ただ愛されたいと願う

藤雪たすく

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愛されたいと願う

夢の中のキス

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この世に神様がいるのなら……。

生まれ変わりがあるのなら……。

僕は前世で何をしたのだろうか……。

これは前世の罪の贖いか……。

痺れて動かない体、ふりつける雨を拭うことも出来ず、目、鼻、口に流れ込む雨から逃げるように……静かに目を閉じた。

ーーーーーー

「海里君、上手になったわね」

家政婦の華絵さんが大袈裟に手を叩いて褒めてくれる。

秀哉さんの家に来てから、自由に過ごしてと言われているので、華絵さんの後ろにくっついて家事を習っている。

一人で一からやるのは無理だけど、華絵さんの邪魔にならないぐらいには出来る事が増えて来るのが楽しい。

今日はジャガイモと戦っている。

秀哉さんが仕事から帰って来るまでに間に合わせないと……。

最初の頃はよく指の皮も一緒に剥いてしまって華絵さんを心配させていたけれど、ゆっくりなら失敗しなくなった。

僕が一つ剥く間に華絵さんは三つ剥いていて……対して役には立ってないけれど、華絵さんはキッチンから追い出すこと無く気長に教えてくれる。

「秀哉君の苦手な野菜も海里君が頑張ったと言えば食べてくれるかしら?」

「秀哉さん苦手な野菜があるんですか?」

アルファは完璧だというイメージがあるから、食べ物の好き嫌いがあるなんて想像したことが無かった。

「ふふふ……人参よ。お子様みたいでしょ」

華絵さんはじゃ~んと効果音付きで野菜室から人参を取り出すと僕に手渡してきた。

「人参は全部海里君が頑張って切ったと言えば、きっと皆の分の人参まで全部食べようとするわよ」

頑張ってと言われて……そんなこと無いだろうと思いながらも、より丁寧に皮を剥いた。

雪先生と一緒に食べる夕飯を終えて……検診と食器を取りに秀哉さんの部屋に入っていった雪先生が出て来るのを廊下の陰に座って待った。

秀哉さん……食べてくれたかな?
お皿にいっぱい人参残ってたら……寂しいな。早くお皿を確認したい様なしたくない様な……そわそわ待っているとお皿を持った雪先生に頭をポンっと叩かれた。

「うわぁっ!!びっくりしたぁ……」

ドアを開く音も気配も全くなかったのに。

「はは……これでもアルファだからね。オメガに気付かれたない様に近づくなんて朝飯前……これが気になったんだろ?可愛い尻尾が見えてるよ」

雪先生の視線を追って背後を見ると、パタパタ尻尾が揺れていた。

恥ずかしいと思いつつ雪先生の差し出したお皿を見ると人参は一欠片も残ってない。
本当に全部食べてくれたんだ。嬉しくてしっぽが暴れだす。

「初々しいなぁ……海里君の為ならって秀哉君もいつも頑張ってるよ。秀哉君の為に美味しいご飯をよろしくね」

雪先生に頭を撫でられて気分が良くなる。
いっぱい、いっぱい料理を覚えて、秀哉さんに食べて貰って、早く元気になってもらいたい。

秀哉さんの治療の手伝いが出来るのが何よりも、嬉しかった。

ーーーーーー

秀哉さんの体調は変わらないまま……季節は変わり、夏がやって来た。

相変わらず僕と秀哉さんの関係はトークアプリのメッセージが増えていくだけだった。
それでも陸人に励まされ慰められながら秀哉さんの回復を信じて待ち続けていた。

「海里君?何だか今日は調子が悪そうね……」

華絵さんの心配そうな顔。
そんな顔をさせたくなくて、無理をしてでも笑ってないと、と思うのに……今まで感じた事の無いくらい体が重く感じる。

「何だか……朝から体が重くて……」

「夏バテかしら?今日は休んでて?秀哉君ももうすぐ帰ってくるわ。海里君が元気が無いと秀哉君が大騒ぎし始めるから……」

クスクスと華絵さんは笑った。
秀哉さんが騒いでいるところなんて想像出来ないけど……想像して、また頭がクラクラし始めたので、お言葉に甘える事にした。

でも二階の部屋まで行くのも億劫でリビングのソファーに座ると、少し仮眠を取るだけですと、言い訳をしながら横になった。

ーーーーーー

『海里君……』

水の中にいるみたいにぼんやりとした意識の中、秀哉さんの声が聞こえた。

髪を優しく撫でられる感覚にゆっくりと目を開くと、心配そうな……秀哉さんの顔が僕を覗き込んでくる。

こんなに近くで秀哉さんの顔を見たのはいつぶりだろう。

視界はぼんやりしていて秀哉さんの輪郭も曖昧で……。

夢かな……?
夢かも……
夢なら……

「秀哉さん……好きです……」

手を伸ばし……秀哉さんの首に腕を回すと秀哉さんにキスをした。マスクに邪魔をされてしまったけれど……夢ならマスクなんて外して欲しいとマスクに手を触れた。

「……っ!!う……ぐ……っ!!」

苦しそうな秀哉さんの声に、頭は瞬時に覚醒した。

倒れ込んだ秀哉さんは首を抑えながら長く細い息を吐いて、顔は真っ青に血の気が引いている。

「秀哉さん!!秀哉さんっ!!」

体に触れた僕の手を秀哉さんの手が掴み……その強さに骨が軋む。

「ゆ……きせん……せ……よ……で……」

「雪先生!?すぐに呼んできます!!」

いつもの状況よりも危険なことぐらい、さすがに僕にでもわかる。

耳を澄まして雪先生の気配を探りながら、全力で駆け出した。
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