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第7話揺れ始める外の世界
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政宗の屋敷での生活が始まってから、数日が経った。
朝起きて、政宗の「おはようございます」を聞き、
食卓では「椿様の好きなものを教えてくださいね」と微笑まれ、
夜は一緒に月を眺めながら、静かで優しい時間を過ごす。
まるで夢の中みたいな日々だった。
――でも、その平穏が揺れ始めたのは、四日目の昼過ぎのことだった。
◆◆◆
その日、私は屋敷の庭で、政宗に簡単な妖力の感じ方を教わっていた。
「目を閉じて……風の流れを見てみてください」
「風の……流れ?」
「はい。感じるだけでいいのです。」
政宗に言われるまま、ゆっくりと目を閉じた。
すると――
庭の空気がすうっと揺れ、草木の間を流れる気のようなものが、薄く光を帯びて見えた気がした。
「あ……」
「見えたのですね。椿様は、やはり素質があります。」
政宗が嬉しそうに微笑む。
胸がくすぐったくなるほど嬉しくて、私は頬を赤らめてしまう。
「でき損ないだと思ってたのに……不思議」
「でき損ない?」
政宗が、少しだけ表情を曇らせた。
「椿様。それは間違っています。貴女が劣っているのではなく、周りが貴女の価値を知らなかっただけです。」
そう優しく言ってくれる声に、胸がぎゅっとなる。
……だけど。
その時――。
「政宗様、報告がございます」
屋敷の番狐が、庭にすっと姿を現した。
政宗は普段と違う気配を感じたのか、表情を引き締める。
「どうした?」
「……八代家の者が、町で騒いでおります。椿様の行方を懸賞金付きで探している、と。」
「えっ……?」
懸賞金。
その言葉の意味が、胸に重くのしかかる。
「八代家は、椿様を家の恥として扱っていたはず。それが急に……?」
政宗は視線を横にそらし、深く息を吐いた。
「……やはり動きましたか。」
「政宗?」
「椿様。あの日、会場に現れた私を見た者たちの中に、八代家の関係者がいたのでしょう。
九尾が頭を下げた少女がいる――その噂が、もう広まっている可能性があります」
背筋がひやりとする。
九尾……つまり、政宗。
彼が私に一礼した姿は、確かに目立っていた。
「まさか……そのせいで、私を?」
「――利用しようとしているのでしょう。」
政宗の声は、普段より低かった。
「家の名誉回復のために、九尾に気に入られた娘として売り込むつもりかもしれません。」
ぞくりと背中が震えた。
あの家なら、確かにやりかねない。
「……もう帰りたくない」
気づいたら、小さく呟いていた。
政宗はすぐに私の肩を抱き寄せる。
その腕はとても温かくて、でも少し震えているようにも感じた。
「椿様。貴女をあの家に戻すつもりは、一切ありません。」
「政宗……?」
「たとえ八代家がどれほど手を伸ばそうと、私は――貴女を誰にも渡しません。」
喉がきゅっと締めつけられる。
政宗の声は静かなのに、どこか必死で。
私が拒絶される未来を、心の底から恐れているようにも聞こえた。
「……ありがとう。でも、迷惑じゃない……?」
「迷惑?」
政宗は目を細めて、私の額にそっと触れた。
「椿様。私の伴侶としてそばにいてくださることが、迷惑になるはずがありません。」
その言葉に胸がいっぱいになる。
幼い頃、森で暴走していた政宗を救った、あの夜。
私は恐怖で震えながらも、手を差し伸べた。
今度は――彼が私を守ろうとしてくれている。
「椿様。怯えなくていいのです。八代家の動向は、私がすべて止めます。」
「……うん。」
政宗に寄り添うと、胸の中で大きな不安がゆっくり溶けていった。
◆◆◆
その夜、寝る前。
政宗がふと、私の髪に触れながら言った。
「椿様。もし八代家が無礼を働くようなら――私は、容赦しません。」
「そこまでしなくても……」
「いいえ。あの家は、貴女を傷つけた。
私の大切な人を傷つけた者を、許すつもりはありません。」
瞳の奥に燃えるような光。
それは、九尾としての本能にも見えた。
でも不思議と怖くなかった。
むしろ――
こんなふうに誰かが私を守ろうとしてくれることが、ただ嬉しくて。
「政宗……ありがとう」
「椿様のためなら、私は何でもいたします。」
そう囁かれた瞬間、屋敷の外で鈴の音が鳴った。
――カラン……
まるで、この恋が確実に形になっていくのを告げるように。
◆◆◆
その翌日。
八代家が、本格的に椿の奪還に動き出すことになるとは――
まだ、私は知らなかった。
朝起きて、政宗の「おはようございます」を聞き、
食卓では「椿様の好きなものを教えてくださいね」と微笑まれ、
夜は一緒に月を眺めながら、静かで優しい時間を過ごす。
まるで夢の中みたいな日々だった。
――でも、その平穏が揺れ始めたのは、四日目の昼過ぎのことだった。
◆◆◆
その日、私は屋敷の庭で、政宗に簡単な妖力の感じ方を教わっていた。
「目を閉じて……風の流れを見てみてください」
「風の……流れ?」
「はい。感じるだけでいいのです。」
政宗に言われるまま、ゆっくりと目を閉じた。
すると――
庭の空気がすうっと揺れ、草木の間を流れる気のようなものが、薄く光を帯びて見えた気がした。
「あ……」
「見えたのですね。椿様は、やはり素質があります。」
政宗が嬉しそうに微笑む。
胸がくすぐったくなるほど嬉しくて、私は頬を赤らめてしまう。
「でき損ないだと思ってたのに……不思議」
「でき損ない?」
政宗が、少しだけ表情を曇らせた。
「椿様。それは間違っています。貴女が劣っているのではなく、周りが貴女の価値を知らなかっただけです。」
そう優しく言ってくれる声に、胸がぎゅっとなる。
……だけど。
その時――。
「政宗様、報告がございます」
屋敷の番狐が、庭にすっと姿を現した。
政宗は普段と違う気配を感じたのか、表情を引き締める。
「どうした?」
「……八代家の者が、町で騒いでおります。椿様の行方を懸賞金付きで探している、と。」
「えっ……?」
懸賞金。
その言葉の意味が、胸に重くのしかかる。
「八代家は、椿様を家の恥として扱っていたはず。それが急に……?」
政宗は視線を横にそらし、深く息を吐いた。
「……やはり動きましたか。」
「政宗?」
「椿様。あの日、会場に現れた私を見た者たちの中に、八代家の関係者がいたのでしょう。
九尾が頭を下げた少女がいる――その噂が、もう広まっている可能性があります」
背筋がひやりとする。
九尾……つまり、政宗。
彼が私に一礼した姿は、確かに目立っていた。
「まさか……そのせいで、私を?」
「――利用しようとしているのでしょう。」
政宗の声は、普段より低かった。
「家の名誉回復のために、九尾に気に入られた娘として売り込むつもりかもしれません。」
ぞくりと背中が震えた。
あの家なら、確かにやりかねない。
「……もう帰りたくない」
気づいたら、小さく呟いていた。
政宗はすぐに私の肩を抱き寄せる。
その腕はとても温かくて、でも少し震えているようにも感じた。
「椿様。貴女をあの家に戻すつもりは、一切ありません。」
「政宗……?」
「たとえ八代家がどれほど手を伸ばそうと、私は――貴女を誰にも渡しません。」
喉がきゅっと締めつけられる。
政宗の声は静かなのに、どこか必死で。
私が拒絶される未来を、心の底から恐れているようにも聞こえた。
「……ありがとう。でも、迷惑じゃない……?」
「迷惑?」
政宗は目を細めて、私の額にそっと触れた。
「椿様。私の伴侶としてそばにいてくださることが、迷惑になるはずがありません。」
その言葉に胸がいっぱいになる。
幼い頃、森で暴走していた政宗を救った、あの夜。
私は恐怖で震えながらも、手を差し伸べた。
今度は――彼が私を守ろうとしてくれている。
「椿様。怯えなくていいのです。八代家の動向は、私がすべて止めます。」
「……うん。」
政宗に寄り添うと、胸の中で大きな不安がゆっくり溶けていった。
◆◆◆
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政宗がふと、私の髪に触れながら言った。
「椿様。もし八代家が無礼を働くようなら――私は、容赦しません。」
「そこまでしなくても……」
「いいえ。あの家は、貴女を傷つけた。
私の大切な人を傷つけた者を、許すつもりはありません。」
瞳の奥に燃えるような光。
それは、九尾としての本能にも見えた。
でも不思議と怖くなかった。
むしろ――
こんなふうに誰かが私を守ろうとしてくれることが、ただ嬉しくて。
「政宗……ありがとう」
「椿様のためなら、私は何でもいたします。」
そう囁かれた瞬間、屋敷の外で鈴の音が鳴った。
――カラン……
まるで、この恋が確実に形になっていくのを告げるように。
◆◆◆
その翌日。
八代家が、本格的に椿の奪還に動き出すことになるとは――
まだ、私は知らなかった。
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