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5章 エイリアン・セルフィ―
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そう、実は最近、SNSに修正しまくりの自撮りをアップすることに、一抹の後ろめたさを感じていたのだ。アップするたびにフォロワーたちには「かわいい」とほめられるのだが、それらの賛辞はやはり、本当の自分へ向けられたものではない。本当の自分は醜く、それを画像修正で隠しているだけなのだから。
ただ、萌花は自撮りをはじめた当初はこんな感情はなかった。そもそも、萌花はスマホデビューが高校に入ってからで、それまでは自分の顔立ちにそこまで強いこだわりがあるわけではなかった。自分の目が人より細いことは若干気にしていたが、目鼻立ちのバランスはいいし、総合的には顔はいいほうかなと、ぼんやり自己評価していだけだった。
だが、それはスマホを手に入れ、自撮りをしはじめることで、大きく変わってしまった。単に自分の顔を写真に残すというだけならそれまでもやっていたが、スマホの自撮りアプリには自分の顔写真を加工できる機能があったからだ。そして、その機能で、萌花は自分の細い目を大きくできることを知った。それはとても衝撃的だった。長年の容姿の不満が一瞬で消え、ずっとあこがれていたつぶらな瞳を手に入れることができたのだから。
すぐに萌花はSNSをはじめ、その盛った自撮りを公開した。たちまち、フォロワーは三桁になり、多くの男性ユーザーから顔をほめられた。急に人気者になり、ちやほやされて、萌花は純粋にうれしかった。どんどん盛った自撮りを投稿し続けた。
しかし、最初は目を少し大きくする程度だったのに、次第に肌を白くツルツルにしたり、小顔にしたり、自撮りの修正具合はエスカレートしていった。いじればいじるほど、写真の中の自分が美少女になっていく気がしたのだ。そして、それとは反対に、現実の自分がどんどん醜く思えてきた。写真の中の美少女に比べて、自分はなんて汚い、無様な顔をしているんだろう。
そう、スマホを手に入れ、「なりたい自分像」をはっきり視覚化することで、そうではない現実の自分がとてつもなく苦痛になってきたのだった。一応、小顔メイクやまつげエクステやら色々試したが、どうやっても理想の顔には近づけなかった。もはや萌花が美容整形しかないと考えるのは当然といってよかった。それは結局、両親に阻まれてしまったが……。
でも、このパックさえあれば、もう整形する必要はないんだわ!
ウロマについては、最初は感じの悪い男だなと思っていたが、もはやそんなネガティブな感情はすっかり消え、深い感謝の気持ちを感じるだけだった。ありがとう、例のうさんくさい先生!
結局、萌花はそのまま上機嫌で、お試し期間の一週間を過ごした。パックの効果はやはり絶大だった。寝る前に顔に貼るだけで、次の日はずっと美しい顔のままでいられた。顔を洗ったり、お風呂に入ってもそのままだった。本当に特別な美容液が使われているようだった。
やがてお試し最終日、萌花は再び虚間鷹彦カウンセリングルームに行った。財布の中に万札をたくさん詰め込んで。バイトでためた萌花の全財産だった。これで美容パックを買えるだけ買うつもりだった。
だが、ウロマは萌花と再会したとたん、開口一番にこう言った。
「椿さん、僕に何か話す前に、まずはこれで顔を拭いてください。こちらの鏡を見ながら」
と、ウロマは萌花におしぼりを手渡し、事務机の上に置いてあったスタンドミラーを指差した。彼の隣には初日と同様に文崎灯美が立っていた。なんだろう。パックの美容液を落とせということだろうか。普通に拭いても落ちないもののような気がするけど……。不思議に思ったが、萌花はとりあえず言われたとおりにした。
すると、変化はすぐに現れた。おしぼりで拭くと、たちまち萌花の顔は元の細目の醜いものに戻ってしまったのだ。どうやら、特別な美容液を落とす特別なおしぼりのようだった。
「椿さん、どうですか、今のお気持ちは?」
「どうって、ちょっとひどいんじゃないですか? このおしぼりで美容液が落ちて顔が元に戻るんなら、最初からそう言ってくれればいいのに」
萌花は手で顔を覆い隠しながら不満をもらした。不意打ち過ぎて、顔を隠せるようなものを今日は何も身に着けていなかった。
「顔が元に戻る? はて?」
と、ウロマは急にわざとらしく小首をかしげた。
「僕には、おしぼりで顔を拭く前と後とで、椿さんの顔が変わったようには見えませんでしたけどね」
「はあ? 何言ってるんですか? めちゃくちゃ変わったじゃないですか」
「そうですか? では、灯美さん、あなたにはどう見えましたか?」
「え、えーっと……。私も先生と同じ感想です……」
灯美はいかにも気まずそうに答えた。
「なんで? 文崎さんにも見えたでしょ! 今、私の顔が変わってたところ!」
「まあまあ。落ち着いてください。こんなこともあろうかと、この鏡には実はカメラがついているのですよ。さっきの瞬間も、ばっちり動画として撮影されています」
と、ウロマはスタンドミラーの上部にある小さな丸いくぼみを指差した。そこがカメラになっているらしい。
「なんで勝手に人の顔を撮影してるんですか。それって盗撮――」
「いいから、世紀の瞬間を見てみましょう」
ぽちっ。ウロマはスタンドミラーの背後に手を伸ばし、何か操作したようだった。たちまち鏡はディスプレイになり、そこにさきほどの萌花の様子が映し出された。映像はウロマにおしぼりを手渡されたところから始まり、彼女はすぐにそれで顔を拭き始め――、
「ま、待って! なにこれ!」
萌花は愕然とした。そこには最初から醜い細目の顔の自分しか映っていなかったのだから。そう、ウロマにおしぼりを手渡される前から、ずっとその顔だ。
「じゃあ、あのパックの美容液の効果っていったい――」
「それはもちろん、あなたの目にだけ、自分の顔が違って見えるという効果です」
にっこり笑って、痛恨のネタバラシをするウロマだった。
ただ、萌花は自撮りをはじめた当初はこんな感情はなかった。そもそも、萌花はスマホデビューが高校に入ってからで、それまでは自分の顔立ちにそこまで強いこだわりがあるわけではなかった。自分の目が人より細いことは若干気にしていたが、目鼻立ちのバランスはいいし、総合的には顔はいいほうかなと、ぼんやり自己評価していだけだった。
だが、それはスマホを手に入れ、自撮りをしはじめることで、大きく変わってしまった。単に自分の顔を写真に残すというだけならそれまでもやっていたが、スマホの自撮りアプリには自分の顔写真を加工できる機能があったからだ。そして、その機能で、萌花は自分の細い目を大きくできることを知った。それはとても衝撃的だった。長年の容姿の不満が一瞬で消え、ずっとあこがれていたつぶらな瞳を手に入れることができたのだから。
すぐに萌花はSNSをはじめ、その盛った自撮りを公開した。たちまち、フォロワーは三桁になり、多くの男性ユーザーから顔をほめられた。急に人気者になり、ちやほやされて、萌花は純粋にうれしかった。どんどん盛った自撮りを投稿し続けた。
しかし、最初は目を少し大きくする程度だったのに、次第に肌を白くツルツルにしたり、小顔にしたり、自撮りの修正具合はエスカレートしていった。いじればいじるほど、写真の中の自分が美少女になっていく気がしたのだ。そして、それとは反対に、現実の自分がどんどん醜く思えてきた。写真の中の美少女に比べて、自分はなんて汚い、無様な顔をしているんだろう。
そう、スマホを手に入れ、「なりたい自分像」をはっきり視覚化することで、そうではない現実の自分がとてつもなく苦痛になってきたのだった。一応、小顔メイクやまつげエクステやら色々試したが、どうやっても理想の顔には近づけなかった。もはや萌花が美容整形しかないと考えるのは当然といってよかった。それは結局、両親に阻まれてしまったが……。
でも、このパックさえあれば、もう整形する必要はないんだわ!
ウロマについては、最初は感じの悪い男だなと思っていたが、もはやそんなネガティブな感情はすっかり消え、深い感謝の気持ちを感じるだけだった。ありがとう、例のうさんくさい先生!
結局、萌花はそのまま上機嫌で、お試し期間の一週間を過ごした。パックの効果はやはり絶大だった。寝る前に顔に貼るだけで、次の日はずっと美しい顔のままでいられた。顔を洗ったり、お風呂に入ってもそのままだった。本当に特別な美容液が使われているようだった。
やがてお試し最終日、萌花は再び虚間鷹彦カウンセリングルームに行った。財布の中に万札をたくさん詰め込んで。バイトでためた萌花の全財産だった。これで美容パックを買えるだけ買うつもりだった。
だが、ウロマは萌花と再会したとたん、開口一番にこう言った。
「椿さん、僕に何か話す前に、まずはこれで顔を拭いてください。こちらの鏡を見ながら」
と、ウロマは萌花におしぼりを手渡し、事務机の上に置いてあったスタンドミラーを指差した。彼の隣には初日と同様に文崎灯美が立っていた。なんだろう。パックの美容液を落とせということだろうか。普通に拭いても落ちないもののような気がするけど……。不思議に思ったが、萌花はとりあえず言われたとおりにした。
すると、変化はすぐに現れた。おしぼりで拭くと、たちまち萌花の顔は元の細目の醜いものに戻ってしまったのだ。どうやら、特別な美容液を落とす特別なおしぼりのようだった。
「椿さん、どうですか、今のお気持ちは?」
「どうって、ちょっとひどいんじゃないですか? このおしぼりで美容液が落ちて顔が元に戻るんなら、最初からそう言ってくれればいいのに」
萌花は手で顔を覆い隠しながら不満をもらした。不意打ち過ぎて、顔を隠せるようなものを今日は何も身に着けていなかった。
「顔が元に戻る? はて?」
と、ウロマは急にわざとらしく小首をかしげた。
「僕には、おしぼりで顔を拭く前と後とで、椿さんの顔が変わったようには見えませんでしたけどね」
「はあ? 何言ってるんですか? めちゃくちゃ変わったじゃないですか」
「そうですか? では、灯美さん、あなたにはどう見えましたか?」
「え、えーっと……。私も先生と同じ感想です……」
灯美はいかにも気まずそうに答えた。
「なんで? 文崎さんにも見えたでしょ! 今、私の顔が変わってたところ!」
「まあまあ。落ち着いてください。こんなこともあろうかと、この鏡には実はカメラがついているのですよ。さっきの瞬間も、ばっちり動画として撮影されています」
と、ウロマはスタンドミラーの上部にある小さな丸いくぼみを指差した。そこがカメラになっているらしい。
「なんで勝手に人の顔を撮影してるんですか。それって盗撮――」
「いいから、世紀の瞬間を見てみましょう」
ぽちっ。ウロマはスタンドミラーの背後に手を伸ばし、何か操作したようだった。たちまち鏡はディスプレイになり、そこにさきほどの萌花の様子が映し出された。映像はウロマにおしぼりを手渡されたところから始まり、彼女はすぐにそれで顔を拭き始め――、
「ま、待って! なにこれ!」
萌花は愕然とした。そこには最初から醜い細目の顔の自分しか映っていなかったのだから。そう、ウロマにおしぼりを手渡される前から、ずっとその顔だ。
「じゃあ、あのパックの美容液の効果っていったい――」
「それはもちろん、あなたの目にだけ、自分の顔が違って見えるという効果です」
にっこり笑って、痛恨のネタバラシをするウロマだった。
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