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どちらも和製英語でお届けしています
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「…うーーん…母さんは…そもそも引き取られるのが間違いだと思うわー」
「相変わらず夢も希望もない! 四面楚歌で虐げられてたヒロインがヒーローに華麗に助けられるとかマジサイコーじゃない?」
「夢と希望だけで…お父さんと結婚生活続いてないわ」
「やめて、現実的すぎる」
ぶつぶつ言いながら手に持った漫画を閉じるちょっと夢見がちな娘。でもこのくらいの年の子なら当然なのかしら?
彼女が読んでいたのはいわゆるシンデレラストーリー。
下町暮らしで母を亡くし孤児院にいた女の子が、貴族の男に引き取られるところからストーリーは始まる。この男はたまに母を訪ねて来ていた男で、一人になってしまった忘れ形見を迎えに来たのだ。
ところが男の家には妻がおり、女の子と一つしか違わぬ娘もいた。
義母と義姉は彼女を認めず、苛烈ないじめを受けながら女の子は成長していく。
唯一の味方になりそうな父親は、多忙のせいで気づかない。
そんな彼女に救いの手を伸べるのは義姉の婚約者。彼は虐げられつつも人を恨まず健気に頑張る女の子に心を移していく。
しかし、面白くないのは義姉だ。義妹が婚約者を誘惑したに違いないと決めつけた義姉は、ついに義妹を殺そうとする。
それに事前に気づいた婚約者が、これまでの所業をも白日の元に晒し、義母と義姉の二人を断罪、気づかなかった父は女の子に謝罪し、彼女は自身の婚約者となった彼と家を盛り立てていく…
無理ない? すんごい無理じゃん?
まぁ、話の構成とかはともかく、絵が綺麗だし、テンポも悪くないから読み物として楽しかったし。
アレだ、ファンタジーにいちゃもんつけたっていい事ないよって言うヤツだわ。
楽しく読めれば良いのよ。うん。
そう、読み物として、ならいいのよ。
現実だと…そりゃ…
あかんやろーーー
「今日からこの家の娘になる。グレースだ」
何がどうしてそうなったかさっぱりわからんが、気づいたら娘が読んでた漫画の主人公になってました(爆)
しかも引き取られちゃったよー。どうせならもうちょい早く意識戻って欲しかったー。そしたら孤児院に居たのにー。
ちょいとそこの浮気父。こう言うことは『伝えたらそれで終わり』やないんやで? ちょっとした伝言とは違うんやで?
よう見て見ぃな、奥さまもお嬢さまも目からビーム出そうなほど怒り狂っとるやないかい。気づけ。マジ気づけ。
「この子には令嬢としての教育を受けさせる。ダリアは引き続き女伯爵となれるよう努力するように」
あかんわ、コレ。マジクソやわ。この男、いっぺんどきつまわさにゃダメだわ。
「…発言を…お許し頂けますか、伯爵さま」
「ん? どうしたグレース? いつものようにお父さんと呼んでいいんだぞ?」
今それ言うとか死ぬ? お前いっぺん死ぬ?
「…いいえ。とんでも無いことでございます。まさかこのように身分の高い方とは思いもせず…。そして、奥さま、お嬢さま。お初にお目にかかります。知らぬこととはいえ、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。私はこのまま元の場所へ戻ります。金輪際ここへ足を踏み入れませんので、どうぞ、ご容赦頂ければと思います」
ゆっくり頭を下げる。隣で浮気男が慌てている。鬱陶しい。顔を上げて睨みつける。
「良いですか、伯爵さま。よくよくお考えください。私の存在は、ご自身が奥さまもお嬢さまも裏切った証ですよ。貴族男性が愛人囲うのはアリなのかもしれませんがね、それは双方納得した上で成り立つものです。勝手にコソコソ会って、尚且つ子ども…しかも正妻さんの子と一つ違いとかふざけんなって話です。それなのにいきなり連れてきて『はい、この子浮気相手との子どもだけど今日からうちの子でーす、よろしく☆』で、受け入れられる嫁がいるわけないでしょうが。そのぐらい察しろ。仕事できてんのか本当に」
捲し立てる私にタジタジの父。ザマミロ。
ポカンとした義母と義姉。後執事。執事マジ執事(意味不明)
用は済んだので帰ろう。あ、帰りも馬車出してもらいたいわぁ。徒歩は無理。場所がわからん。
「あの、執事さま。申し訳ありませんが、孤児院までは連れて行ってもらえませんか? 道がわからなくて…」
「…ちょっとお待ちなさい」
奥さまに呼ばれました。何ざんしょ?
「あなたは…リリアの娘ね?」
「……はい。母の名はリリアでした」
「…見た目そっくりなのにあのふわふわした女から生まれたとは思えない程しっかりしてるわね…」
サーセン、中身が違いますので。でも記憶の中のかーちゃんは確かにふわふわしてました。
しばしの間、見つめ合う。決してガンつけあってるわけじゃ無い、多分。
「…わかりました、旦那さま。この子を引き取りましょう」
「お母さま?!」
お嬢さまが焦る。ワカル。私も焦ってる。
「ただし! メイドとしてです。そのうちダリア付きの侍女になれるように教育します」
「…なっ、メイドだと?! 何をかんが」
「ありがとうございます奥さま!!」
父よ、キサマに否定はさせん! 手に職大事!
こうして私は結局ストーリー通りに引き取られる事になったが、いじめでそう扱われるのでは無く、メイドとしてここに就職したのだ。
ただ、後々考えたら、コレ、ダリアお嬢さまについて令嬢としてのノウハウ身につけろよ、と言う奥さまの優しさだったんだなぁ、としみじみした。マジあの父にはもったいないすごい人だよ。
「お茶が温いわ! いれ直して!」
「かしこまりましたお嬢さま」
「こんな問題もわからないの?! 本当にバカね!」
「申し訳ございません、お嬢さま」
「ちょっと! またステップ間違えたわよ! 物覚えが悪すぎ!」
「申し訳ございません、お嬢さま」
メイドとして就職してしばらく経ち、環境に慣れた頃からお嬢さまの周りに侍ることが多くなった。
それは教養の時間だったり、ダンスの時間だったり、お茶の時間だったり。
そのうち、歴史や算術といった座学は同じ卓につくようになったし、ダンスも同じ時間になった。
お嬢さまはひたすら私を罵ってくるが、どう考えてもただのツンである。可愛い。見つめ合うと素直におしゃべり出来ないタイプの良い子や。
領主教育など私が受ける必要のない授業の際、最近では奥さまがお茶に誘ってくださるようになった。すっかり茶飲み友達化している。旦那のグチとかバッチコイですよ☆
さてさて本日もお嬢さまのためにお茶を入れますよ。そろそろ勉強時間も終わりやろからね。糖分補給。
ノックしてお部屋に入ると…暗い雰囲気のお嬢さまが…。
「お嬢さま、今日はお嬢さまのお好きなナッツのクッキーですよ。さっきつまみ食いしたら美味しかったです」
「…行儀が悪いと言ってるでしょ」
返しにキレがない。重症のようだ。
「何かございましたか? 落ち込んでおられるようですが…」
教本が飛んできた。わぉデンジャラス☆避けるけど。
「あんたなんかにっ…あんたなんかに私の気持ちなんてわかるわけ無いのよっ…!!」
…泣き出してしまわれました。号泣です。ずいぶん溜まっておられたんですねぇ。出しちゃえ出しちゃえ。
大分涙が落ち着いてきた頃、ポツリポツリとお話してくださいました。
まぁよくあるアレですわ。伸び悩み。なんか上手くいかんヤツ。で、自分ダメな人間なんじゃないかとドン底感満載になるヤツ。負のスパイラル。
そんな時に「他所で受け持っている生徒はもっと優秀ですよ。ちょっと弛んでるのでは?」とか言われたらそりゃキレるわ。ワカル。
「…よろしいですか、お嬢さま。これから私の言う言葉を復唱してください」
「…は?」
「はい、では参りますよ」
『比較するなら過去の自分、未来を託すのは明日の自分』
「え…? 何…? は…?」
「良いですか? 細胞から何から異なってる他人さまと比較されたところで何がわかると言うんですか、違って当たり前だわふざけんなです」
「ふ…ふざけんな…?」
「そう。そして比べるなら過去の自分です。今日やった問題が3年前に解けましたか? 先生のお話が5年前に理解できましたか? それと比べてください。もうずっと前から努力して積み重ねてきたからこそ今があるのです。ただ、植物だって何だって、一気に成長する時期もあれば、ゆっくり伸びる時期もあるのです。ゆっくりの時は目に見えなくとも決して止まっている訳じゃない。ちゃんと進んでいます。だから、それがまた目に見える状態になるよう信じるなら、そんな時が来るよう託すなら、それは未来の自分へです。今日できないからと言って明日もできないとは限らない。積み重ねてきたモノは、繰り返してきたモノは、ある日突然実を結ぶ事もあるのですから」
困惑しつつも大人しく話を聞いてくれたお嬢さまにお茶とクッキーを渡して仲良く食べた。
次の日からツン期が終わってデレ期が来た。
それから数年が経ち、私はすっかりこの家に慣れた。令嬢としての振る舞いもそこそこ上手くなった…ハズ。多分恐らくえぇきっと!
でも未だにメイド仕事はしている。何だかんだでメイドさんたちとも仲良くなったから楽しいのだ。元主婦的に馴染み深いしね。
この数年間の間に父の調きょ…じゃなく教育も終わり、今では奥さまもお嬢さまもちゃんと気にかけるそこそこいい『お父さん』になっている。
そんなある日ーーー
「君か…。伯爵家に引き取られたにも関わらず、使用人として働かされて虐げられているご令嬢というのは…」
「あ゛ぁ?」
思わず素の声が出たわ。この程度でビクつくとは肝が小せぇな。何だこの非常識な兄ちゃんは? しかも無駄にキラキラしやがって。
「…失礼しました。ところでどなたさまでいらっしゃいますか? そしてわたくし、確かにこちらでご厄介になっておりますが、虐げられたりしておりません。メイド仕事は趣味です。で、そのものすっごくふざけた話はどこ情報ですか?」
そんなくだらん噂撒き散らかすヤツは見つけ次第潰すよ☆
「…えっ…だって…その…あの…」
キラキラした兄ちゃんがアワアワしとるがちゃんとゲロってからじゃないと逃がさんよ?
ジリジリと近寄る私。じわじわと下がる兄ちゃん。
何となくカバディの様相を呈してきたところへ呆れのこもった声がかかる。
「何をしているの、グレース。その方は私の婚約者よ」
「お嬢さま」
「ダ…ダリアぁぁ!」
あっ、逃げられた。ちくしょう。そしてお嬢さまを盾にすんなヘボ男め。
「もぅ。ダメでしょ、知らない人をいじめちゃ」
「だってお嬢さま。そこのヘボ…じゃなかった、婚約者さまがふざけたこと言うから…」
「仕方ないじゃない。もうちゃんと養子の手続き完了してるにも関わらず、あなたがいつまでも使用人仕事を辞めないのが原因でしょ」
むー…だって楽しいんだもん。
「そっ…それに…あ…あなたがいつまで経っても…私を…お…お嬢さまって呼ぶから…」
小声でゴニョゴニョと言われ、最後辺りはハッキリ聞こえなかったけど。
でもちゃんとわかった。
嬉しさが腹の底から込み上げる。
「…『お姉さま』が可愛すぎてしんどい…!!」
がっしりとしがみつく私に『はしたない!』と文句を言っているが、お顔は照れて真っ赤になっているし、口角が上がっているのが隠しきれていない。
少し離れたところから様子を見ていたらしい奥さまが参戦してきて『お母さま』と呼ばされた。嬉しい。
ちなみに父は仕事でいない。ふはは、仲間には入れてやらんぞ。
ね、シンデレラストーリーとは違う、家族のハートフルストーリーになっちゃったけど、母さんはこっちの方が好きだわ、と、もうずいぶんと薄くなってしまった娘に呼びかけた。
「相変わらず夢も希望もない! 四面楚歌で虐げられてたヒロインがヒーローに華麗に助けられるとかマジサイコーじゃない?」
「夢と希望だけで…お父さんと結婚生活続いてないわ」
「やめて、現実的すぎる」
ぶつぶつ言いながら手に持った漫画を閉じるちょっと夢見がちな娘。でもこのくらいの年の子なら当然なのかしら?
彼女が読んでいたのはいわゆるシンデレラストーリー。
下町暮らしで母を亡くし孤児院にいた女の子が、貴族の男に引き取られるところからストーリーは始まる。この男はたまに母を訪ねて来ていた男で、一人になってしまった忘れ形見を迎えに来たのだ。
ところが男の家には妻がおり、女の子と一つしか違わぬ娘もいた。
義母と義姉は彼女を認めず、苛烈ないじめを受けながら女の子は成長していく。
唯一の味方になりそうな父親は、多忙のせいで気づかない。
そんな彼女に救いの手を伸べるのは義姉の婚約者。彼は虐げられつつも人を恨まず健気に頑張る女の子に心を移していく。
しかし、面白くないのは義姉だ。義妹が婚約者を誘惑したに違いないと決めつけた義姉は、ついに義妹を殺そうとする。
それに事前に気づいた婚約者が、これまでの所業をも白日の元に晒し、義母と義姉の二人を断罪、気づかなかった父は女の子に謝罪し、彼女は自身の婚約者となった彼と家を盛り立てていく…
無理ない? すんごい無理じゃん?
まぁ、話の構成とかはともかく、絵が綺麗だし、テンポも悪くないから読み物として楽しかったし。
アレだ、ファンタジーにいちゃもんつけたっていい事ないよって言うヤツだわ。
楽しく読めれば良いのよ。うん。
そう、読み物として、ならいいのよ。
現実だと…そりゃ…
あかんやろーーー
「今日からこの家の娘になる。グレースだ」
何がどうしてそうなったかさっぱりわからんが、気づいたら娘が読んでた漫画の主人公になってました(爆)
しかも引き取られちゃったよー。どうせならもうちょい早く意識戻って欲しかったー。そしたら孤児院に居たのにー。
ちょいとそこの浮気父。こう言うことは『伝えたらそれで終わり』やないんやで? ちょっとした伝言とは違うんやで?
よう見て見ぃな、奥さまもお嬢さまも目からビーム出そうなほど怒り狂っとるやないかい。気づけ。マジ気づけ。
「この子には令嬢としての教育を受けさせる。ダリアは引き続き女伯爵となれるよう努力するように」
あかんわ、コレ。マジクソやわ。この男、いっぺんどきつまわさにゃダメだわ。
「…発言を…お許し頂けますか、伯爵さま」
「ん? どうしたグレース? いつものようにお父さんと呼んでいいんだぞ?」
今それ言うとか死ぬ? お前いっぺん死ぬ?
「…いいえ。とんでも無いことでございます。まさかこのように身分の高い方とは思いもせず…。そして、奥さま、お嬢さま。お初にお目にかかります。知らぬこととはいえ、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。私はこのまま元の場所へ戻ります。金輪際ここへ足を踏み入れませんので、どうぞ、ご容赦頂ければと思います」
ゆっくり頭を下げる。隣で浮気男が慌てている。鬱陶しい。顔を上げて睨みつける。
「良いですか、伯爵さま。よくよくお考えください。私の存在は、ご自身が奥さまもお嬢さまも裏切った証ですよ。貴族男性が愛人囲うのはアリなのかもしれませんがね、それは双方納得した上で成り立つものです。勝手にコソコソ会って、尚且つ子ども…しかも正妻さんの子と一つ違いとかふざけんなって話です。それなのにいきなり連れてきて『はい、この子浮気相手との子どもだけど今日からうちの子でーす、よろしく☆』で、受け入れられる嫁がいるわけないでしょうが。そのぐらい察しろ。仕事できてんのか本当に」
捲し立てる私にタジタジの父。ザマミロ。
ポカンとした義母と義姉。後執事。執事マジ執事(意味不明)
用は済んだので帰ろう。あ、帰りも馬車出してもらいたいわぁ。徒歩は無理。場所がわからん。
「あの、執事さま。申し訳ありませんが、孤児院までは連れて行ってもらえませんか? 道がわからなくて…」
「…ちょっとお待ちなさい」
奥さまに呼ばれました。何ざんしょ?
「あなたは…リリアの娘ね?」
「……はい。母の名はリリアでした」
「…見た目そっくりなのにあのふわふわした女から生まれたとは思えない程しっかりしてるわね…」
サーセン、中身が違いますので。でも記憶の中のかーちゃんは確かにふわふわしてました。
しばしの間、見つめ合う。決してガンつけあってるわけじゃ無い、多分。
「…わかりました、旦那さま。この子を引き取りましょう」
「お母さま?!」
お嬢さまが焦る。ワカル。私も焦ってる。
「ただし! メイドとしてです。そのうちダリア付きの侍女になれるように教育します」
「…なっ、メイドだと?! 何をかんが」
「ありがとうございます奥さま!!」
父よ、キサマに否定はさせん! 手に職大事!
こうして私は結局ストーリー通りに引き取られる事になったが、いじめでそう扱われるのでは無く、メイドとしてここに就職したのだ。
ただ、後々考えたら、コレ、ダリアお嬢さまについて令嬢としてのノウハウ身につけろよ、と言う奥さまの優しさだったんだなぁ、としみじみした。マジあの父にはもったいないすごい人だよ。
「お茶が温いわ! いれ直して!」
「かしこまりましたお嬢さま」
「こんな問題もわからないの?! 本当にバカね!」
「申し訳ございません、お嬢さま」
「ちょっと! またステップ間違えたわよ! 物覚えが悪すぎ!」
「申し訳ございません、お嬢さま」
メイドとして就職してしばらく経ち、環境に慣れた頃からお嬢さまの周りに侍ることが多くなった。
それは教養の時間だったり、ダンスの時間だったり、お茶の時間だったり。
そのうち、歴史や算術といった座学は同じ卓につくようになったし、ダンスも同じ時間になった。
お嬢さまはひたすら私を罵ってくるが、どう考えてもただのツンである。可愛い。見つめ合うと素直におしゃべり出来ないタイプの良い子や。
領主教育など私が受ける必要のない授業の際、最近では奥さまがお茶に誘ってくださるようになった。すっかり茶飲み友達化している。旦那のグチとかバッチコイですよ☆
さてさて本日もお嬢さまのためにお茶を入れますよ。そろそろ勉強時間も終わりやろからね。糖分補給。
ノックしてお部屋に入ると…暗い雰囲気のお嬢さまが…。
「お嬢さま、今日はお嬢さまのお好きなナッツのクッキーですよ。さっきつまみ食いしたら美味しかったです」
「…行儀が悪いと言ってるでしょ」
返しにキレがない。重症のようだ。
「何かございましたか? 落ち込んでおられるようですが…」
教本が飛んできた。わぉデンジャラス☆避けるけど。
「あんたなんかにっ…あんたなんかに私の気持ちなんてわかるわけ無いのよっ…!!」
…泣き出してしまわれました。号泣です。ずいぶん溜まっておられたんですねぇ。出しちゃえ出しちゃえ。
大分涙が落ち着いてきた頃、ポツリポツリとお話してくださいました。
まぁよくあるアレですわ。伸び悩み。なんか上手くいかんヤツ。で、自分ダメな人間なんじゃないかとドン底感満載になるヤツ。負のスパイラル。
そんな時に「他所で受け持っている生徒はもっと優秀ですよ。ちょっと弛んでるのでは?」とか言われたらそりゃキレるわ。ワカル。
「…よろしいですか、お嬢さま。これから私の言う言葉を復唱してください」
「…は?」
「はい、では参りますよ」
『比較するなら過去の自分、未来を託すのは明日の自分』
「え…? 何…? は…?」
「良いですか? 細胞から何から異なってる他人さまと比較されたところで何がわかると言うんですか、違って当たり前だわふざけんなです」
「ふ…ふざけんな…?」
「そう。そして比べるなら過去の自分です。今日やった問題が3年前に解けましたか? 先生のお話が5年前に理解できましたか? それと比べてください。もうずっと前から努力して積み重ねてきたからこそ今があるのです。ただ、植物だって何だって、一気に成長する時期もあれば、ゆっくり伸びる時期もあるのです。ゆっくりの時は目に見えなくとも決して止まっている訳じゃない。ちゃんと進んでいます。だから、それがまた目に見える状態になるよう信じるなら、そんな時が来るよう託すなら、それは未来の自分へです。今日できないからと言って明日もできないとは限らない。積み重ねてきたモノは、繰り返してきたモノは、ある日突然実を結ぶ事もあるのですから」
困惑しつつも大人しく話を聞いてくれたお嬢さまにお茶とクッキーを渡して仲良く食べた。
次の日からツン期が終わってデレ期が来た。
それから数年が経ち、私はすっかりこの家に慣れた。令嬢としての振る舞いもそこそこ上手くなった…ハズ。多分恐らくえぇきっと!
でも未だにメイド仕事はしている。何だかんだでメイドさんたちとも仲良くなったから楽しいのだ。元主婦的に馴染み深いしね。
この数年間の間に父の調きょ…じゃなく教育も終わり、今では奥さまもお嬢さまもちゃんと気にかけるそこそこいい『お父さん』になっている。
そんなある日ーーー
「君か…。伯爵家に引き取られたにも関わらず、使用人として働かされて虐げられているご令嬢というのは…」
「あ゛ぁ?」
思わず素の声が出たわ。この程度でビクつくとは肝が小せぇな。何だこの非常識な兄ちゃんは? しかも無駄にキラキラしやがって。
「…失礼しました。ところでどなたさまでいらっしゃいますか? そしてわたくし、確かにこちらでご厄介になっておりますが、虐げられたりしておりません。メイド仕事は趣味です。で、そのものすっごくふざけた話はどこ情報ですか?」
そんなくだらん噂撒き散らかすヤツは見つけ次第潰すよ☆
「…えっ…だって…その…あの…」
キラキラした兄ちゃんがアワアワしとるがちゃんとゲロってからじゃないと逃がさんよ?
ジリジリと近寄る私。じわじわと下がる兄ちゃん。
何となくカバディの様相を呈してきたところへ呆れのこもった声がかかる。
「何をしているの、グレース。その方は私の婚約者よ」
「お嬢さま」
「ダ…ダリアぁぁ!」
あっ、逃げられた。ちくしょう。そしてお嬢さまを盾にすんなヘボ男め。
「もぅ。ダメでしょ、知らない人をいじめちゃ」
「だってお嬢さま。そこのヘボ…じゃなかった、婚約者さまがふざけたこと言うから…」
「仕方ないじゃない。もうちゃんと養子の手続き完了してるにも関わらず、あなたがいつまでも使用人仕事を辞めないのが原因でしょ」
むー…だって楽しいんだもん。
「そっ…それに…あ…あなたがいつまで経っても…私を…お…お嬢さまって呼ぶから…」
小声でゴニョゴニョと言われ、最後辺りはハッキリ聞こえなかったけど。
でもちゃんとわかった。
嬉しさが腹の底から込み上げる。
「…『お姉さま』が可愛すぎてしんどい…!!」
がっしりとしがみつく私に『はしたない!』と文句を言っているが、お顔は照れて真っ赤になっているし、口角が上がっているのが隠しきれていない。
少し離れたところから様子を見ていたらしい奥さまが参戦してきて『お母さま』と呼ばされた。嬉しい。
ちなみに父は仕事でいない。ふはは、仲間には入れてやらんぞ。
ね、シンデレラストーリーとは違う、家族のハートフルストーリーになっちゃったけど、母さんはこっちの方が好きだわ、と、もうずいぶんと薄くなってしまった娘に呼びかけた。
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素敵なお話ありがとうございます。
感想ありがとうございます。
おぉ、メモの書き方も成長ですね(大笑)
ちなみに私の漫画用ネームはいつまで経っても成長せず、一年位前のものはセリフが読めなくて大抵お蔵入りします(大笑)字が汚すぎぃ…
娘でもメイド仲間でもドンとこいだわ、と言います、グレースなら(笑)
私もこっちの話の方が好きだなぁ😃
ザマァはザマァで好きだけどね🎵
感想ありがとうございます!
華麗なざまぁ話は私も好きです!
何か、シンデレラストーリーよりほのぼのしてる方が安心してしまうんですよね…