さに欠けますよ」
たしかにそうだった。
鏡に映る私は、公爵家令嬢に相応しくない身なりをしていた。
髪はぼさぼさ、服ははだけて。
自分ではいつも通りにこなしているつもりだったが、全くできていない。
一体何を見て、公爵家令嬢に恥じない姿と思ったのか。
従者相手とはいえ、油断が過ぎる。
本当に、他人のことを言える資格がなくなってしまった。
心どころか外面すらもぼろぼろ。
あの会食の一時が、私のこれまでを一瞬で台無しにしてしまった。
「ごめんなさい」
「……分かったくだされば大丈夫です」
てくてくとエクレアは私に近づく。
「でも、準備はお早めにお願いします。お友達がお待ちですから」
「お友達?」
と私は首を傾げた。
私に友達なんていただろうかーーなんて寂しいことは思わない。
いくつか当てはあるけれど、一体誰だろう。
心身ともに疲れ果てているこの状況だ、ちゃんと『友達』と思える相手ならば良いのだが。
「はい、お友達です」
にこり、とエクレアが笑う。
そして、彼女の背後からひょっこりとーー
「やっほー。元気にしてる?」
私の数少ない友達の一人が顔出した。
短い髪に、蒼い目。
小柄で明るい、優雅さには欠ける女。
同じ上流階級の家柄。
あのお方の婚約者候補の一人でもある。
ペコット=バルバシリアの登場である。
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