2 / 5
第2話 勝負をもちかけられて
しおりを挟む
王国は、以前より国境付近の森や洞窟から湧き出す魔物に、頭を悩ませていた。
聖女を示す痣が私に現れたのは、その危機的な状況が原因だと考えられている。
私の、聖女の祈りの力で国を防衛する結界を張ることができるようになる。
結界により防衛に力を注ぐ必要がなくなると、王国側は攻勢に転じる。
全力を挙げて、魔物が湧き出る洞窟や、魔物が潜む森の清浄化を進めていくことになった。
清浄化が達成されたとき、私は王城から追い出されるかもしれない。
あるいは、王族のことを知りすぎたからと命を奪われるかもしれない。
平民出であり、不要となった私をここに置いておく理由がないと思う。
いずれ私を追い出し、あの公爵令嬢を正式に王妃として迎える可能性が頭を過る。
その公爵令嬢ジェーン様がある日、私に会いに来た。
一対一で、話をしたいということだ。
彼女との会話は、思いのほか楽しいものだった。
公爵令嬢といえば、やたら平民を見下しその一切を認めないものだと思っていた。
しかし令嬢ジェーン様は、趣味の話や私の家族の話などを時には真剣に、時には笑顔で頷きながら聞いて下さった。
令嬢ジェーン様には白き令嬢と別名があるくらいに、外見も美しく内面も非の打ち所がない。
身分も完璧であり、まさに殿下に相応しい。
私でさえ憧れてしまうほどだ。
殿下の奪い合いで白き令嬢に勝てるはずがない。
私は、身の程を知るが良いとでも言われたような気になった。
様々な話をした後、彼女はこう言った。
「あなたが、アレックス殿下を大好きなのは分かったわ。私も好きよ。あなたの役目が終わる日を楽しみに待っているといいわ」
そう言って、彼女はニヤリと口元を曲げる。
殿下を奪うつもりだから覚悟しておけ、という意味なのだろう。
宣戦布告ということだろう。
それ以降も、令嬢ジェーン様は私に嫌がらせのようなことをすることはなかった。
彼女はとことん、正々堂々と勝負しようと考えているのだろう。
益々勝てるはずがない。
でも、同時にとても幸福な事だと思う。
彼女が素敵な令嬢なら、殿下を奪われても仕方ないと思えるし、きっと二人は幸せになれるだろう。
私は、いずれ故郷からか……空の上から彼らを見守るのだ。
アレックス殿下は私の手を引き、何事も優先してくださった。
それは、私を愛しているというわけではない。
単純に王子として注目されることを気にしているだけなのだろう。
毎日の祈りに欠かさず付き添ってくださった。
それは、聖女の勤めを確実に果たさせるための監視なのだろう。
「何か欲しいものはないか?」
時々そのように気遣ってくれるのも私へのご機嫌取りだ。
あるいは、いずれお役御免となる私への、手切れの品だというつもりなのかも知れない。
「今の生活で十分満足しています。ここにいられるのであれば、あなたがいれば、それだけで」
私はそう答えた。
私が不要となった時に、同時に処分するものは少ない方がいい。
何か貰っても、もったいないから。
殿下は、期待していた言葉を得られなかったためか、
「ソフィア……じゃあ……」
と言って、私をぎゅっと抱き締めた。
彼の温もりを感じて、私はこれ以上にない幸福感に包まれる。
これを手切れの品とする、という意味なのだろう。
形はなくても私には何よりもかけがえのないものだ。
それで十分だった。
令嬢ジェーン様は、時々城を訪れ、私と時には政治や外交の書類の仕事を手伝うように言ってきた。
私は彼女の様子をのぞき見て、仕事の内容を覚えていく。
しかし、そのたびに感じるのだ。
「これくらいの知識もないのに、妃になれると思っているの?」
そう感じるほどに、彼女の知識量は圧倒的だった。
政治、経済、外交の幅広い知識に加え、貴族としての身だしなみや振る舞い、さらに趣味は薬草集めが高じた薬学など、とんでもない人だった。
仕事を頼まれるのは嫌ではない。
むしろ、仕事に没頭できる分、助かる気がしていた。
アレックス殿下が忙しく、なかなか会えないことの寂しさが癒されるから。
「……聖女のソフィアさんは仕事もできるのね。他のことでも勝負しましょう」
そう言われたときは、褒められたみたいで嬉しかった。
他のこととは、殿下との関係のことなのだろうけど。
もっとも、仕事ができるのは聖女の力によるところが大きい。
聖女というだけで、瞬間記憶能力など、身体の機能が向上しているためだ。
聖女というズルをしてやっと白き令嬢ジェーン様と張りあえる。
私とは、所詮そういう存在であり、彼女はとてつもなく優秀なのだ。
令嬢ジェーン様がアレックス殿下とよく会っていることを私は知っている。
勝てないことを私は知っている。
聖女を示す痣が私に現れたのは、その危機的な状況が原因だと考えられている。
私の、聖女の祈りの力で国を防衛する結界を張ることができるようになる。
結界により防衛に力を注ぐ必要がなくなると、王国側は攻勢に転じる。
全力を挙げて、魔物が湧き出る洞窟や、魔物が潜む森の清浄化を進めていくことになった。
清浄化が達成されたとき、私は王城から追い出されるかもしれない。
あるいは、王族のことを知りすぎたからと命を奪われるかもしれない。
平民出であり、不要となった私をここに置いておく理由がないと思う。
いずれ私を追い出し、あの公爵令嬢を正式に王妃として迎える可能性が頭を過る。
その公爵令嬢ジェーン様がある日、私に会いに来た。
一対一で、話をしたいということだ。
彼女との会話は、思いのほか楽しいものだった。
公爵令嬢といえば、やたら平民を見下しその一切を認めないものだと思っていた。
しかし令嬢ジェーン様は、趣味の話や私の家族の話などを時には真剣に、時には笑顔で頷きながら聞いて下さった。
令嬢ジェーン様には白き令嬢と別名があるくらいに、外見も美しく内面も非の打ち所がない。
身分も完璧であり、まさに殿下に相応しい。
私でさえ憧れてしまうほどだ。
殿下の奪い合いで白き令嬢に勝てるはずがない。
私は、身の程を知るが良いとでも言われたような気になった。
様々な話をした後、彼女はこう言った。
「あなたが、アレックス殿下を大好きなのは分かったわ。私も好きよ。あなたの役目が終わる日を楽しみに待っているといいわ」
そう言って、彼女はニヤリと口元を曲げる。
殿下を奪うつもりだから覚悟しておけ、という意味なのだろう。
宣戦布告ということだろう。
それ以降も、令嬢ジェーン様は私に嫌がらせのようなことをすることはなかった。
彼女はとことん、正々堂々と勝負しようと考えているのだろう。
益々勝てるはずがない。
でも、同時にとても幸福な事だと思う。
彼女が素敵な令嬢なら、殿下を奪われても仕方ないと思えるし、きっと二人は幸せになれるだろう。
私は、いずれ故郷からか……空の上から彼らを見守るのだ。
アレックス殿下は私の手を引き、何事も優先してくださった。
それは、私を愛しているというわけではない。
単純に王子として注目されることを気にしているだけなのだろう。
毎日の祈りに欠かさず付き添ってくださった。
それは、聖女の勤めを確実に果たさせるための監視なのだろう。
「何か欲しいものはないか?」
時々そのように気遣ってくれるのも私へのご機嫌取りだ。
あるいは、いずれお役御免となる私への、手切れの品だというつもりなのかも知れない。
「今の生活で十分満足しています。ここにいられるのであれば、あなたがいれば、それだけで」
私はそう答えた。
私が不要となった時に、同時に処分するものは少ない方がいい。
何か貰っても、もったいないから。
殿下は、期待していた言葉を得られなかったためか、
「ソフィア……じゃあ……」
と言って、私をぎゅっと抱き締めた。
彼の温もりを感じて、私はこれ以上にない幸福感に包まれる。
これを手切れの品とする、という意味なのだろう。
形はなくても私には何よりもかけがえのないものだ。
それで十分だった。
令嬢ジェーン様は、時々城を訪れ、私と時には政治や外交の書類の仕事を手伝うように言ってきた。
私は彼女の様子をのぞき見て、仕事の内容を覚えていく。
しかし、そのたびに感じるのだ。
「これくらいの知識もないのに、妃になれると思っているの?」
そう感じるほどに、彼女の知識量は圧倒的だった。
政治、経済、外交の幅広い知識に加え、貴族としての身だしなみや振る舞い、さらに趣味は薬草集めが高じた薬学など、とんでもない人だった。
仕事を頼まれるのは嫌ではない。
むしろ、仕事に没頭できる分、助かる気がしていた。
アレックス殿下が忙しく、なかなか会えないことの寂しさが癒されるから。
「……聖女のソフィアさんは仕事もできるのね。他のことでも勝負しましょう」
そう言われたときは、褒められたみたいで嬉しかった。
他のこととは、殿下との関係のことなのだろうけど。
もっとも、仕事ができるのは聖女の力によるところが大きい。
聖女というだけで、瞬間記憶能力など、身体の機能が向上しているためだ。
聖女というズルをしてやっと白き令嬢ジェーン様と張りあえる。
私とは、所詮そういう存在であり、彼女はとてつもなく優秀なのだ。
令嬢ジェーン様がアレックス殿下とよく会っていることを私は知っている。
勝てないことを私は知っている。
14
あなたにおすすめの小説
その婚約破棄喜んで
空月 若葉
恋愛
婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。
そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。
注意…主人公がちょっと怖いかも(笑)
4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。
完結後、番外編を付け足しました。
カクヨムにも掲載しています。
あの夏の日、私は確かに恋をした
田尾風香
恋愛
夏の祭礼の終盤、私は婚約者である王子のエーリスに婚約破棄を言い渡されて、私が"精霊の愛し子"であることも「嘘だ」と断じられた。
何も言えないまま、私は国に送り返されることになり、馬車に乗ろうとした時だった。
「見つけた、カリサ」
どこかで見たことがあるような気がする男性に、私は攫われたのだった。
***全四話。毎日投稿予定。四話だけ視点が変わります。一話当たりの文字数は多めです。一話完結の予定が、思ったより長くなってしまったため、分けています。設定は深く考えていませんので、サラッとお読み頂けると嬉しいです。
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
第一王女アンナは恋人に捨てられて
岡暁舟
恋愛
第一王女アンナは自分を救ってくれたロビンソンに恋をしたが、ロビンソンの幼馴染であるメリーにロビンソンを奪われてしまった。アンナのその後を描いてみます。「愛しているのは王女でなくて幼馴染」のサイドストーリーです。
【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜
彩華(あやはな)
恋愛
一つの密約を交わし聖女になったわたし。
わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。
王太子はわたしの大事な人をー。
わたしは、大事な人の側にいきます。
そして、この国不幸になる事を祈ります。
*わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。
*ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。
ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる