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討伐って何ですか?
ベルンハルトの仕事 5
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「失礼します」と告げたヘルムートが部屋から出ていけば、途端にリーゼロッテの目からは大粒の涙が零れ落ちる。
ベルンハルトの魔力があるからこそ、他領地から攻められることはない。騎士の人数が少なくとも、それで構わないということだろう。
それでは、ベルンハルトに何かあれば?
どの貴族も、魔力の多い跡継ぎをと、第二第三の夫人を迎え入れ、子供を産ませているはずだ。
バルタザールはロイエンタール家をどうするつもりなのだろうか。
魔獣を討伐できなければ、国に危機が迫る。
それでも、そこまでして魔力を落としたいのか。
魔獣の討伐に騎士が役に立たないというのは、龍さえいれば魔法は必要ないということか?
ロイエンタール家が王家の敵対勢力となる未来は、あり得るのだろうか。
もし、リーゼロッテとベルンハルトの子の魔力が弱ければ、ロイスナーはどうなるのだろう。リーゼロッテのことを受け入れてくれた、この城の人たちや、ヘルムートやアルベルトはどうなってしまうのだろう。
騎士の数も少ないこの地の、領主であるベルンハルトがそこまで考えていないはずがない。
それでは何故?
ベルンハルトはこの結婚を承諾したのだろうか。
魔力の多い子を、誰かに産んでもらう気なのか。
魔力のないリーゼロッテとの子に、それは望めない。
国王の命令でリーゼロッテと結婚し、子供は他の女性に産んでもらうと?
(わたくしは、それを認めなければならないの)
リーゼロッテが部屋を見渡せば、一人では大きすぎるベッドが目に入る。この部屋で、自分以外の誰も横になったことのないベッド。
未だに夫婦になり切れていない気がするのはそのせいだろうか。
(キスさえもまだなのに)
夫婦らしいことを何一つする前に、第二夫人を娶ることを進言しなければいけないのだろうか。
わからないことがあれば、戻ってきてからと、確かにそう伝えたが、このことをどう聞けばいいのか。
全てを肯定されてしまったら、ベルンハルト自身に「その通りだ」と言われてしまったら。
その後に待ち受けるのは、地獄でしかない。
命じられただけの結婚。愛されることのない自分。
聞けるわけもない。
これが全てリーゼロッテの想像だとして、その中のどれ一つとして真実じゃないとして、それをどうやって確かめようか。
ベルンハルトに聞けないならば、確かめる術はない。
とめどなく溢れ出る涙が、リーゼロッテから気力を削ぎ落とす。
一週間で戻るはずのベルンハルトと、どう顔を会わせれば良いのだろう。
何も知らないフリをして、その口から真実が語られる日まで、これまでのように振る舞えるだろうか。
そんな真似をすれば、取り返しのつかないほどに嫌われてしまわないだろうか。
考えれば考えるほど悪いことしか思い浮かばず、それからの日々はただただ無気力に時間を消費した。
執事長に戻ったヘルムートも忙しく立ち回っており、あの日以降落ち着いて話もできない。
リーゼロッテの思考は堂々巡りで、その暗雲は晴れることを知らない外の雪雲のようだ。
「奥様、失礼します」
「どうぞ」
「間もなくベルンハルト様が戻られます。先日は色々話しすぎたかもしれません」
ヘルムートと話ができたのは、ベルンハルトが城を出てちょうど六日後のこと。
リーゼロッテは自分の中から湧いて出る不快な考えを、払拭することができず、あふれ出る涙を止められずにいた。
「そんなことありません。教えていただけて良かったのです」
早めに現実を知ることができた。それだけが救いだった。
「奥様、お願いします。ベルンハルト様のことを、避けずにいてください」
ヘルムートの突然の頼みごとに、目を見張る。このままの態度を続ければ、嫌われてしまうかもしれないというのに、避けずにいろというのは、どういうことか。
「ベルンハルト様は間違いなく、奥様とご結婚されて変わりました。使用人の立場で、おこがましいお願いであるというのは重々承知の上です。それでも、奥様にお願いするしかないのです」
「わたくしでは……」
「奥様が懸念されていることも理解しているつもりです。ベルンハルト様に、そのようなお心づもりはないはずです」
「真意は、わからないと」
「はい、そう申し上げました。それでも、今奥様に避けられてしまえば、ベルンハルト様はまた何もかもを遠ざけるようになってしまわれる。もう、以前のように戻っていただきたくはないのです」
ヘルムートの話す『以前』というのがいつのことかはわからない。
ただ、その時のベルンハルトは今より酷い状態だったのだろうというのだけは、想像がつく。
「わたくしが避けなければ、その頃に戻ることはないと?」
「はい」
ヘルムートの言葉を聞きながら、リーゼロッテは思わず目を瞑った。
何も知らなかったように、これまでと同じように。それはリーゼロッテにとって酷く難しいことだ。
嫌われてしまうかもしれないと、そんな不安を抱えながら、それを隠し通す。
想像するだけで、頭が痛い。胸焼けしたような不快感が胃のなかに広がる。
「わかりました」
しばらくの間、自分の中に込み上げてくる不快なものたちと戦い、そしてその全てを抑えこんで、リーゼロッテはヘルムートに笑顔を見せた。
ロイスナーに来てから、ヘルムートにも、この城の人にもお世話になった。
ベルンハルトが本心を打ち明けてくれるその日まで、第二夫人を娶るその時まで、精一杯の恩返しをしよう。
ベルンハルトの魔力があるからこそ、他領地から攻められることはない。騎士の人数が少なくとも、それで構わないということだろう。
それでは、ベルンハルトに何かあれば?
どの貴族も、魔力の多い跡継ぎをと、第二第三の夫人を迎え入れ、子供を産ませているはずだ。
バルタザールはロイエンタール家をどうするつもりなのだろうか。
魔獣を討伐できなければ、国に危機が迫る。
それでも、そこまでして魔力を落としたいのか。
魔獣の討伐に騎士が役に立たないというのは、龍さえいれば魔法は必要ないということか?
ロイエンタール家が王家の敵対勢力となる未来は、あり得るのだろうか。
もし、リーゼロッテとベルンハルトの子の魔力が弱ければ、ロイスナーはどうなるのだろう。リーゼロッテのことを受け入れてくれた、この城の人たちや、ヘルムートやアルベルトはどうなってしまうのだろう。
騎士の数も少ないこの地の、領主であるベルンハルトがそこまで考えていないはずがない。
それでは何故?
ベルンハルトはこの結婚を承諾したのだろうか。
魔力の多い子を、誰かに産んでもらう気なのか。
魔力のないリーゼロッテとの子に、それは望めない。
国王の命令でリーゼロッテと結婚し、子供は他の女性に産んでもらうと?
(わたくしは、それを認めなければならないの)
リーゼロッテが部屋を見渡せば、一人では大きすぎるベッドが目に入る。この部屋で、自分以外の誰も横になったことのないベッド。
未だに夫婦になり切れていない気がするのはそのせいだろうか。
(キスさえもまだなのに)
夫婦らしいことを何一つする前に、第二夫人を娶ることを進言しなければいけないのだろうか。
わからないことがあれば、戻ってきてからと、確かにそう伝えたが、このことをどう聞けばいいのか。
全てを肯定されてしまったら、ベルンハルト自身に「その通りだ」と言われてしまったら。
その後に待ち受けるのは、地獄でしかない。
命じられただけの結婚。愛されることのない自分。
聞けるわけもない。
これが全てリーゼロッテの想像だとして、その中のどれ一つとして真実じゃないとして、それをどうやって確かめようか。
ベルンハルトに聞けないならば、確かめる術はない。
とめどなく溢れ出る涙が、リーゼロッテから気力を削ぎ落とす。
一週間で戻るはずのベルンハルトと、どう顔を会わせれば良いのだろう。
何も知らないフリをして、その口から真実が語られる日まで、これまでのように振る舞えるだろうか。
そんな真似をすれば、取り返しのつかないほどに嫌われてしまわないだろうか。
考えれば考えるほど悪いことしか思い浮かばず、それからの日々はただただ無気力に時間を消費した。
執事長に戻ったヘルムートも忙しく立ち回っており、あの日以降落ち着いて話もできない。
リーゼロッテの思考は堂々巡りで、その暗雲は晴れることを知らない外の雪雲のようだ。
「奥様、失礼します」
「どうぞ」
「間もなくベルンハルト様が戻られます。先日は色々話しすぎたかもしれません」
ヘルムートと話ができたのは、ベルンハルトが城を出てちょうど六日後のこと。
リーゼロッテは自分の中から湧いて出る不快な考えを、払拭することができず、あふれ出る涙を止められずにいた。
「そんなことありません。教えていただけて良かったのです」
早めに現実を知ることができた。それだけが救いだった。
「奥様、お願いします。ベルンハルト様のことを、避けずにいてください」
ヘルムートの突然の頼みごとに、目を見張る。このままの態度を続ければ、嫌われてしまうかもしれないというのに、避けずにいろというのは、どういうことか。
「ベルンハルト様は間違いなく、奥様とご結婚されて変わりました。使用人の立場で、おこがましいお願いであるというのは重々承知の上です。それでも、奥様にお願いするしかないのです」
「わたくしでは……」
「奥様が懸念されていることも理解しているつもりです。ベルンハルト様に、そのようなお心づもりはないはずです」
「真意は、わからないと」
「はい、そう申し上げました。それでも、今奥様に避けられてしまえば、ベルンハルト様はまた何もかもを遠ざけるようになってしまわれる。もう、以前のように戻っていただきたくはないのです」
ヘルムートの話す『以前』というのがいつのことかはわからない。
ただ、その時のベルンハルトは今より酷い状態だったのだろうというのだけは、想像がつく。
「わたくしが避けなければ、その頃に戻ることはないと?」
「はい」
ヘルムートの言葉を聞きながら、リーゼロッテは思わず目を瞑った。
何も知らなかったように、これまでと同じように。それはリーゼロッテにとって酷く難しいことだ。
嫌われてしまうかもしれないと、そんな不安を抱えながら、それを隠し通す。
想像するだけで、頭が痛い。胸焼けしたような不快感が胃のなかに広がる。
「わかりました」
しばらくの間、自分の中に込み上げてくる不快なものたちと戦い、そしてその全てを抑えこんで、リーゼロッテはヘルムートに笑顔を見せた。
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