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国のことは国王に任せておきましょう
王城で 2
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「あのような者を一緒に連れてくるとは、ロイエンタール伯爵は人が良いのだな」
(この男、まだそのようなことを言っているのか)
「お言葉ですが、リーゼロッテは私には勿体ないほどの女性です。王都には見ものも多いですし、何より妻の故郷です。連れてくるのは当然というものです」
バルタザールとの謁見が始まってから、心の中で何度目かの悪態をつきながらベルンハルトは口元だけで笑顔を作り上げた。赤く染まる顔色は隠せなくとも、眉間によるシワや不快感で引きつる目元を覆い隠す仮面は、普段は枷でしかなくともこのような時は頼もしい味方だと思う。
「故郷を懐かしむのは好きにすれば良いが、重要な話し合いの場にまで連れてくるというのは、どういう了見か」
「親子ですし、積もる話もあるのではないかと……ただそれだけですよ」
積もる話などあるわけもないだろう。土魔法が使えるリーゼロッテも、バルタザールからの話を聞くべきだと考えただけだ。
それにしても、こんな不快な言葉の応酬をリーゼロッテに聞かせずに済んだのは、幸いであった。
(リーゼを追い出してくれたことに、感謝しなくてはな)
「何故リーゼロッテがこのような場にいるのだ?」
謁見のため、バルタザールの面前に通された二人は、その一言に体を硬直させた。
「妻が同席することに、何か問題がありますか?」
「これから話すべきことは、国の重要機密だ。そのような場に魔法も使えぬ役立たずが同席する必要はないだろう」
実の父親とも思えないその言葉に、ベルンハルトは体中の血液が怒りで沸騰してしまうかと思った。腸が煮えくり返るほどの感情を、言葉にして全てぶつけてしまうところだった。
だが、そうすれば待ち受けるのは反逆罪。領地のために、何よりリーゼロッテのために、堪えるしかない。
「わ、わたくし失礼いたします」
体を震わせながらリーゼロッテがその場を立ち去ろうとする。その表情に見えるのは怒りではなく恐怖。未だにバルタザールはリーゼロッテにとって恐怖の対象で、その言葉はリーゼロッテ自身を深く傷つけた。
(まだ、早かったか)
ロイスナーで鮮やかに笑ってみせるリーゼロッテであれば、バルタザールと対峙することも平気になっているのではないかと思っていた。
王城では酷い扱いを受けていたと聞いてはいたが、これほどとは。
リーゼロッテが故郷を『あんな場所』と言った気持ちが痛いほど理解できる。
このような場所、二度と来たくはないだろう。
一人で扉から出ていこうとするリーゼロッテの背中を追って、その場を立ち去ろうとすれば、目の前に立ちはだかったのはエーリックだった。魔力にものを言わせて、力任せに押しきることだってできた。
ただ、それをしてしまえば、やはり反逆罪に問われるだろう。
『常にそばにいるから』そう言ったのに。あっさりとその距離を引き裂かれる。
王族を前にした、自分の無力さを恨めしく思う。
リーゼロッテの後を追うことを諦めて、投げやりにその身を椅子に押し付けた。後は一刻も早く話を終わらせてこの場から立ち去ること。ベルンハルトにできることはそれだけだ。
リーゼロッテのことはアルベルトに任せておけばいい。何が起こるかわからないからと、王城ではベルンハルトよりもリーゼロッテを優先するようにと伝えてある。
身に危険が迫れば、魔力で圧倒できるベルンハルトよりも危ないのは、土魔法しか使えないリーゼロッテだ。
アルベルトならばこの部屋から出ていったリーゼロッテにもすぐに気がつくだろう。そしてベルンハルトが戻るまでの間、そばにいてくれるはずだ。
アルベルトの優秀さと、力に頼るしかなかった。
「積もる話など、あるわけもない」
バルタザールがエーリックに視線を送れば、エーリックは軽く頭を下げて部屋から出ていく。
人払いが済んだとなれば、ようやく本題に移れるということか。
「エーリック様は、同席なさらないのですか?」
「あいつにはまだ、何も伝えていないからな」
その一言で、バルタザールが話そうとしていることが、ベルンハルトの予想通り受け継がれている秘匿事項だとわかる。領主であるベルンハルトならば同様のものを受け継いでいると、確信しているのだろう。
「そうですか」
「そろそろだとは思っていても、まだ王位を譲るつもりもないからな」
「国王陛下にも、お考えがあると思いますから」
王位がどうなろうと、正直どうだって良い。リーゼロッテに、ロイスナーに被害がなければ、誰がなったって何も変わりはしない。
「それで、魔獣の話だったか?」
「はい。国境のすぐ先の森に出没する魔獣の動きが活発化していると報告を受けました。例年、冬にその傾向が強く、この時期の動きとしては珍しいことです。前回、前々回の討伐では見たこともない魔獣も現れており、少々気にすべきことかと考え、謁見を申し出た次第です」
「ロイエンタール伯爵も大怪我を負ったと聞いたが」
「それは、もうご心配なく。今では何の影響もございませんから」
「それは何よりだ。まだまだ伯爵には活躍してもらわねばならないからな」
バルタザールのわざとらしい言葉に、ベルンハルトは背筋に寒気を覚える。
(私がそのまま命を落とすことを願っていただろうに)
バルタザールを上回る魔力を持っていたからといって、王家に反旗を翻すつもりもなければ、国王になどなりたいと思ったこともない。
それでも、バルタザールがベルンハルトを恐れているのは、その魔力の強さゆえ。
魔力がないと考えられていたリーゼロッテを結婚相手にと言い出した狙いもベルンハルトは了承済みだった。
魔力の少ない跡継ぎどころか、ロイエンタールは自分が最後になるだろうと思っていたのだから、誰が相手であっても構わなかった。
家の存続などとうの昔に諦め、結婚などするつもりも、できるはずもなかった自分に降ってきた奇跡。
相手がリーゼロッテだとわかったときの衝撃は、言葉にすることもできない。人生でたった一人、ベルンハルトが想いを寄せた女性。
(この男、まだそのようなことを言っているのか)
「お言葉ですが、リーゼロッテは私には勿体ないほどの女性です。王都には見ものも多いですし、何より妻の故郷です。連れてくるのは当然というものです」
バルタザールとの謁見が始まってから、心の中で何度目かの悪態をつきながらベルンハルトは口元だけで笑顔を作り上げた。赤く染まる顔色は隠せなくとも、眉間によるシワや不快感で引きつる目元を覆い隠す仮面は、普段は枷でしかなくともこのような時は頼もしい味方だと思う。
「故郷を懐かしむのは好きにすれば良いが、重要な話し合いの場にまで連れてくるというのは、どういう了見か」
「親子ですし、積もる話もあるのではないかと……ただそれだけですよ」
積もる話などあるわけもないだろう。土魔法が使えるリーゼロッテも、バルタザールからの話を聞くべきだと考えただけだ。
それにしても、こんな不快な言葉の応酬をリーゼロッテに聞かせずに済んだのは、幸いであった。
(リーゼを追い出してくれたことに、感謝しなくてはな)
「何故リーゼロッテがこのような場にいるのだ?」
謁見のため、バルタザールの面前に通された二人は、その一言に体を硬直させた。
「妻が同席することに、何か問題がありますか?」
「これから話すべきことは、国の重要機密だ。そのような場に魔法も使えぬ役立たずが同席する必要はないだろう」
実の父親とも思えないその言葉に、ベルンハルトは体中の血液が怒りで沸騰してしまうかと思った。腸が煮えくり返るほどの感情を、言葉にして全てぶつけてしまうところだった。
だが、そうすれば待ち受けるのは反逆罪。領地のために、何よりリーゼロッテのために、堪えるしかない。
「わ、わたくし失礼いたします」
体を震わせながらリーゼロッテがその場を立ち去ろうとする。その表情に見えるのは怒りではなく恐怖。未だにバルタザールはリーゼロッテにとって恐怖の対象で、その言葉はリーゼロッテ自身を深く傷つけた。
(まだ、早かったか)
ロイスナーで鮮やかに笑ってみせるリーゼロッテであれば、バルタザールと対峙することも平気になっているのではないかと思っていた。
王城では酷い扱いを受けていたと聞いてはいたが、これほどとは。
リーゼロッテが故郷を『あんな場所』と言った気持ちが痛いほど理解できる。
このような場所、二度と来たくはないだろう。
一人で扉から出ていこうとするリーゼロッテの背中を追って、その場を立ち去ろうとすれば、目の前に立ちはだかったのはエーリックだった。魔力にものを言わせて、力任せに押しきることだってできた。
ただ、それをしてしまえば、やはり反逆罪に問われるだろう。
『常にそばにいるから』そう言ったのに。あっさりとその距離を引き裂かれる。
王族を前にした、自分の無力さを恨めしく思う。
リーゼロッテの後を追うことを諦めて、投げやりにその身を椅子に押し付けた。後は一刻も早く話を終わらせてこの場から立ち去ること。ベルンハルトにできることはそれだけだ。
リーゼロッテのことはアルベルトに任せておけばいい。何が起こるかわからないからと、王城ではベルンハルトよりもリーゼロッテを優先するようにと伝えてある。
身に危険が迫れば、魔力で圧倒できるベルンハルトよりも危ないのは、土魔法しか使えないリーゼロッテだ。
アルベルトならばこの部屋から出ていったリーゼロッテにもすぐに気がつくだろう。そしてベルンハルトが戻るまでの間、そばにいてくれるはずだ。
アルベルトの優秀さと、力に頼るしかなかった。
「積もる話など、あるわけもない」
バルタザールがエーリックに視線を送れば、エーリックは軽く頭を下げて部屋から出ていく。
人払いが済んだとなれば、ようやく本題に移れるということか。
「エーリック様は、同席なさらないのですか?」
「あいつにはまだ、何も伝えていないからな」
その一言で、バルタザールが話そうとしていることが、ベルンハルトの予想通り受け継がれている秘匿事項だとわかる。領主であるベルンハルトならば同様のものを受け継いでいると、確信しているのだろう。
「そうですか」
「そろそろだとは思っていても、まだ王位を譲るつもりもないからな」
「国王陛下にも、お考えがあると思いますから」
王位がどうなろうと、正直どうだって良い。リーゼロッテに、ロイスナーに被害がなければ、誰がなったって何も変わりはしない。
「それで、魔獣の話だったか?」
「はい。国境のすぐ先の森に出没する魔獣の動きが活発化していると報告を受けました。例年、冬にその傾向が強く、この時期の動きとしては珍しいことです。前回、前々回の討伐では見たこともない魔獣も現れており、少々気にすべきことかと考え、謁見を申し出た次第です」
「ロイエンタール伯爵も大怪我を負ったと聞いたが」
「それは、もうご心配なく。今では何の影響もございませんから」
「それは何よりだ。まだまだ伯爵には活躍してもらわねばならないからな」
バルタザールのわざとらしい言葉に、ベルンハルトは背筋に寒気を覚える。
(私がそのまま命を落とすことを願っていただろうに)
バルタザールを上回る魔力を持っていたからといって、王家に反旗を翻すつもりもなければ、国王になどなりたいと思ったこともない。
それでも、バルタザールがベルンハルトを恐れているのは、その魔力の強さゆえ。
魔力がないと考えられていたリーゼロッテを結婚相手にと言い出した狙いもベルンハルトは了承済みだった。
魔力の少ない跡継ぎどころか、ロイエンタールは自分が最後になるだろうと思っていたのだから、誰が相手であっても構わなかった。
家の存続などとうの昔に諦め、結婚などするつもりも、できるはずもなかった自分に降ってきた奇跡。
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