13 / 105
結婚相手すら自由に決められないなんて
二つの式 1
しおりを挟む
(あぁ。もう、抜け出したい!)
ベルンハルトと共に向かった広間で、繰り広げられる見せものは、想像以上の攻撃力でリーゼロッテの心を破壊していく。
バルタザールとの日々で、自分の心は強くなっているはずだった。どんな言葉でも、くだらないと笑いとばせる自信があった。それなのに、そんな自信はあっという間に砕け散る。
広間に入ると同時に、貴族たちから向けられる視線。軽蔑と奇異の感情の入り混じった不快な視線。
それを一気に向けられた。
それは果たしてリーゼロッテに向けられているのか、隣に立つベルンハルトに向けられているのか、それすらもわからない距離で、ただただ拒否することもできない視線に晒される。
視線だけであれば、下を向いて見ないようにしてしまえばそれで済んだ。
それ以上に耐えられなかったのはふさぐことのできない耳から入ってくる声。
魔法が使えないことを嘲笑されるのは仕方ないと思っていた。今更、リーゼロッテの力ではどうにもならない問題。
きっと、ベルンハルトのあざだって、同じようなものだろう。それなのに。
『あの仮面の下に、醜いあざが広がっているらしいわ』
『ロイエンタール家の者に出てくる龍の鱗のあざでしょう?』
『何百年も前に、龍と契ったと聞いたわ。ロイエンタール家の者はその末裔だそうよ』
『龍の血が混じっているから龍を率いることができるのよ。あのおぞましい獣の血だなんて』
『いくら魔力がないとは言っても、国王陛下もそのようなところに娘を嫁がせる必要もないでしょうに』
『魔力がないからなのよ』
『ロイエンタール家は魔力が強すぎて、いつ敵対勢力となるかわからないんですって』
『次に生まれる子どもの魔力が少なくなる様にってこと?』
『この国の貴族たちは国王が認めないと結婚も離婚もできないもの。あの二人はもう添い遂げるしかないのよ』
『まぁ、お可哀想に』
嘘か本当かもわからぬ内容を、さも真実の様に語る声は、用意された席についているリーゼロッテの耳を汚す。隣に座っているベルンハルトにも当然聞こえているだろう。
リーゼロッテが誰にもばれぬように、そっと隣を盗み見れば、ベルンハルトは広間に入る前に見せていた顔を崩すことなく、平然とした顔で座っている。
その顔からは何の感情も、うかがい知ることはできない。すぐ近くにいるはずのベルンハルトの気持ちもわからない。
リーゼロッテはこの広間でたった一人、底のない孤独を感じていた。
「リーゼロッテ王女」
体中を覆いつくしてしまうような孤独と一人戦っていたリーゼロッテに声をかけてきたのは、ベルンハルトだった。
「はい。何でしょうか」
「ここから、退席されますか?」
ベルンハルトの言葉に、体が小さく反応するのがわかった。退席など、許されるはずもないと思っていたからこそ、その言葉に心が弾んでしまう。
「できるのですか?」
「えぇ。私さえ残れば、国王には叱られないように対処しておけますから」
「それでは……」
退席するのはリーゼロッテだけということだ。
この不快な席に、一人で残るベルンハルトのことを思う。
(私一人で……逃げるの?)
答えに詰まったローゼロッテがベルンハルトを見つめていると、その口元が小さく微笑みを作り出した。あの夜、温室で向けられた口元。全てを任せておけばいいと、そう思ってしまいそうになる。
「いえ。わたくしも残ります」
『おあいこ』だと言った時の本当の笑顔。リーゼロッテが嫌な思いをしたら……と謝ってくれた人。
そんなベルンハルトをこんな場に一人で残しておけないと、楽な道への選択を自ら手放す。
「大丈夫、ですか?」
「はい」
大きく深呼吸をし、肺一杯に空気を取り込んで、リーゼロッテはお腹に力を入れた。夜会も既に中盤をすぎたはず。奥歯に力を入れて、唇をかみしめた。
「リーゼロッテ王女はダンスは得意ですか?」
「え? え、えぇ。苦手ではありませんわ」
魔法を使えないこと以外で見下されぬように、リーゼロッテはその他の嗜みには人一倍力を入れて学んでいる。社交のデビューが遅くなったこともあって、その腕前は誰の前に出ても、文句を言われることがないくらいだ。
「ちょうど曲が変わります。私と、お相手願えますか?」
ベルンハルトがリーゼロッテの目の前に掌を差し出す。
広間の中央では何人かの貴族たちがダンスを披露していた。その場に出ていくというのか。ただでさえ変な目を向けられているというのに、わざわざ注目されに行くと。
「ふふっ。喜んで」
リーゼロッテはベルンハルトの手を取った。更なる注目を浴びに行こう。これ以上見下されることもないだろう。それならば、何だってやってしまえばいいじゃない。
二人は作り上げた笑顔を張り付けて、中央へと出て行った。
ベルンハルトと共に向かった広間で、繰り広げられる見せものは、想像以上の攻撃力でリーゼロッテの心を破壊していく。
バルタザールとの日々で、自分の心は強くなっているはずだった。どんな言葉でも、くだらないと笑いとばせる自信があった。それなのに、そんな自信はあっという間に砕け散る。
広間に入ると同時に、貴族たちから向けられる視線。軽蔑と奇異の感情の入り混じった不快な視線。
それを一気に向けられた。
それは果たしてリーゼロッテに向けられているのか、隣に立つベルンハルトに向けられているのか、それすらもわからない距離で、ただただ拒否することもできない視線に晒される。
視線だけであれば、下を向いて見ないようにしてしまえばそれで済んだ。
それ以上に耐えられなかったのはふさぐことのできない耳から入ってくる声。
魔法が使えないことを嘲笑されるのは仕方ないと思っていた。今更、リーゼロッテの力ではどうにもならない問題。
きっと、ベルンハルトのあざだって、同じようなものだろう。それなのに。
『あの仮面の下に、醜いあざが広がっているらしいわ』
『ロイエンタール家の者に出てくる龍の鱗のあざでしょう?』
『何百年も前に、龍と契ったと聞いたわ。ロイエンタール家の者はその末裔だそうよ』
『龍の血が混じっているから龍を率いることができるのよ。あのおぞましい獣の血だなんて』
『いくら魔力がないとは言っても、国王陛下もそのようなところに娘を嫁がせる必要もないでしょうに』
『魔力がないからなのよ』
『ロイエンタール家は魔力が強すぎて、いつ敵対勢力となるかわからないんですって』
『次に生まれる子どもの魔力が少なくなる様にってこと?』
『この国の貴族たちは国王が認めないと結婚も離婚もできないもの。あの二人はもう添い遂げるしかないのよ』
『まぁ、お可哀想に』
嘘か本当かもわからぬ内容を、さも真実の様に語る声は、用意された席についているリーゼロッテの耳を汚す。隣に座っているベルンハルトにも当然聞こえているだろう。
リーゼロッテが誰にもばれぬように、そっと隣を盗み見れば、ベルンハルトは広間に入る前に見せていた顔を崩すことなく、平然とした顔で座っている。
その顔からは何の感情も、うかがい知ることはできない。すぐ近くにいるはずのベルンハルトの気持ちもわからない。
リーゼロッテはこの広間でたった一人、底のない孤独を感じていた。
「リーゼロッテ王女」
体中を覆いつくしてしまうような孤独と一人戦っていたリーゼロッテに声をかけてきたのは、ベルンハルトだった。
「はい。何でしょうか」
「ここから、退席されますか?」
ベルンハルトの言葉に、体が小さく反応するのがわかった。退席など、許されるはずもないと思っていたからこそ、その言葉に心が弾んでしまう。
「できるのですか?」
「えぇ。私さえ残れば、国王には叱られないように対処しておけますから」
「それでは……」
退席するのはリーゼロッテだけということだ。
この不快な席に、一人で残るベルンハルトのことを思う。
(私一人で……逃げるの?)
答えに詰まったローゼロッテがベルンハルトを見つめていると、その口元が小さく微笑みを作り出した。あの夜、温室で向けられた口元。全てを任せておけばいいと、そう思ってしまいそうになる。
「いえ。わたくしも残ります」
『おあいこ』だと言った時の本当の笑顔。リーゼロッテが嫌な思いをしたら……と謝ってくれた人。
そんなベルンハルトをこんな場に一人で残しておけないと、楽な道への選択を自ら手放す。
「大丈夫、ですか?」
「はい」
大きく深呼吸をし、肺一杯に空気を取り込んで、リーゼロッテはお腹に力を入れた。夜会も既に中盤をすぎたはず。奥歯に力を入れて、唇をかみしめた。
「リーゼロッテ王女はダンスは得意ですか?」
「え? え、えぇ。苦手ではありませんわ」
魔法を使えないこと以外で見下されぬように、リーゼロッテはその他の嗜みには人一倍力を入れて学んでいる。社交のデビューが遅くなったこともあって、その腕前は誰の前に出ても、文句を言われることがないくらいだ。
「ちょうど曲が変わります。私と、お相手願えますか?」
ベルンハルトがリーゼロッテの目の前に掌を差し出す。
広間の中央では何人かの貴族たちがダンスを披露していた。その場に出ていくというのか。ただでさえ変な目を向けられているというのに、わざわざ注目されに行くと。
「ふふっ。喜んで」
リーゼロッテはベルンハルトの手を取った。更なる注目を浴びに行こう。これ以上見下されることもないだろう。それならば、何だってやってしまえばいいじゃない。
二人は作り上げた笑顔を張り付けて、中央へと出て行った。
53
あなたにおすすめの小説
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。
まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。
泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。
それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ!
【手直しての再掲載です】
いつも通り、ふんわり設定です。
いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*)
Copyright©︎2022-まるねこ
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる
あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。
魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。
しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる