6 / 16
第6話ひとりぼっちだった私に、居場所ができた日
しおりを挟む
政宗の屋敷で過ごす日々にも、少しずつ慣れてきた。
朝目覚めると、柔らかな布団の感触と、窓から差し込む薄い光。
今までの八代家では感じられなかった温もりに包まれて、私は小さく伸びをした。
すると――。
「おはようございます、椿様。体調はいかがですか?」
振り返ると、政宗が障子越しに静かに微笑んでいた。
朝日を背にして立つその姿は、どう見ても絵巻物から抜け出した主人公だ。
「えっ……政宗、自分で来るの?」
「当然です。椿様の朝の顔を一番に見る権利は、私にあるでしょう?」
さらりと言うその声に、胸がまた熱くなる。
この人は、どうしてこんなに自然に恥ずかしいことを言うのだろう。
「そ、そんな……私なんて……」
「また私なんてと言いましたね。」
政宗はそっと近づき、私の頬に触れた。
指先が優しくて、抗う気持ちが溶けていく。
「椿様。貴女は、私が選んだ方です。その理由は――誰よりも価値のある心を持っているからですよ。」
そんなふうに言われたのは、生まれて初めてだった。
思わず目を伏せたまま、小さく呟く。
「……ありがとう……政宗。」
すると彼は、満足げに微笑んだ。
「では、朝餉にいたしましょう。椿様の好きそうなものを用意してあります。」
◆◆◆
朝食の席につくと、机いっぱいに料理が並んでいた。
品数の多さに驚いた私が固まっていると、政宗は隣に座りながら言った。
「全部召し上がらなくて大丈夫です。椿様が選ぶという行為を覚えていただきたいのです。」
「選ぶ……?」
「はい。八代家では、貴女に選ぶことを許されなかったでしょう?」
――胸がちくりと痛んだ。
確かに、私はずっと言われる側だった。
自分の意見を口にすれば叱られ、選ぼうとすると「出来損ないが」と嘲られた。
「ここでは違います。椿様の好きと嫌いは、全て尊重されます。」
政宗の穏やかな言葉に、食卓の景色がぼやけた。
涙がこぼれそうで、必死に瞬きをする。
「……ありがとう。本当に……」
「礼を言われるためにしたことではありませんよ。」
政宗は私の手を取って、軽く指先に口づけた。
その瞬間、体がびくりと震えた。
「っ……!」
「椿様、愛おしい反応をしないでください。理性が保てなくなります。」
「な、なに言って……!」
顔が熱くなり、早く食事へ視線を戻す。
政宗は楽しそうに笑っていた。
◆◆◆
朝餉を終え、屋敷の廊下を歩きながら、ふと聞いたことのない音に足が止まった。
――カン、コォン……
どこか遠くから、澄んだ鈴のような響きが流れてくる。
「政宗……この音、なに?」
尋ねると、政宗の表情が少しだけ変わった。
「椿様には、聞こえてしまうのですね。」
「え……?」
「普通の人間には聞こえません。あれは――妖たちが、椿様の存在に反応して鳴らす呼び鈴のようなものです。」
胸がどくん、と大きく脈打った。
「わ、私に……?」
「椿様の中には、あやかしに好かれる“気”があります。昔、私を救ったあの日から――ずっと。」
思わず息を呑んだ。
私はずっと出来損ないだと思っていた。
何も持っていないと、言われ続けてきた。
でも。
「椿様のその心は、誰も真似できません。それを感じた妖たちが……こうして貴女を呼ぶのです。」
政宗の声を聞くだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……そんなの、初めて聞いた……」
「これから、ゆっくり知っていけば良いのです。貴女には私がついていますから。」
政宗は微笑んで、私の頭を優しく撫でた。
その手つきは、まるで宝物を扱うように丁寧で――思わず目を閉じてしまう。
◆◆◆
その日の夜。
私は政宗に寄り添いながら月を眺めていた。
「ここに居てもいいのかな……って、まだ思っちゃうんだよね。」
ぽつりと呟くと、政宗はすぐに私の肩を抱き寄せた。
「むしろ、貴女のいない私の屋敷など、もう想像できません。」
「そんな大げさな……」
「大げさではありませんよ。椿様を迎えた時から、私の世界は変わったのですから。」
その言葉に、心が温かく満ちていく。
私は――もうひとりじゃない。
この人が、そばにいる。
◆◆◆
その夜。
政宗がそっと私の額に口づけた瞬間、遠くでまた鈴の音が響いた。
――カラン……コォン。
まるで、この出会いを祝福するかのように。
そして私は確信する。
ここが、私の居場所なんだ。
今までは、『出来損ない』と呼ばれていた私に――
初めて、未来を想像してみたいと思える夜だった。
朝目覚めると、柔らかな布団の感触と、窓から差し込む薄い光。
今までの八代家では感じられなかった温もりに包まれて、私は小さく伸びをした。
すると――。
「おはようございます、椿様。体調はいかがですか?」
振り返ると、政宗が障子越しに静かに微笑んでいた。
朝日を背にして立つその姿は、どう見ても絵巻物から抜け出した主人公だ。
「えっ……政宗、自分で来るの?」
「当然です。椿様の朝の顔を一番に見る権利は、私にあるでしょう?」
さらりと言うその声に、胸がまた熱くなる。
この人は、どうしてこんなに自然に恥ずかしいことを言うのだろう。
「そ、そんな……私なんて……」
「また私なんてと言いましたね。」
政宗はそっと近づき、私の頬に触れた。
指先が優しくて、抗う気持ちが溶けていく。
「椿様。貴女は、私が選んだ方です。その理由は――誰よりも価値のある心を持っているからですよ。」
そんなふうに言われたのは、生まれて初めてだった。
思わず目を伏せたまま、小さく呟く。
「……ありがとう……政宗。」
すると彼は、満足げに微笑んだ。
「では、朝餉にいたしましょう。椿様の好きそうなものを用意してあります。」
◆◆◆
朝食の席につくと、机いっぱいに料理が並んでいた。
品数の多さに驚いた私が固まっていると、政宗は隣に座りながら言った。
「全部召し上がらなくて大丈夫です。椿様が選ぶという行為を覚えていただきたいのです。」
「選ぶ……?」
「はい。八代家では、貴女に選ぶことを許されなかったでしょう?」
――胸がちくりと痛んだ。
確かに、私はずっと言われる側だった。
自分の意見を口にすれば叱られ、選ぼうとすると「出来損ないが」と嘲られた。
「ここでは違います。椿様の好きと嫌いは、全て尊重されます。」
政宗の穏やかな言葉に、食卓の景色がぼやけた。
涙がこぼれそうで、必死に瞬きをする。
「……ありがとう。本当に……」
「礼を言われるためにしたことではありませんよ。」
政宗は私の手を取って、軽く指先に口づけた。
その瞬間、体がびくりと震えた。
「っ……!」
「椿様、愛おしい反応をしないでください。理性が保てなくなります。」
「な、なに言って……!」
顔が熱くなり、早く食事へ視線を戻す。
政宗は楽しそうに笑っていた。
◆◆◆
朝餉を終え、屋敷の廊下を歩きながら、ふと聞いたことのない音に足が止まった。
――カン、コォン……
どこか遠くから、澄んだ鈴のような響きが流れてくる。
「政宗……この音、なに?」
尋ねると、政宗の表情が少しだけ変わった。
「椿様には、聞こえてしまうのですね。」
「え……?」
「普通の人間には聞こえません。あれは――妖たちが、椿様の存在に反応して鳴らす呼び鈴のようなものです。」
胸がどくん、と大きく脈打った。
「わ、私に……?」
「椿様の中には、あやかしに好かれる“気”があります。昔、私を救ったあの日から――ずっと。」
思わず息を呑んだ。
私はずっと出来損ないだと思っていた。
何も持っていないと、言われ続けてきた。
でも。
「椿様のその心は、誰も真似できません。それを感じた妖たちが……こうして貴女を呼ぶのです。」
政宗の声を聞くだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……そんなの、初めて聞いた……」
「これから、ゆっくり知っていけば良いのです。貴女には私がついていますから。」
政宗は微笑んで、私の頭を優しく撫でた。
その手つきは、まるで宝物を扱うように丁寧で――思わず目を閉じてしまう。
◆◆◆
その日の夜。
私は政宗に寄り添いながら月を眺めていた。
「ここに居てもいいのかな……って、まだ思っちゃうんだよね。」
ぽつりと呟くと、政宗はすぐに私の肩を抱き寄せた。
「むしろ、貴女のいない私の屋敷など、もう想像できません。」
「そんな大げさな……」
「大げさではありませんよ。椿様を迎えた時から、私の世界は変わったのですから。」
その言葉に、心が温かく満ちていく。
私は――もうひとりじゃない。
この人が、そばにいる。
◆◆◆
その夜。
政宗がそっと私の額に口づけた瞬間、遠くでまた鈴の音が響いた。
――カラン……コォン。
まるで、この出会いを祝福するかのように。
そして私は確信する。
ここが、私の居場所なんだ。
今までは、『出来損ない』と呼ばれていた私に――
初めて、未来を想像してみたいと思える夜だった。
1
あなたにおすすめの小説
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
婚約破棄したくせに「僕につきまとうな!」とほざきながらストーカーするのやめて?
百谷シカ
恋愛
「うぅーん……なんか……うん、……君、違うんだよね」
「はっ!?」
意味不明な理由で婚約破棄をぶちかましたディディエ伯爵令息アンリ・ヴァイヤン。
そんな奴はこっちから願い下げよ。
だって、結婚したって意味不明な言掛りが頻発するんでしょ?
「付き合うだけ時間の無駄よ」
黒歴史と割り切って、私は社交界に返り咲いた。
「君に惚れた。フランシーヌ、俺の妻になってくれ」
「はい。喜んで」
すぐに新たな婚約が決まった。
フェドー伯爵令息ロイク・オドラン。
そして、私たちはサヴィニャック伯爵家の晩餐会に参加した。
するとそこには……
「おい、君! 僕につきまとうの、やめてくれないかッ!?」
「えっ!?」
元婚約者もいた。
「僕に会うために来たんだろう? そういうの迷惑だ。帰ってくれ」
「いや……」
「もう君とは終わったんだ! 僕を解放してくれ!!」
「……」
えっと、黒歴史として封印するくらい、忌み嫌ってますけど?
そういう勘違い、やめてくれます?
==========================
(他「エブリスタ」様に投稿)
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる