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新しい土地には、何やら事情があるようです
ロイスナーでの暮らし 3
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執務室を出てすぐの階段を上がっていった先にリーゼロッテの為に用意された部屋があった。
部屋に入れば、立派な調度品が所狭しと並んでいて、シュレンタットの城の自室よりも贅沢な部屋に目を見張る。
「こちらをご自由にお使いください」
「こ、こんなお部屋をわたくしが使うのですか?」
「リーゼロッテ様にご不便をおかけしない様にと、ベルンハルト様に申し付けられております。もし使いづらい所がありましたら、仰ってください。すぐにでも交換いたします」
アルベルトの声に、リーゼロッテは改めて部屋の中を見渡し、使い慣れたソファが設置されていることに安堵の息をもらした。
「ソファも運び入れて下さったのね。これでもう十分です」
リーゼロッテは愛用のソファに腰を下ろすと、その身を背もたれに預ける。
「リーゼロッテ様がソファだけはお持ちになるとのことでしたので、そちらに置かせていただきました。配置も気に入らなければ何なりと」
「いいえ。こんなに素敵なお部屋、ありがとうございます。感謝いたします」
「それで、大変申し上げにくいのですが」
「何かありましたか?」
「専属の侍女、なのですが……」
アルベルトの顔が見る見るうちに曇っていく。
侍女が決まらなかったのだろうか。王城でも使用人たちが押し付けあっていたのを、リーゼロッテは知っている。専属などいらない、自分のことは自分でやってきた。
普段の仕事の中に、リーゼロッテのことを入れてくれるだけでいいのだが。
(それすらも、断られているのかもしれない)
リーゼロッテの顔色が悪くなっていくのがわかったであろうアルベルトが、大きく頭を下げた。
「申し訳ありません。お恥ずかしながらロイエンタール家では、これ以上継続して使用人を雇う余裕がありません」
「……へ?」
アルベルトの思わぬ言葉に、聞いたこともない様な音がリーゼロッテの口から漏れる。
「いまの時期は大丈夫なのです。ただ、冬になり領地全体での食糧が不足し始めると、ベルンハルト様は領民へと財を放出してしまうので」
「財を……ほうしゅつ?」
「食糧にして分け与えてしまわれるのです」
アルベルトの口から紡がれる言葉は、リーゼロッテの想像もつかないものばかりで、その言葉たちは塊となって頭の中の迷宮を彷徨う。
「え……っと。ちょ、ちょっと待って」
「はい。何でしょう」
「雇うことができなかったというのは、わたくしの専属になるから、ということではなくて?」
「はい?」
「ですから、わたくしの専属侍女となるのが嫌で、断られたのではなくて?」
「どうしてでしょうか?」
「どうして……って」
周りに受け入れてもらえない理由を、自らの口で語るというのは、さすがにリーゼロッテでもためらわれてしまう。
「リーゼロッテ様の……ベルンハルト様の奥様になられる方の専属となることを、誰が嫌がりましょうか」
「誰って……」
「なりたい者は山の様にいるはずです。ただそれを雇うだけの余裕がありません。低い賃金で雇えば、質の悪い者が集まります。それだけは避けたいのです」
避けたい理由はリーゼロッテにもわかる。ここには重要なものも多く保管されているはずだ。新しく雇った者がそういったものに目を奪われないとも限らない。
だからこそ、満足するだけの賃金を出すべきで。
それができないから雇えないと、アルベルトの話はそういうことらしい。
「それでしたら、このお部屋は随分とご無理なされたのでは?」
「それは……」
アルベルトの目が宙を泳ぐ。目は口ほどに物を言うとは、正にこういうことをいうのだろう。
「このように素晴らしいものを揃える必要はなかったのに」
「そう、仰らないで下さい。これはベルンハルト様の意地です。王族から奥様を迎え入れるに当たって、せめてこれぐらいのことをするべきだと、自ら吟味されておりました。受け取っていただけるとありがたいのです」
アルベルトの眉が困り果てたように中央に寄る。
この件での彼の苦労が滲み出ていた。
「ふふ。大変だったのね」
「いえ。ベルンハルト様のお考えを実行するのが私の役目ですから。ただ、専属だけは……申し訳ありません」
話しながらようやく上を向いていたアルベルトの頭が、再び大きく下げられる。
「頭を上げてください。専属なんていりません。シュレンタットでもいなかった様なものです。皆様のお仕事を増やしてしまうのが申し訳ないのですが、お食事やお掃除をお願いできればそれで」
「そんなことは、もちろんでございます」
「それでは、侍女の件はもう良いですね。お部屋も十分です。交換など必要ありません。本当に素敵なお部屋を、ありがとうございます」
リーゼロッテはソファから立ち上がり、頭を下げた。
使用人に頭を下げるべきではない、そんなことはリーゼロッテも知っている。
だが、これほどの用意をしてくれたことに、リーゼロッテの為にされた配慮に、ここは頭を下げるべきだと、そう思った。
「リ、リーゼロッテ様……」
「うふふ。皆様には内緒にして下さいね。特に、ベルンハルト様には」
そう言って、先程のように内緒のポーズを作る。
「リ……奥様。かしこまりました」
「まぁ。それでは、これからよろしくお願いします」
アルベルトがリーゼロッテのことを『奥様』と呼び変えてくれたことに、受け入れてもらえた安心感を得る。
ロイスナーでの生活に、新たな希望を見出した。
部屋に入れば、立派な調度品が所狭しと並んでいて、シュレンタットの城の自室よりも贅沢な部屋に目を見張る。
「こちらをご自由にお使いください」
「こ、こんなお部屋をわたくしが使うのですか?」
「リーゼロッテ様にご不便をおかけしない様にと、ベルンハルト様に申し付けられております。もし使いづらい所がありましたら、仰ってください。すぐにでも交換いたします」
アルベルトの声に、リーゼロッテは改めて部屋の中を見渡し、使い慣れたソファが設置されていることに安堵の息をもらした。
「ソファも運び入れて下さったのね。これでもう十分です」
リーゼロッテは愛用のソファに腰を下ろすと、その身を背もたれに預ける。
「リーゼロッテ様がソファだけはお持ちになるとのことでしたので、そちらに置かせていただきました。配置も気に入らなければ何なりと」
「いいえ。こんなに素敵なお部屋、ありがとうございます。感謝いたします」
「それで、大変申し上げにくいのですが」
「何かありましたか?」
「専属の侍女、なのですが……」
アルベルトの顔が見る見るうちに曇っていく。
侍女が決まらなかったのだろうか。王城でも使用人たちが押し付けあっていたのを、リーゼロッテは知っている。専属などいらない、自分のことは自分でやってきた。
普段の仕事の中に、リーゼロッテのことを入れてくれるだけでいいのだが。
(それすらも、断られているのかもしれない)
リーゼロッテの顔色が悪くなっていくのがわかったであろうアルベルトが、大きく頭を下げた。
「申し訳ありません。お恥ずかしながらロイエンタール家では、これ以上継続して使用人を雇う余裕がありません」
「……へ?」
アルベルトの思わぬ言葉に、聞いたこともない様な音がリーゼロッテの口から漏れる。
「いまの時期は大丈夫なのです。ただ、冬になり領地全体での食糧が不足し始めると、ベルンハルト様は領民へと財を放出してしまうので」
「財を……ほうしゅつ?」
「食糧にして分け与えてしまわれるのです」
アルベルトの口から紡がれる言葉は、リーゼロッテの想像もつかないものばかりで、その言葉たちは塊となって頭の中の迷宮を彷徨う。
「え……っと。ちょ、ちょっと待って」
「はい。何でしょう」
「雇うことができなかったというのは、わたくしの専属になるから、ということではなくて?」
「はい?」
「ですから、わたくしの専属侍女となるのが嫌で、断られたのではなくて?」
「どうしてでしょうか?」
「どうして……って」
周りに受け入れてもらえない理由を、自らの口で語るというのは、さすがにリーゼロッテでもためらわれてしまう。
「リーゼロッテ様の……ベルンハルト様の奥様になられる方の専属となることを、誰が嫌がりましょうか」
「誰って……」
「なりたい者は山の様にいるはずです。ただそれを雇うだけの余裕がありません。低い賃金で雇えば、質の悪い者が集まります。それだけは避けたいのです」
避けたい理由はリーゼロッテにもわかる。ここには重要なものも多く保管されているはずだ。新しく雇った者がそういったものに目を奪われないとも限らない。
だからこそ、満足するだけの賃金を出すべきで。
それができないから雇えないと、アルベルトの話はそういうことらしい。
「それでしたら、このお部屋は随分とご無理なされたのでは?」
「それは……」
アルベルトの目が宙を泳ぐ。目は口ほどに物を言うとは、正にこういうことをいうのだろう。
「このように素晴らしいものを揃える必要はなかったのに」
「そう、仰らないで下さい。これはベルンハルト様の意地です。王族から奥様を迎え入れるに当たって、せめてこれぐらいのことをするべきだと、自ら吟味されておりました。受け取っていただけるとありがたいのです」
アルベルトの眉が困り果てたように中央に寄る。
この件での彼の苦労が滲み出ていた。
「ふふ。大変だったのね」
「いえ。ベルンハルト様のお考えを実行するのが私の役目ですから。ただ、専属だけは……申し訳ありません」
話しながらようやく上を向いていたアルベルトの頭が、再び大きく下げられる。
「頭を上げてください。専属なんていりません。シュレンタットでもいなかった様なものです。皆様のお仕事を増やしてしまうのが申し訳ないのですが、お食事やお掃除をお願いできればそれで」
「そんなことは、もちろんでございます」
「それでは、侍女の件はもう良いですね。お部屋も十分です。交換など必要ありません。本当に素敵なお部屋を、ありがとうございます」
リーゼロッテはソファから立ち上がり、頭を下げた。
使用人に頭を下げるべきではない、そんなことはリーゼロッテも知っている。
だが、これほどの用意をしてくれたことに、リーゼロッテの為にされた配慮に、ここは頭を下げるべきだと、そう思った。
「リ、リーゼロッテ様……」
「うふふ。皆様には内緒にして下さいね。特に、ベルンハルト様には」
そう言って、先程のように内緒のポーズを作る。
「リ……奥様。かしこまりました」
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アルベルトがリーゼロッテのことを『奥様』と呼び変えてくれたことに、受け入れてもらえた安心感を得る。
ロイスナーでの生活に、新たな希望を見出した。
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