『候補』だって言ったじゃないですか!

鳥類

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『候補』だって言ったのに!!

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 …ここはダレ? 私はドコ?

 テンプレなことを思いながら見覚えのない天井を眺める。
 どう考えても量産品のパネル天井じゃなさそうな豪奢な彫りの施されたそれに、ついつい現実逃避した私は悪くないと思う。一般庶民のお宅で目にすることが無いモノだもの、仕方ない。

(病院…って訳でもないだろうし…本当、ここはどこなの?)

 周りを確認するために首を動かそうとするが、どうにも身体が重苦しい。
 何とか首だけを動かして周囲を確認すると、庶民の自分ですら価値が分かる気がする重厚で貴重そうなチェストやデスク、キラキラと輝くシャンデリアまで見える。
 視界の端に映る白く柔らかい物は枕と布団だろう。視点の高さから言ってどうもベッドの上に寝かされているのは間違いない。
 けだるさでぼんやりする頭にクエスチョンマークを量産していると、誰かが部屋の中に入ってきたのが分かった。

「お嬢さま? 気が付かれましたか?」

 ひょい、と視界に入ってきたのは濃い赤毛に翡翠色の瞳の女性。うわぁ外国の方だよどういうこっちゃ?! と半ばパニックになりかけたところで頭の中にこの女性の事を始めとする数々の情報が渦巻いた。

(…そうだ…私は…)

 頭を押さえて悶絶ポーズになった私は、流れ込んできた情報と、今までの記憶との処理に忙しかったため、慌てて部屋を出ていく侍女を止めることが出来なかった。


 …どうやら私は、『転生』とやらをしてしまったらしいです。


 *****


 さてさて、少し落ち着いたところで現状の確認といきますかね。
 現在私は『イーリス・プルファ』という名前をいただいている、御年5歳の幼女さまです。クセのないサラッサラの白金の髪、名と同じ紫の瞳を持つ美幼女さまですよ!
 以前の私はごくごく普通の黒髪・黒目、凡庸を絵にかいたような容姿の日本人でしたからね、嬉しさに小躍りしそうだわーこのまま成長したら美女確実だもん絶対美人に育ってやる! そのためなら努力は惜しまないぜ!
 そして何より、前回の世界と大きく違う点。

 それは、この世界には『魔法』があるという点です!

 素晴らしきはファンタジーの世界! 憧れの魔法の世界!
 何と、今回記憶を取り戻すきっかけになったのが、魔力の暴発。本来であれば7歳になったところで魔法省にて適正と魔力量の検査を受けた上で使い方を習うらしいのだが、喫茶室の机に置いてあった魔導書を見て、試しに発動させたところ…大変な事になったらしい。
 なまじ優秀な頭脳を持っていたために、魔導書が読めてしまったんだよねー。しかも結構な魔力量を持ってるらしくて…威力もすごかったらしい。
 もちろん制御なんかできる訳ないし、反動もすごかったせいで、三日程寝込んでしまったそうで…うん…色々とすまぬ…。

 ただ、以前の記憶を思い出したせいで、イーリスとして5年間過ごしていた間は然程気にしていなかったことが気になるようになった。

 今私が生活している国は王制をとっており、何と我が家は公爵家。うん、正直歴史苦手だからよくわからんけどすんごい高貴なお家柄なのはわかる。だってすげぇ豪邸だもん。
 そしてうちの家族構成は公爵位を賜っている父・キリっとした美人の母・3歳違いで嫡男の兄、そして私の四人。
 庶民生活しかしたことない私が知らないだけかもしれないけど、とにかく家族間での団欒時間が少ない。というか、無い。食事の際に同じ卓を囲むことはあるけど、その時にもほとんど会話すらしない。
 ものすごい険悪、という訳じゃないんだと思うんだけど…何というかよそよそしいというか…無関心というか…挨拶すらほとんど交わすことも無い。

 …めっちゃ寂しい。

 以前の記憶が戻るまで、特に疑問も抱かなかったみたいだけど、思い出した今、ものっすごく寂しい…。せっかく…せっかく家族が一緒にいるんだから…仲良くしようよ…。
 …そう思うのは、きっと前回の生で私が孤独だったためだろう。

 私は、捨て子だった。

 2歳くらいの時に児童養護施設の門前に立ちすくんでいたところを保護されたらしい。身元や年齢が分かるようなモノは何一つ持たず、薄汚れた服を纏った状態で。
 施設での対応が悪かったわけじゃないし、職員さんにはとてもよくしてもらった。友達…といえるかは分からないけど、同施設内の子たちはそれなりに交流はあったけど…でも…

 それでも、やはり…家族が欲しかった。

 施設を出て就職して、それなりに生きてたけども…結局結婚する前に…死んだみたいなんだよねー。死因とか思い出せないけど…多分二十代前半くらいで死んだんじゃないかなー。結婚どころか…彼氏すらできた記憶が無いぜ!!
 …何か言ってて悲しくなってきた…。
 そんな人生送ってきたからか、家族への憧れがハンパ無い。

 だからこそ! ちゃんと『家族』がそろってる今生では、絆を感じて生きたい!!

 と、いうことで。

 唸れ! 私の美幼女力!!

 お行儀はこの際遠くの方へ放り投げ、休日の父の膝へよじ登って『おしごと、毎日ありがとうございます、でもお休みの日くらいわたしと一緒にあそんでください』と、うるうる上目遣いで訴え、優雅にティータイムを楽しんでいる母へ『お母さまのようなすてきな淑女になるためにはどうしたらいいのですか?』とキラキラ期待を込めた視線を向け、本日の課題を終えた兄を捕まえて『お兄さまみたいにかしこくなりたいので、おべんきょう教えてほしいです!』と尊敬のまなざしを大盤振る舞い。
 今では毎日和気あいあいと食卓を囲み、休日には一緒にティータイムを過ごす仲良し家族になりました!
 …というか…父母だけでなく、兄も…私に激甘になりました…。まぁ、中身はいい大人ですし、今まで甘やかされたことがないのでどう対処したらいいのか悩むことはありますけど、我がままっ子にはならずに済みそうです。
 感覚が庶民のせいか、ドレスやらアクセサリーやらをそんなにもらっても困るせいで特におねだりすることもないため、ここぞ! という時の『お願い』を却下されることは殆どないのがいいね。
 ここ最近の一番の『お願い』は、まだ適性検査年齢に届かないけど、お父さまの力で内々に魔力測定を済ませ、兄と一緒に勉強させてもらってることかな。
 まだまだ完全に使いこなせてるわけじゃないけど、私の魔力量は多いらしく、今からしっかり頑張れば、王宮の魔導士団に入れるくらいの凄腕になれるかもしれないらしい!

 目指せ、オレTUEEEEEEEEEE!

 こうして私の幸せ団欒計画は成功を収め、温かい日々を堪能していた。


 *****


 月日は流れ、私は8歳になった。
 相変わらず家族の仲は良好だし、勉強も続けてる。…家族仲については…何か…父と兄が私を溺愛状態になってるけど…まぁ特に問題は無い…と思う…多分。
 そして今現在私は近年稀にみる綺麗なドレスに身を包み、お母さまとともに我が家所有の馬車に揺られている。
 一年ほど前から兄の剣術と武術の稽古に混ざり込んで、体術の基礎を習っているため、平素は自分で着替えられる簡素なワンピースを着ているのだ。なので、こんな綺麗なドレスに袖を通したのは本当に久しぶりで…正直堅苦しくてしんどい。
 お父さまとお兄さまは可愛い可愛いとべた褒めしまくったクセに、いざ出かけようとしたらグチグチと文句を言いだして何故か出かけるのを妨害しようとしていた。

 そして現在―――
 王城の庭園にて、王妃さま主催のお茶会に参加しております。
 優雅にお茶を頂いているお母さまから「とりあえずいってらっしゃい」と(面倒くさそうに)送り出されたその先は…
 とても美しく広い庭園内の一角で、心躍るような素晴らしい風景の中の一部に…目がチカチカしそうなほどの色彩が溢れかえっております。
 おおよそ20名ほどか、同じ年代くらいの可愛らしいご令嬢方が渦巻いております。

 …その色彩台風の中心におられるのは…この国の第一王子さまであらせられる、フェリクス・フォン・ズィルバーンさま。

 始めにご挨拶をさせていただいた時に拝見したところ、柔らかそうなブルネットの髪に、王族特有の銀にも見える灰の瞳をお持ちの美少年です。お母さまいわくとても聡明なお子さまで、王太子となられるのはほぼ確実、と言われるほどのお力をお持ちだそうです。
 いやはや、素晴らしいですねー。ぜひこの調子で頑張っていってほしいですな。
 そして、素晴らしい方をお迎えになって、永にこの国を平和に守っていってほしいですねえ。

 …一般庶民として20数年を生きた記憶を思い出したとはいえ、今現在はこの世界の住人。そして大人の思考力を持ってここを勉強してきたので、お父さまやお母さまから説明されずともちゃんと理解しておりますよ。
 今日のこのお茶会の趣旨は―――

 王子殿下の婚約者探し。 

 そんなところに放り込まれたという事は…もちろん私もその資格を有しているという事。
 王子殿下は私より二つ年上、現在10歳であらせられるという事で…年齢的な面もクリア。そしてうちの父は今代の国王陛下を支える宰相職についている上に家格は公爵…と家柄的にも問題なし。
 今ここに集められているご令嬢方は皆、伯爵以上のお家柄ではあるけれども…往路の馬車でお母さまが仰るには…我が家が一番家格が高いということらしい。
 つまり…このお茶会で集められた候補者の中では…私が筆頭候補に名を上げられているとかなんとか…

 …………冗談じゃありませんねっ!!!

 私の夢は、このまま魔法の勉強を進め、王宮魔導士になって新たな魔法を開発すべく研究者になることですよ!!
 あ、でもこの前治癒魔法を使った時に、先生に結構適性があるって言われたから、腕を磨いて貴族以外の人も利用できる治療院を開くのもいいかもしれない…。
 まぁ…何にしても…

 王族に連なるとかごめんですね!!

「っきゃぁぁぁぁああぁぁぁあっ!!」

「ふぁっ?!」

 なっ…なんですか?! 凄まじい悲鳴がっ?! そしてカラフルタイフーンがこっちにぃぃ?!
 うわぁ何が起こったんだろ? 王子殿下に群がってたご令嬢が皆走って行っちゃいましたけども。

「……」
「……」

 何ですかね。何でいきなり隣に王子殿下が湧いたんですかね。あれですか? ご令嬢方が皆どっかいっちゃったからとりあえず近場に居た私の所にいらしたんですかね?
 でもさっきいたところにもうお一人残っておられますけど。今ならあの方と二人きりでお話出来るんじゃないですかね。私より実りある話ができるでしょうからあちらへどうぞ。

 ―――ボトボトッ

「………んん?」

 本日、私はお母さまセレクトの淡い菫色のドレスを身に着けております。エンパイアラインの可愛らしいドレスです。切り替え部分から下は身生地と同色のチュールレースで二枚仕立てにしてあるとても素敵なものです。
 私自身余りごちゃごちゃと色を使うのは苦手(色合わせとかめんどくさいもん)なので、手持ちのドレスや普段着も同系色のみとかでまとめてしまう事が多いため、今日も我が身の白っぽさにドレスの菫色…髪飾りもシルバーにアメジスト…

 …緑色のものは…使ってないハズなんですがね。

 私のドレスにへばりつく緑色の物体…

 カ マ キ リ か よ

 おぉ、見事に威嚇してきやがったわ。中々ご立派ですね。そして足元にもカナブンやらバッタやらがうごめいております。
 視線を上げればそこには簡素な箱をお持ちの王子殿下。さらにその後ろ、先程カラフルタイフーンが屯ってた辺りをよく見れば…何か跳ねてんなー。絶対バッタだろ、アレ。
 もう一度ドレスにへばりついていたカマキリに視線を戻せば、威嚇のポーズを解除して移動を始めている。おいおい上って来るのかよ。
 ボスンっという音と共に足元に落ちた箱。落とした張本人へと目を移せば…

 これ以上ないくらい憎ったらしいドヤ顔を浮かべた王子さまが御座しました。

 ―――あっ、こいつイラつくわ。

 うふふふふこちとら伊達に山奥の施設で育ったわけじゃありませんのよ?(前世でだけど)こんなちんけな虫ごときでビビらせようとは笑止千万!!
 やられたらやり返す、コレ基本!
 ちょっくら失礼カマキリさん!

「―――っ!!!?」

「あら、いい具合に止まりましたわね。殿下は睫毛が長くていらっしゃるし、お鼻も高くていらっしゃるから掴まりやすいのかもしれませんわね? あ、お母さまが呼んでらっしゃるわ。御前失礼いたします」

 ドレスの上を徘徊していたカマキリさんを捕獲して、殿下にお返ししてやったわ。

 顔面に。

 あっちが先に仕掛けてきたんだし、このくらい許されるでしょ。王妃さまだって、王子殿下が虫を撒き散らしたことは、さっき怒涛の勢いで走り去っていったご令嬢方から聞いてるだろうしね。
 何はともあれ、これで私は候補から外れること間違いなしだろうし、万々歳だわ。
 …あ、でも不敬罪に問われたらどうしよう…家は関係ないってちゃんと言わなきゃねぇ―――

 ―――後日、私と、ぼっちで取り残されていた、エルミナ・クラリエス侯爵令嬢が第一王子の婚約者候補になったと公表された―――


 ………何っでやねん!!!!!


 *****


 納得いかなすぎる公表がされてからすぐに、日々の勉強と訓練の間に『妃教育』が入ってきました。
 語学や政治関係の勉強については、兄さまと一緒に先生についていたから特に問題なかったけど…情報収集のためのお茶会の作法や後宮の取り仕切り方とかの方が…。本当王妃業とか出来ない出来ない!
 こういうのは適性がある人がやればいいんですよ!
 そういえばこの前王妃さまにお招きいただいたお茶会…という名の勉強会で顔を合わせたエルミナさまはお話もお上手だったし、ザ・ご令嬢!! という感じの方だったので、あの方にお任せすればいいと思うのです!
 王妃さまとも楽し気にお話しされていたし、何より王子を見るエルミナさまの瞳はまさに『恋する乙女』だったし!
 そうだそうだ、それがいい! 私みたいなやる気のないヤツにさせるより、淑女の鑑で、なおかつ王子殿下にゾッコンなエルミナさまが正式な婚約者になれば万事解決じゃね?!
 そうと決まればお父さまにお願いして―――

「おい、お前明日から週三で王宮で勉強な」

 って、何で殿下おまえがおるんじゃーーーーい!!

「…これは殿下…いつの間に我が家にお越しになられましたの? そして週に三日王宮へとは何の事ですの…?」
「フェリクス」
「…ですから、何の事ですの、で・ん・か」
「フェリクス」
「……」
「フェリクス」
「……第一王子殿下…話が進みませんわ」
「……」
「……」

 うわっ、超不機嫌になった。というか、不機嫌になりたいのはこっちだってーの! どっから湧いたんだこの王子は!
 先触れなんかなかったはずなのに…あったらソッコー逃げとるわ! こっちの勉強時間に割り込んでくるなよ!

「…イーリス…このまま睨みあっててもしょうがないだろう…? 私の勉強時間でもあるんだよ…」
「…申し訳ありませんお兄さま…ですが殿下が突然乱入されて…」
「フェリクス」

 勉強時間だけでなく兄妹の会話にまで乱入してくんなよこのクソ王子!!

「…はぁ…で、ご用件はなんなんですの? フェリクスさま」
「だから、明日からお前週三日王宮で、俺と、勉強な」

「…はぁ?! 何で?!」

「そんなの、お前がバカだからに決まってる」

 ―――何っだとこのクソ王子ーーーー!!!!

「お前の出来が悪いから、俺の指導係が直々に教育する。そんで、お前がサボらないように、見張りとして俺も一緒にいてやる」
「…まぁ…そんな…殿下直々に見張りなどしていただかなくとも…」
「フェリクス」
「…フェリクスさま直々に見張っていただかなくとも大丈夫ですわ。ね、お兄さま? 私、勉強をサボったりいたしませんわよね?」
「うん、イーリスはとっても真面目だし、そんじょそこらのご令嬢よりずっと賢いよ!」
「ありがとうございますお兄さま! お兄さまにそう言っていただけると自信がつきますわ!」

「…身内の贔屓目」

 あぁぁん?! 今何つったクソ王子がぁぁぁぁぁぁ!!!!

「とにかく、これは決定事項だ。撤回は無い。明日は迎えを寄越すからな。逃げるんじゃないぞ」

 こうして、さらに納得がいかない状況に陥った訳ですよ。
 本当、何なんだこの腹立つ俺さま王子は…。顔面にカマキリ引っ付けたことを根に持ってんのか? 王子のクセに器が小せぇな!
 っつーかバカって言うなーーー! そりゃ前世でだって大して成績良くなかったけど、私は私なりに頑張ってんだぞーーー!

 …まぁ、お兄さまが天才だからそれに比べれば出来が悪く感じるかもしれないけどさぁ…自分でも前世に比べればかなり賢いと思ってたのに…どうやら思ったほど優秀じゃないようです…

 …宮廷魔導士は無理かなぁ…くすん…

「…全く…素直じゃないなぁ…」

 落ち込みまくっていた私は、お兄さまが何かつぶやいたことは分かりましたが、その内容までは耳に届きませんでした。


 *****


 勉強漬けの毎日だったせいか、月日が飛ぶように過ぎて行き…気付けば私も16歳。デビュタントの年になってしまいました…。
 結局8歳のあの日から、週三の勉強会は敢行され、毎度毎度バカにされながら続けられました。
 …コレがまた…あのクソ王子…王子だけあって優秀なんですよね…。バカにされても仕方ないかもしれない…というくらいスペックが高い…。

 …腹立つ!!

 まぁ、それも三年ほど前、王子殿下が学院へ入学される際に終了したんですけどね。万歳!

 そして、私も昨年から学院へも通うようになりました。
 この国の貴族は15歳から四年間、王立の学院へ通うことになるのです。
 一般教養はもちろん、専門教育を受けながらの人脈作り、卒業後の身の振り方を決めて足場固めをするための場です。
 まぁ、ご令嬢方においては、勉強よりも、より良い縁を繋ぐための社交場としての意味合いが強いですがね。
 将来性のある殿方を見つけてゲット…おっと失礼、捕獲…あれ、これもダメだな、お知り合いになる! ために割とギラギラしておいでです。
 正直な話、ここで勉強する内容って、結構前に修了してしまってるので…初年度の内にすべての単位を終了させました。
 学院での授業に取られる時間がないからといって、社交パーティーに出るのもちょっと…と、いうことで…

 魔術研究室に入り浸ってます!

 ここの研究員さんたちの多くは王宮の魔導士協会へ就職なさいますから、ここで顔つなぎしておけば! 卒業後に伝手を頼って就職することもきっとできるハズ!!
 手に職、大事ですね! 手に職…ふふふふふ…

 そう、私は就職を視野に入れているのですよ!

 何故かというと…そろそろ『第一王子婚約者候補』というお役から解放されそうだからです!!
 いやっふぅーーー!!!

 いかんいかん、顔がだらしなくなってしまいますね。一応公爵令嬢としての体裁は整えてますからね! こんなところは見られないようにしないと。
 とにもかくにもですね、現状は私にとって追い風ビュービューな感じなのです。

 それは、学院に入学してすぐ目に入りました。だって本当、校内のあちこちで遭遇しましたからね。
 一番最初に見たのは、必修単位の確認をカフェでゆっくりしようと思って足を運んだ時でした。

 カフェのど真ん中の席を占領する一団。

 …何かデジャヴぅ…と思ってよく見ると、中心地にどっかりと腰を下ろして何らかの資料を眺めていらっしゃるのは第一王子殿下です。
 そしてその向かいには…

 エルミナさまがお上品な笑顔を浮かべて座っておられます!!

 周りのお席にはエルミナさまのご学友らしきご令嬢の集団と、恐らく殿下の側近候補の方々だろうと思われる方々が数名。
 時折お言葉を交わしながら優雅にお茶を召し上がっておられるではありませんか!!

(お似合いかよーーーー!!)

 心の中で絶叫しましたね!
 その後も学院のあちこちで、殿下とエルミナさまが一緒におられるところを目撃しましたよ!

 どうやらお二人は順調に愛を深めておられたようです。

 候補者同士が一緒にいるのは余りよくないと思われていたのか、私とエルミナさまが顔を合わせる事ってほとんどなかったんですよね。
 王宮に週三回強制召喚される時もいらっしゃらなかったんですよねぇ。

 …あ、嫌なこと思い出した…。

 強制召喚され始めてしばらくした頃、どうせ同じような内容をやっておられるんだろうし、エルミナさまもご一緒に勉強したらいいのでは、と申し上げた際…

『何のためにお前だけ呼んでいると思っているんだ? お前の出来が悪いから、だと言っただろう?』

 と…これ以上ないくらい憎ったらしい顔で言いやがりましたね…。
 クッソ…! 悪かったなぁ、出来が悪くてぇぇぇぇ!! きぃぃぃぃっ!! と、帰宅後クッションをサンドバッグにしましたとも!
 ぶつぶつ呪詛を吐きながらクッションに当たっている姿をお兄さまに見られていたと知った時には少々落ち込みましたけどもね…。

 おっと脱線しましたわ。
 とにもかくにも、エルミナさまと殿下の親密度は私の知らないところでマックスになっていた、という訳なのです!
 候補者、という立場が同じなら、やはり心を寄せる方を選ぶでしょう!

 …エルミナさまは私と違って優秀でいらっしゃるんでしょうしね!!

 この調子なら、近々お役御免になるのは確実ですよ!
 多分ご卒業と同時に立太子され、その時に正式にご婚約…という流れになるんじゃないですかねぇ。
 と、なると、後少しの辛抱ですね!
 私は私の人生を謳歌するための根回しを頑張りましょうかねーーー!!


 *****


 魔術研究室は結構奥まったところにあるのですよ。なので、校舎内を歩いて行くより、裏庭を突っ切っていく方が早いんです。このルートを聞いてからは専らこちらを通ってます。
 裏庭、というだけあって、特に何かしらの設備があるわけでも無く、人通りも少ない場所です。が、護身術だけでなく格闘術までレベルアップしてる私としてはそこら辺のへなちょこ令息など目じゃないので、今日も今日とて一人で通っております。

 …ん? 話し声が聞こえる…? 珍しい…って! あれはーーー!!!

 殿下とエルミナさまです!! 

 思わず這いつくばってしまいましたよ! 令嬢にあるまじき行為ですけども、そんなことは言っていられません! 大丈夫、芝生ですからそんなに汚れません!
 周囲には誰もおられませんね?! 大丈夫ですね?! それではもう少し近寄って…。

 このような人気のないところで逢引きですかね?!
 とてもシリアスな雰囲気ですよ! そして距離が近ーーーい!!
 エルミナさまが何か真剣に訴えておられるようですねぇ…。

 っふぁーーー!! 殿下に抱き着きましたよーーー!!

 うぉぉエルミナさま思ってたより大胆ですねーー! 恋愛経験知底辺の私には刺激がぁぁぁ!

 あぁぁドキドキします! ドキドキしますよっ!!
 も…もうちょっと近づいても大丈夫ですかね…?

「ーーーわたくし…殿下の事を…心より、お慕いしておりますの…!」
「…エルミナ嬢…」

 っひぃぃぃぃぃぃ!! すごいです! 言っちゃいましたねえぇぇぇ!
 エルミナさま、至近距離からの上目遣いです! これは破壊力抜群でしょう!
 見つめあう二人が絵になりすぎますね…!
 おぉっと殿下の両手がエルミナさまの肩に…! こっ…これはもしや…! このまま『ちゅー』の流れですか?!
 うわぁぁ思いっきりデバガメですよねぇ?! みっ…見ていたいけど…! でもっ…やっぱりここは目を塞ぐべきですよね?!
 というか、見ちゃったら叫んじゃいそうですし!!

 目を塞ぎましたよ! さぁ! 遠慮なくぶちゅっとやっちゃってください!!


「…ここで何をしているんだ、イーリス?」

 …ひぃっ…!! 魔王がっ…!!!!

 ―――
 ―――――
 ―――――――

「…で? 芝だらけになりながら座り込んでいた理由は?」
「……」

 目の前に真っ黒笑顔を浮かべた王子殿下がいます…。ちなみにその右手は私の頭の上です…。

 …痛い痛いいたいぃぃぃぃぃぃ!!!

 ギリギリと握りつぶさんばかりに指が食い込むぅぅぅぅ!! 頭つぶれるぅぅぅぅ!!!

「イ ー リ ス ?」
「…えっと…その…魔術研究室にですね…行く途中でですね…お二人の逢引き現場をっ…て、あだだだだだだだだ!!!」

 さらに圧が強まりましたよ?! どんだけ握力強いんですかぁぁぁぁぁぁぁ!!

「誰と、誰が、何をしていたと?」
「その…殿下と、エルミナさまが…逢引き? っうぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 いだいいだいいだいぃぃぃぃ!!!

「すみませんすみませんお二人のお邪魔をするつもりはなかったんですぅぅ!!」
「………」

 …あっ、外れた…痛かったぁぁ…。
 結果的に邪魔しちゃったのは悪かったと思うけど…ちゃんと隠れてたんだから気にせず楽しんでそのまま去ればよかったんじゃないのかなぁ…。わざわざエルミナさまにまでバラす必要なかったと思うんだよねぇ。
 おや、恨みがましく睨みつけたら殿下が固まりましたよ。どうしたんですかねぇ?

「…殿下? どうかし…」
「ちょっと!! あんたのせいで台無しじゃないの!!」

 あっ、すみませんエルミナさま! 仰る通りでございます!

「あのっ…私、決してエルミナさまのお邪魔をしようとしたわけでは…!」

 そうですよね、そうですよねぇ…! お邪魔虫しちゃったのは確かですし…ここはやはりこのまま私がフェードアウトして続きを決行してしただくのが最善ですよね。
 気まずいかもしれませんけど、不完全燃焼のままよりはきっといいに決まってます!

「わっ…私、お邪魔でしょうから失礼いたします…ねっ?!」

「どこへ行くつもりだ、イーリス」

 ななな何で私は殿下に捕まっているのでしょう?! 後ろからがっしりとお腹に腕が回ってますけども?!

「でででで殿下?! 一体何を…!」
「フェリクス」

 いや何でここでいつものどうでもいいやり取りするかな?! そんなことより離してくれないと立ち去れないんですけども?!

「で…殿下! 何故そんな女を…!」

 ですよねぇ!? 私もそう思いますとも!
 エルミナさまがギリィ…ってなっておられるぅ…!

「…でっ…殿下っ! 離してくださいよっ! エルミナさまに誤解されて…」
「フェリクス」

 しつこいなあんたも?! っつーか空気読め!! エルミナさまのお顔が般若になってるから!

「フェリクスさま!! どうしてそんな女っ…ひっ?!」

 …おぉう…今、一気に気温が下がったぞ…?
 エルミナさまのお顔が一気に青ざめたんですけど…そして背後からハンパ無く黒いオーラが流れてくるんですけど…?! 恐ろしくて後ろ向けないっ…

「…殿…下?」
「フェリクス」

 …ブレねぇな、こんちくしょうが…。

「…はぁ…フェリクスさま…。離していただけませんかね…。このままじゃ立ち去ることも出来ないんですよ…」
「何でお前が立ち去る必要があるんだ」

 おっ前本当あんぽんたんかよ?!
 もごもごと頑張ってもがいてみますが悔しいことにこの腕は外れません…。

「そ…そうですわ! イーリスさまさえ邪魔しなければ…! わたくしがフェリクスさまと…!」

「貴様に名を呼ばれる筋合いはない」

 また何か黒いオーラが流れてきましたよーーー! 怖いですよーーー!!

「何故っ…わたくしの方がっ! わたくしの方がフェリクスさまの伴侶として相応しいのに! そんな魔術研究しか能がなさそうな女よりっ…!」


「…何度同じことを言わせるつもりだ。貴様に名を呼ぶことを許した覚えはない。俺をその名で呼んでいいのは…

  正式な婚約者であるイーリスだけだ」


 ………はい? 今何と仰いました…?
 『セイシキナ コンヤクシャ』とか言いませんでしたか?
 私もエルミナさまも…婚約者『候補』だったハズなのですが…?


「納得いきませんわ! どうしてわたくしが候補を外されましたの?! お茶会でもその女よりうまく立ち回れてましたわ!」
「母より話は聞いているが、お前は自分の自慢話ばかりで周囲への配慮はなかったと」
「学院の授業だって、その女はほとんど出ておりませんのよ! サボってばかりなんですわ!」
「イーリスは一年時に卒業必須単位を全て取得している。それぞれの教科での試験結果も素晴らしかった」
「…っそんなっ…! が…学院ではどの派閥にも加わらず、人脈を作ることを怠って…!」
「今後必要になる者との顔つなぎなら、王宮へ頻繁に来させていたからな。既にきちんとした関係を築けている」
「わたくしだって王妃として殿下を支えることが出来ますわ!」
「俺の隣に立てるのはイーリスだけだ」

「…どうしてっ!? どうしてですの?! わたくしだって…!」
「…どうして…だと? そんなこともわからないのか?」

 何か…変な言葉が聞こえて呆けてましたけど…その間にも話が進んでますよ…。
 いや、本当、どういう事なんですか?!
 私もエルミナさまも同じ『婚約者候補』という立場のハズですよね?! 私が正式な婚約者ってどういう事なんですか…!?


「俺が、イーリスを、愛しているからだ」


 ……………はいぃぃぃ???


 脳みそが、停止しました。


 *****


「ーーース。おい、イーリス。聞いているのか?」

 …何か聞こえる気がしますね…? 何ですかね。今私の脳みそは休憩中ですよ…。

「やれやれ、この状態で意識を飛ばし中か。だったら…何をされても…文句は言えないよなぁ?」

 …何を…何をされても…? ん? 何の事ですかね? 何だか目の前に殿下のお顔が…?

「…ってうぉぉ近ーーーーい!!!」

 びびびびっくりしたぁぁぁぁぁ!! 何か変な言葉が聞こえて思考停止してましたよ! そして、気づいたら目の前に麗しい殿下のお顔がドアップですよ! 心臓が過剰運動してます!!
 …というか、今舌打ちしましたよね?! 何で?!

「後ちょっとだったのに。空気を読まない奴め」
「いやいやいや! 空気読まないって何ですか! というか何するつもりだったんですか!」
「何って、キス」
「ーーーはぁぁぁっ!? 何で?!」
「何でも何もないだろう。お前は俺の婚約者だからな。そのくらいの事は許される」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいよ! 私は『候補』であって…!」

「お前こそ何を言っている。お前はとっくの昔に、俺の『婚約者』として知らしめられている」

 ……。
 …………何ですと?!

「…えぇぇぇぇぇ?! いっ…いつの間に?!」

 大パニックですよ?!
 これ以上ない程驚いてますとも!
 なのに、何ですか、その残念なモノをみるような眼は!!

「お前、バカだろ」

 ムッキーーーー!! 本当腹立つこのクソ王子ーーー!!!

 殴りかかったらあっさり両手を拘束されてしまいましたよ…! ちくしょうこんなところでも敵わないとか本当忌々しい奴です…!

「知らないのはお前くらいだ。エルミナを候補から外して、お前を正式な婚約者としてから、もう七年も経つんだぞ?」
「…へ?」

 七年…七年?! え…? 殿下と初めて顔を合わせたのが8歳の時…今から八年前ですよ? それから私とエルミナさまが『候補』としてあげられて…。
 …えぇぇ…?

「俺は最初からお前が気に入っていたからな。一年ほどは様子を見ていたが、想像以上にお前は俺の期待に応えるだけの力量を持っていた。ならば、他の候補など要らないだろう?」

 ―――俺は、お前だけが欲しかったんだから―――


 …オーバーヒートです…!
 何が何だかわかりませんよ?!

「なっ…何でっ…私…?!」
「お前はおもしろいからな。行動が大体俺の想像の斜め上を行く。見ていて飽きない」
「だって…! カマキリ顔につけたし…いっつも口答えばっかりで…!」
「あぁ、アレは衝撃だった。まさか平気でカマキリを掴むご令嬢がいるとは思わなかったし、その上顔につけられるとも思わなかったな。それに、俺の言う事なんか一つも聞かない。俺の思うような行動を何一つしない」
「ほら! 可愛げの一つもないんですよ?! そんな私が…」

「だからこそ、惹かれるんだ」

 …へ?

「俺の言う事を一から十まで聞いて、大人しく笑ってるだけの妃なんぞ要らん。それなら綺麗な人形でも立たせておけばいい」
「…人形って…」
「国を治めるというのは、生半可な事じゃないんだ。俺の考えだけを是としてくれる人間だけで固めてみろ、碌な事にはならん。意見をくれる者、諫言してくれる者の人数は多い方がいいに決まっている」
「それは…もちろんそうですけど…」
「そして、王として表を統治する事は出来るだろうが、後宮を始め、女性たちの視点や情報は疎かにできない物がある。…為政者はいつだって孤独であるものだが…それでも、同じ位置に立ち、共に闘ってくれる者がいるといないとでは…随分違うものだ」

 それは…確かにそうだけど…そんな重責を…私が背負うことが…

「俺は、お前となら、この国を背負えると思っている」

 …殿下の…銀の瞳に捕らわれる。

「―――お前でないと、俺は…きっとあの場に真っすぐ立てない」

 身体の芯が熱い…
 眼が…逸らせない…!

「俺と…共にいると…誓え。イーリス」

 ―――お前は、俺のモノだ―――

 どちらの物かわからなくなる程混ざりあった吐息が…そのまま静かに飲み込まれた―――


 *****


 とある大陸の中の一つの国。長く続くその治世の中で、とりわけ繁栄した時代があった。
 賢王として称えられるその王の隣には、いつでも柔らかな笑みを浮かべる王妃の姿があったという。
 彼女は魔術に秀で、とりわけ治癒魔法に特化しており、市井の者も利用できる治療院を開設した後、王妃という立場にあるにも関わらず、自ら治療にあたっていたと伝えられている。
 王は終生、妃一人を愛し抜き、妃も王を信頼し、共に闘う同志としての絆をも深めていたという。
 側妃を持たずとも二人の王子と一人の姫に恵まれ、争うことなく次代へとその御代を繋げた。
 晩年は王家所有の領地で夫婦仲良く過ごしたと記されている―――


 ――了――
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感想 9

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みんなの感想(9件)

ライダーワン

まさかハッピーエンドとは思いませんでした。

2025.11.10 鳥類

ライダーワンさま
コメントありがとうございます
まさかでしたか…
わたくし、割とハピエン好きです!

解除
鳥宮 じょう

コメント失礼します。
大変楽しく読めました。短編で、ここまで感情が揺さぶられたのは初めてです!いつか長編で作者様の思い描く世界を読みたく思います。出来れば直接手に取れる書籍が欲しいかぎりです。(作者様が書かれる作品は、正直お金を払って読みたいです。無料で読みたくないくらい素晴らしい作品です。)

2021.03.31 鳥類

感想ありがとうございます。
作品を作る側として何より嬉しいお言葉の数々、励まされるどころの騒ぎじゃないです!

解除
ともお
2018.03.21 ともお

とても面白い作品で、何度も読み直しています。ぜひとも番外編があれば嬉しいです(^o^)

2018.03.22 鳥類

お越しいただいた上、感想までありがとうございます!
嬉しすぎるお言葉に涙で前が霞みます…!
機会があれば王子視点を書いてみたいです!

解除

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