みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第1部 春のはじまりパッドエンド事件

第23話 8時じゃないけど全員集合っ!

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「……以上が各自の放課後の予定になります。忙しい1日になると思いますが頑張ってください」
「「「はいっ」」」



 生徒会室でのお昼のミーティング。

 もうすっかり生徒会の雰囲気に慣れた俺は、よこたんや廉太郎先輩と一緒に、元気のいい返事を羽賀先輩に返す。

 最初は嫌々で始めた生徒会だが、今となってはほんの少しだけやりがいを感じている。

 ほんと「ありがとう」は人生のご褒美だ!

 さあ今日の放課後もバリバリ仕事するぞ!

 と、やる気に満ち溢れている俺とは対照的に、ボケーとしている人物が1人。



「…………」
「……それと会長には今日中に済ませて欲しい書類があるので、そちらを優先して――会長? 聞いてますか?」
「えっ!? あ、あぁ、ごめんなさい。何でしたっけ?」
「……いえですから書類を……大丈夫ですか会長? 顔色が悪いですよ?」



 羽賀先輩が心配そうに古羊の顔を覗きこむ。

 すると、もう仕事に取り組んでいた廉太郎先輩が帳簿を見て「んん?」と眉を吊り上げた。



「めぇちゃん。ここの帳簿の計算、また間違ってるよ?」
「えっ!? ほ、ほんとですか!? す、すみません! すぐ直しますから!」
「いや、これくらいなら僕が直しておくよ」
「……本当にすみません」



 しゅんっ、と肩を落とす古羊。

 星美高校の佐久間が猫を引き取って5日。

 どうもあの日以来、古羊の様子がおかしい。

 ボーとしていることもあれば、今みたいに小さなミスをすることが増えたのだ。

 最初は役員全員、「たまにはこんな日もあるか」と楽観的に捉えていたが、こうも連続してミスが起こると、さすがに看過できなくなってくるわけで。

 今まで完璧に仕事をこなしてきただけに、みんな「どこか体調が悪いんじゃないか?」と心配しているようだった。



「なぁ~んか『あの日』以来、古羊の様子がおかしいよなぁ。あっ!? 『あの日』と言っても、別にいやらしい意味じゃないからな!? 勘違いしないでよねっ!」
「今日もししょーは平常運転だね」



 ここ最近で俺の扱いにだいぶ慣れたのか、倦怠期けんたいきの人妻並みにフラットな口調でそうつぶやく妹ちゃん。

 そんな軽快なやり取りをしている間にも、古羊がまたミスをしたようで、目を通していた書面がビリビリに破れていた。



「だ、大丈夫かなぁメイちゃん?」
「いや大丈夫じゃねぇだろアレ? はやく何とかしないと倒れるぞ……羽賀先輩が」



 青い顔を浮かべながら必死に古羊のフォローに回る羽賀先輩を眺めながら、1人しんみりと頷く。

 もともと体力が無い人なのか、羽賀先輩の顔は妙に疲れ切っていて、今にも倒れてしまいそうだった。

 これは我らが偉大なる先輩の心の安寧あんねいのためにも、古羊には早くもとに戻って貰わなくては。

 そのためにも、まずは妹分の力を借りることにしよう。



「ところでアイツ、昔、あの佐久間って『元カレ』と何かあったワケ?」
「な、なんで今ソレを聞こうと思ったのかな?」
「いやだって、アイツに会ってから古羊の様子がおかしくなり始めたし。それに2人のやりとりからして、なんだか『ワケあり』って雰囲気がぷんぷんするし」



 どうなの? と視線で問うと、よこたんは観念したかのように小さくため息をこぼした。



「ハァ……確かにししょーの言う通り、メイちゃんと佐久間くんには浅からぬ因縁があるよ」
「やっぱり」
「でも――」



 姉を一瞥いちべつしたよこたんが、少し逡巡しゅんじゅんした様子を見せながら、意を決したように口をひらいた。



「でも、その件に関してだけは、ボクの口から説明することは出来ないんだよ」
「なんで?」
「メイちゃんの過去に関わる大事な話だから」
「古羊の過去?」
「うん。だから聞くならメイちゃんに、直接聞いてみて」



 古羊はまっすぐ俺の瞳を見据えながら、



「でももし、ししょーがその話を聞いて何かを感じたのなら、メイちゃんを……けてあげて? 結局それは、ボクには出来なかったことだから」
「えっ?」



 それだけ伝えると、よこたんは苦笑交じりの笑みを溢しながら、古羊のもとへと歩いて行った。

 俺は彼女が残した言葉の意味がよく分からず、その場で立ちつくした。

 ただ、彼女が置いていった言葉だけがやけに耳に残った。

◇◇

 久しぶりの休日である。

 かつてここまで休みがありがたいと思った日はあっただろうか? いやない。

 俺はここ数日の激務が嘘だったかのように、布団の中でまったりとした時間を過ごしていた。

 本来であればこのまま布団さんとしっぽりイチャイチャ❤ しながら夢の世界へ出航ボンボヤージュする所なのだが……俺の指先は自然と枕もとに置いてあったスマホへと伸びていた。

 そのままゴロンッと横になりながら、特に意味もなく『佐久間亮士』という名前を検索エンジンに入力してしまう。

 すると我が心の愛読書バイブルである『月刊☆イケメンぱらだいす』の公式サイトで彼の詳細な情報がズラリッ! と並んでいた。



 ――佐久間亮士。

 県立星美高校在籍の2年生。

 中学の頃から上級生・下級生問わず、生徒達からの信頼が厚く、高校に入学してから3カ月足らずで生徒会長に就任。

 空手部に所属しており、インターハイ優勝経験アリと文武両道。容姿端麗。眉目秀麗びもくしゅうれい。偉才秀才。

 とくに空手に至っては100年に1人の逸材として、残りの4人の天才と合わせて『五拳帝ごけんてい』と呼ばれ、空手界の歴史を塗り替える人物として、注目を集めている。

 性格は明るく社交的で、誰に対しても分け隔てなく優しい人気者。



「……どこかで聞いたことがある言葉だなぁ」



 俺の脳裏に1人の腹黒女会長の姿がよぎった。

 が、すぐさま脳のすみっこに追いやり、佐久間についての文章を読みふけっていく。



「えーと……『親は星美病院の院長で、本人も将来は家を継ぐべく勉学にいそしんでいる。また空手部副部長でもあり、現在でも既に多くの大学からスカウトの声がかかるほど。バレンタインでは、軽トラック3台分のチョコが送られてきたという逸話もある。さらには見識を広めるべく読者モデルもやっており、彼が載った雑誌は必ずと言っていいほど売り切れる』……ねぇ。なるほど、なるほど」



 俺はスマホを放り投げ、「んん~っ!」と布団の中で大きく背伸びをした。

 とりあえず1つ学んだよ。

 この胸に湧き起こるラードのような粘つき、それでいてドライアイスよりも冷え切り、マグマよりも煮えたぎるこの感情。

 なるほど、これが殺意か。

 見なきゃよかった☆

 いやマジで。



「なんだよ、あの男? 異世界転移者か何かなのか?」



 もう玉座で女の子をはべらかしながら、下卑た笑みを浮かべる『なろう』主人公にしか見えないよ。

 明らかに俺とは人間として、いや男としてステージが違い過ぎる。

 少女マンガでも中々いないぞ、こんな男?

 まさに女の理想を体現したかのような完璧な人間だ。

 どれくらい完璧かと言えば、『まるで将棋だな』とかほざきながら真剣に囲碁を打っているくらい完璧な人間だ。

 ……頭がおかしいのかな?

 しかし、そんな完璧人間と古羊の間に一体何があったのか?

 う~ん?



「あ~っ、考えても埒があかねぇ」



 殺意の波動に目覚めかけた俺は、頭をブンブン振るや否や、布団に潜って静かに横になった。

 ダメだダメだ!

 せっかくのお休みの日に余計なことを考えるのはナンセンスだっ!

 休む時はとことん休む、それが大神スタイル☆

 俺はベッドの上に手足を放り、ついでにプライドも放って、目を閉じた。

 ここ数日ずっと慌ただしく働いていたおかげか、目を閉じればすぐに睡魔が。



 ――ピーンポーン。



「……んぁ? 誰だよ、こんな朝早くに?」



 微睡まどろんでいた意識を無理やり覚醒させるような呼び鈴の音に、思わず顔をしかめてしまう。

 おいおい、一体誰だぁ?

 俺の眠りを妨げようとする不届き者は?

 世が世なら打ち首獄門だよ?



「誰か居ねぇの? ……って、そうか。今、俺しか居ねぇのか」



 ママンは普通に長期出張中だし、パパンはお友達と旅行中、我が偉大なる姉上に至っては『あたしより強いヤツ会いに行ってくる』って言って大学病院内の入院患者さんにボランティアとしょうしてゲームの楽しさや対戦の熱さを教えに……いや違うな。

 正確には【ベテランゲーマーの方々に勝負を挑みに行った】という方が正しいな、うん。

 俺も1度付き添いで行ったことがあるのだが、何故か我が姉が足繁あししげく通っている大学病院内の入院患者さんたちは、全員漏れなくメチャクチャ格闘ゲームが強いのだ。

 その腕前は、もはや全国を通り越して世界レベル。

 もうね、みんな洒落になんないくらい強いのなんの。

 大学病院って言うより、暗黒武術会の会場って言われた方がしっくりくるレベルで、みんな強いのね。

 病室なんて、もはや天下一武道会の控室みたいな、異様な緊張で包まれていたからね?

 ――って、なんの話をしてたんだっけ俺?

 あぁ、そうだ。

 今現在、我が家には俺しか居ないから、対応できる人間は誰も居ないってことだった。



「まぁ、ほっときゃ帰るだろ」



 さてそれじゃ、もう1度布団さんとイチャイチャゴロゴロ♪ するべく目蓋を閉じて。

 ――ピーンポーン。

 ――ピンポン、ピンポーン。

 ――ピーンポポポポポポポポポポポポポポポポーン。



「うるせぇぇぇぇぇぇぇ――ッッ!?!?」



 高橋名人もビックリの呼び鈴16連射に、堪らず布団から跳ね起きる。

 何だこの質の悪いイタズラは!? クイズ王でももっと優しくボタンを押すぞ!?

 まるで「壊れろ!」と言わんばかりの連打である。

 コイツは我が家の呼び鈴に、なにか恨みでもあるのだろうか?



「もう我慢出来ねぇっ!」



 俺は一言文句を言ってやろうと、大股で玄関まで行き、勢いよく扉を開けた。



「うるせぇっ!? 今何時だと思ってんだ!?」
「……朝の9時よ」
「あれ、もうそんな時間だった? って、はいっ!? は、ははは、羽賀先輩っ!? と、古羊姉妹。それに廉太郎先輩も!?」



 玄関を開けると、そこには我らが生徒会役員が、呼んでもないのに全員集合していた。



「お、おはよう、ししょーっ!」
「おはようございます、大神くん」
「おはようシロちゃんっ! 今日も気持ちがイイ朝だね!」
「あっ、これはご丁寧に、おはようございます――じゃなくて!? なんで全員ウチに居るんですか!?」



 順によこたん、古羊、廉太郎先輩と三者三様の挨拶を交わし、目を剥く俺。

 えっ、なんでみんな我が家に全員集合してるの?

 8時じゃないんだよ?

 今は9時なんだよ? 

 1人混乱している俺を無視して、羽賀先輩が不機嫌な顔を隠すことなく、



「……来ちゃった」
「来ちゃいましたかぁ~……」



 かつてここまで嬉しくない「来ちゃった♪」が存在しただろうか? 

 おかしい、姉貴の部屋から借りて読んだ少女マンガでは、こういうときヒロインは必ず男にトゥンク❤ するはずなのに、羽賀先輩の瞳からは俺への憎しみしか感じ取れない。

 何この人?

 我が家に何しに来たの?

 嫌がらせ?



「もう、ネコちゃん? ダメじゃないか! 罰ゲームなんだから、もっと可愛く『来ちゃった♪』って言わないとぉ~。あっ、なんなら猫耳も貸そうか? 今ちょうど持ってるから――うっ!?」
「……すみません会長、ちょっとこの生ごみを処分してきますね?」



 羽賀先輩の右フックにより、一瞬で意識を刈り取られた廉太郎先輩が、ズルズルと引きずられて我が家の中へと消えていく。……って、ちょっと待て!?
 
 なんでこの人たちは、普通に我が家に入ってきてんの?

 というか、その動かなくなった廉太郎先輩をどこに連れて行くの?

 あの世?



「ちょっと!? なに勝手に我が家に上がってるんですか先輩っ! というか罰ゲームってなに!? 俺と話すことがですか!?」
「ち、違うよししょーっ!? ば、罰ゲームっていうのは、誰がししょーの家の呼び鈴を押すかってことで、そこに狛井センパイの悪ノリが重なっただけなの!」
「な、なんだそうか」



 ほっ、と安堵の吐息をこぼす。

 よかったぁ、危うく死んじゃうところだったわぁ。

 ……いやっ、良くないねぇ。

 何も良くないねぇ。

 だって何の疑問も解決してないんだもん♪



「おい古羊よ、これは一体どういうつもりだ? 俺に恨みがあるのは知っているが、別にアレのことを言いふらすつもりは俺にはないぞ!」
「別に恨みなんかありませんよ。それとアレの話しはしないでくださいね? 殺すぞ?」



 先輩たちも居るせいか、いつもの猫を被ったエンジェルスマイルの状態で俺に語りかける古羊。



「そもそも今回の件については、わたしは無関係です」
「無関係、だと?」
「えっとね? 実は前から、ししょーにナイショで、ししょーの歓迎会をやろうって企画してたの!」



 姉の代わりに妹が照れた様子で口を開いた。

 お、俺の歓迎会?

 俺の歓迎会だと!?(大事なことなので2回言ったよ♪)

 こ、こんなことまでしてくれるなんて、コイツ、いい子すぎるだろ!?

 結婚しよ?



「実はね? ししょーの家でサプライズケーキを作ろうと思って、材料も買って来ちゃったんだけど……。ダメだった、かな……?」
「い、いや! いやいやいやっ! 全然まったく、これっぽっちもダメじゃねえよ!」
「ほ、ほんとに?」
「おうっ! むしろ女の子の手作りケーキが食べれてラッキー☆ ってくらいで……あっ! とりあえず上がれよっ!」



 よこたんは、ほにゃ♪ とした笑みを浮かべると、「お邪魔します」と言って我が家に上がった。

 そのまま「それじゃ、台所借りるね?」と言って居間の方へと消えていく。

 その後ろを古羊がしずしずとついて行き、



「洋子と廉太郎先輩が、どうしてもやりたいって言うから、仕方なくね」
「暗に『自分はやりたくない』アピールとかしなくていいから、知ってるから」



 相変わらず、一言多い女である。

 かくして俺の運命をまたもや激変させる長ぁ~い1日は、こうして騒がしく幕を上げたのであった。
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