嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ

文字の大きさ
50 / 68
5章 エイリアン・セルフィ―

5 - 6

しおりを挟む
 そう、実は最近、SNSに修正しまくりの自撮りをアップすることに、一抹の後ろめたさを感じていたのだ。アップするたびにフォロワーたちには「かわいい」とほめられるのだが、それらの賛辞はやはり、本当の自分へ向けられたものではない。本当の自分は醜く、それを画像修正で隠しているだけなのだから。

 ただ、萌花は自撮りをはじめた当初はこんな感情はなかった。そもそも、萌花はスマホデビューが高校に入ってからで、それまでは自分の顔立ちにそこまで強いこだわりがあるわけではなかった。自分の目が人より細いことは若干気にしていたが、目鼻立ちのバランスはいいし、総合的には顔はいいほうかなと、ぼんやり自己評価していだけだった。

 だが、それはスマホを手に入れ、自撮りをしはじめることで、大きく変わってしまった。単に自分の顔を写真に残すというだけならそれまでもやっていたが、スマホの自撮りアプリには自分の顔写真を加工できる機能があったからだ。そして、その機能で、萌花は自分の細い目を大きくできることを知った。それはとても衝撃的だった。長年の容姿の不満が一瞬で消え、ずっとあこがれていたつぶらな瞳を手に入れることができたのだから。

 すぐに萌花はSNSをはじめ、その盛った自撮りを公開した。たちまち、フォロワーは三桁になり、多くの男性ユーザーから顔をほめられた。急に人気者になり、ちやほやされて、萌花は純粋にうれしかった。どんどん盛った自撮りを投稿し続けた。

 しかし、最初は目を少し大きくする程度だったのに、次第に肌を白くツルツルにしたり、小顔にしたり、自撮りの修正具合はエスカレートしていった。いじればいじるほど、写真の中の自分が美少女になっていく気がしたのだ。そして、それとは反対に、現実の自分がどんどん醜く思えてきた。写真の中の美少女に比べて、自分はなんて汚い、無様な顔をしているんだろう。

 そう、スマホを手に入れ、「なりたい自分像」をはっきり視覚化することで、そうではない現実の自分がとてつもなく苦痛になってきたのだった。一応、小顔メイクやまつげエクステやら色々試したが、どうやっても理想の顔には近づけなかった。もはや萌花が美容整形しかないと考えるのは当然といってよかった。それは結局、両親に阻まれてしまったが……。

 でも、このパックさえあれば、もう整形する必要はないんだわ! 

 ウロマについては、最初は感じの悪い男だなと思っていたが、もはやそんなネガティブな感情はすっかり消え、深い感謝の気持ちを感じるだけだった。ありがとう、例のうさんくさい先生!

 結局、萌花はそのまま上機嫌で、お試し期間の一週間を過ごした。パックの効果はやはり絶大だった。寝る前に顔に貼るだけで、次の日はずっと美しい顔のままでいられた。顔を洗ったり、お風呂に入ってもそのままだった。本当に特別な美容液が使われているようだった。

 やがてお試し最終日、萌花は再び虚間鷹彦カウンセリングルームに行った。財布の中に万札をたくさん詰め込んで。バイトでためた萌花の全財産だった。これで美容パックを買えるだけ買うつもりだった。

 だが、ウロマは萌花と再会したとたん、開口一番にこう言った。

「椿さん、僕に何か話す前に、まずはこれで顔を拭いてください。こちらの鏡を見ながら」

 と、ウロマは萌花におしぼりを手渡し、事務机の上に置いてあったスタンドミラーを指差した。彼の隣には初日と同様に文崎灯美が立っていた。なんだろう。パックの美容液を落とせということだろうか。普通に拭いても落ちないもののような気がするけど……。不思議に思ったが、萌花はとりあえず言われたとおりにした。

 すると、変化はすぐに現れた。おしぼりで拭くと、たちまち萌花の顔は元の細目の醜いものに戻ってしまったのだ。どうやら、特別な美容液を落とす特別なおしぼりのようだった。

「椿さん、どうですか、今のお気持ちは?」
「どうって、ちょっとひどいんじゃないですか? このおしぼりで美容液が落ちて顔が元に戻るんなら、最初からそう言ってくれればいいのに」

 萌花は手で顔を覆い隠しながら不満をもらした。不意打ち過ぎて、顔を隠せるようなものを今日は何も身に着けていなかった。

「顔が元に戻る? はて?」

 と、ウロマは急にわざとらしく小首をかしげた。

「僕には、おしぼりで顔を拭く前と後とで、椿さんの顔が変わったようには見えませんでしたけどね」
「はあ? 何言ってるんですか? めちゃくちゃ変わったじゃないですか」
「そうですか? では、灯美さん、あなたにはどう見えましたか?」
「え、えーっと……。私も先生と同じ感想です……」

 灯美はいかにも気まずそうに答えた。

「なんで? 文崎さんにも見えたでしょ! 今、私の顔が変わってたところ!」
「まあまあ。落ち着いてください。こんなこともあろうかと、この鏡には実はカメラがついているのですよ。さっきの瞬間も、ばっちり動画として撮影されています」

 と、ウロマはスタンドミラーの上部にある小さな丸いくぼみを指差した。そこがカメラになっているらしい。

「なんで勝手に人の顔を撮影してるんですか。それって盗撮――」
「いいから、世紀の瞬間を見てみましょう」

 ぽちっ。ウロマはスタンドミラーの背後に手を伸ばし、何か操作したようだった。たちまち鏡はディスプレイになり、そこにさきほどの萌花の様子が映し出された。映像はウロマにおしぼりを手渡されたところから始まり、彼女はすぐにそれで顔を拭き始め――、

「ま、待って! なにこれ!」

 萌花は愕然とした。そこには最初から醜い細目の顔の自分しか映っていなかったのだから。そう、ウロマにおしぼりを手渡される前から、ずっとその顔だ。

「じゃあ、あのパックの美容液の効果っていったい――」
「それはもちろん、あなたの目にだけ、自分の顔が違って見えるという効果です」

 にっこり笑って、痛恨のネタバラシをするウロマだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

処理中です...